第二章:月の契約
舞踏会の最中、ジュリエナは意図的にルチアのワインに毒を混入する──という、悪役令嬢の定番シナリオを演じた。
もちろん、毒は偽物。
彼女は「悪役」の役を演じつつ、自らの身を守るための策略を練る。
だが、その夜──
「ジュリエナ・ルミ・バルクロア、反逆の罪により逮捕する!」
突然、衛兵たちが彼女を取り囲んだ。
皇帝の命令だという。
「なにを……? 私は何も──」
「証拠は十分。ルチア嬢の毒殺未遂、王太子への脅迫、そして……禁忌の魔術の使用」
──魔術?
──そんなもの、使った覚えはない。
混乱の中、ジュリエナは牢獄に幽閉される。
そこは地下深く、月光さえ届かない暗闇。
だが、満月の夜──ガラスのない窓から、銀の風が吹き込んだ。
そして、彼女の前に現れたのは──銀色角を持ち、月明かりを纏う鹿の獣。
『ジュリエナ・ルミ・バルクロア。お前は、月喰いの一族と契約する資格がある』
声は、男とも女ともつかない。
だが、心に直接響く。
「なぜ……私を?」
『お前は、偽りの運命に縛られ、真の声を殺されている。だが、お前の中には、月の血が眠っている。私の花嫁となり、契約を結べば──お前は、運命を断ち切れる』
「……花嫁? あなたと?」
『人間と獣の契約。異類婚姻。禁忌だが、真実の力を持つ』
ジュリエナは、震えた。
だが、逃げ場はない。
処刑されれば、終わりだ。
「……承知したわ。契約する。あなたの花嫁になる」
獣は、角をかざし、ジュリエナの額に触れると──銀の紋が、額に刻まれた。
同時に、体中を走る熱。
記憶の断片が蘇る──幼い頃、母が囁いた言葉。
「ジュリエナ、お前は月の子。決して、人間だけのものではない」




