スピンオフ③.課外授業(後編)
「つきましたよ」
十数分後くらいだろうか。
突然エリーが止まったのでなにかと思い顔を上げると、そこには。
「──え」
凛々と一面に咲く花の海。
真黄色の菜花がそこかしこに咲き誇っていた。
ここだけ、樹々がない代わりに花々の群生地になっていたのだ。
風に乗ってほのかに甘い花の香りが鼻を擽る。
「きれい……」
思わず声が漏れる。
「こんなところあったんだね。さすがにあたしも初めて知った」
ガドも驚きを隠せないご様子。
じゃあ、知る人ぞ知る穴場なのだろうか。こんなきれいなところ、名所になっていてもおかしくはない。
「エリーはどこでこのお花畑の存在を知ったの?」
「知ったというか、昔ここでよく遊んだんです」
そう言うと、エリーは昔話をしてくれた。
その昔──まだエリーが5歳くらいの頃。
よくここに来ては姉や親とともに遊んでいたらしい。
花を愛でたり、花冠をつくったり。
とてもささやかな思い出だけど、本人にとっては宝物のような時間だったようで。
語るエリーの顔はどこか嬉しそうで、すこし寂しそうだった。
「私、先日も言いましたが、すずなさんの気持ちがわかるんです。ひとりで耐えて、救いのない毎日を歩み続ける。その気持ちが」
そう言うとエリーはしゃがみ、花を摘み始める。
「私も小さな頃は姉と比べられました。姉の方がいろいろできましたからね。お父さまやお母さまと暮らしていた頃も、孤児院に入れられていた頃も。だから、あなたの『できないことをやるせなく思う気持ち』がよくわかります」
エリーの手は器用に花のツルを編み込んでいき、次第に縄のようになっていく。
「あなたと初めてお話しした時、『私と似てる』って思ったんです。もちろん警戒もしていましたし、疑ってもいました。でもなんだか感情がリアルで、不覚にも私はそれに共感しました」
エリーはおもむろに立ち上がると片手でメイド服のスカート部分を払い、花の縄の両隅を縛り固定する。
「すずなさん。これからもあなたは虐げられるでしょう。でも決して折れてはいけない。あなたはたしかに他人の代わりとして生きている。だけどそれは罪ではない。どちらかと言えば『罪意識』にあなたは苦しんでいると思う」
そう言うとエリーは私の頭上に両手を伸ばす。
ふわりとエリーのかおりがする。指先が耳をかすめ、ほのかにあたたかさが伝わる。
「しっかり生きて、しっかり自分を赦してあげてください。そうでないと浮かばれません。今日はそれを言いたくてここに来たんです」
エリーはにこやかにはにかみ笑う。
私は──
「あたしは、え、結局何すればいいの、かな」
「すずなさんを抱きしめてあげてください」
「えぇ……いっきなりハードだなぁ」
ガドの胸がおでこに当たるのを感じて、ああ私は抱きしめられていると自覚する。
見上げるとガドは困りながらも優しく微笑んでくれて、ちょっとだけ母の面影があった。
──異世界人になんども心救われる私は、変なのだろうか。
異世界でなんども挫けそうになる私は、不甲斐ないのだろうか。
私は、私を赦せるのだろうか。
とりあえず、しばらくこうして人肌に触れていたいと思った。
でなければ、どうにかなってしまいそうだった。




