スピンオフ②.聖地シュケーオンにて(後編)
「トモリ様には本当にお世話になりました。しかしもう穏健と教会のために尽くせないのは事実。ただの老いぼれです」
「そんなことないですわスタビリス卿。今もこうしてシレンチウム家の後ろ盾になってくださっているではありませんか」
慌ててハナモモが口を挟む。
そうするとキッとトモリをけん制。
「あなた誰かれ構わず酷いこと言いすぎなんですよっ」
「えっそうなの?悪いねカロジャス」
そう言うとトモリはあっさりと頭を下げる。
それにカロジャスは苦笑い。
「……まぁ、ダリアが失速するまでは死ぬに死ねませんな」
「本当に。今スタビリス卿を失えば、穏健は内側から崩れかねません」
「ダリアって誰?新鋭?」
「ああ、トモリさんはまだお話したことないですよね」
──ダリア・クルデイル。
過激派に突如として現れた「新時代の担い手」。
……と言うと過言だが、とにかく彼は時代を変える人間。人に「コイツに付いていけばすべてうまくいく」と思わせるだけのエネルギーがあるのだ。
「よくも悪くもカリスマ性があるんです、あの方は。でもちょっと極端すぎる。今の過激派は、クルデイル卿の一人歩きに全員がついて行っているイメージです」
「ふうん……」
トモリは考えてるのか考えてないのかわからないような声を上げる。
顔を見てみればとぼけ面である。
興味ないんだな、とハナモモはすぐさま察する。
そしてそれはカロジャスも察したようで。
「では私はこれにて。トモリ様、どうか神のご加護のあらんことを」
「おーう。また会う時まで死ぬなよー」
トモリは椅子いっぱいに体重を預けながら、後ろの扉へ歩いていくカロジャスに手の甲を見せる。
「トモリ様姿勢悪い」
「別にいーだろー、身内しかいないんだから」
「はっはっは……」
カロジャスは一人笑いながら部屋を後にする。
─*─*─*─
「で?私に何の用なのさ」
「トモリさん、また何か企んでません?」
「え?」
部屋にはトモリの声がこだまする。
ハナモモはトモリの瞳の裏を見透かす。
「やっぱり何かやってますよね。言っておきますが」
「わーってるよ。ニジ教会にはなんもしない」
「ありがとうございます。こちらも娘が大司教やってるので、困るんです」
「だからなんもしないって」
うっとうしそうな、困った様子のトモリはハナモモの肩に手を当てる。
「ハナモモは私のこと胡散臭いとか思ってんだろうけどね、私にも情ってのはあるんだよ。お前も娘だ」
「……ふふ。言質取りましたからね」
そう言うとハナモモはからからと笑う。
それにトモリは苦笑い。
「ほんとあなた脅しが上手くなったね……」
「母親譲りです」
ハナモモの爛漫の笑顔にトモリはまた顔を歪める。
でもなんだかふたりとも嬉しそう。
窓からのぞくシュケーオンの空はいつにも増して穏やかに晴れ渡っている。
「私そんなに怖くないでしょ」
「鏡見てきてください」
「え、失礼だよねそれ」




