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ことだまの紡ぎ手  作者: 大場景
ふたばの章
39/39

スピンオフ①.リリーの一日(後編)

 みんな優しい子。

 とは言っても、「WM(あの子たち)」はちと厄介である。


「あなたたち……いつからそこに?」

「さっき」

「さっきって、ただいまくらい言ったらどうです」

「あれ、りょーしゅはー?」

「話聞いてますか……」


 いつの間にか領主室でくつろいでいるのは、WM(ウェーブ)の面々。今日戻ってくるのは知っていたが、こうも突然戻られると困る。


 騒がしい奴らなのだ、彼らは。

 順に顔を見る。


「あれ、エムにエヌ。勢ぞろいじゃないですか」


 ──WM(ホワイトマント)。通称ウェーブ。

 トモリ様直属の特殊組織であり、その名称は「世の均衡を崩しうるほどに強力な言霊を持つ者の集まり」であることに由来する。……といっても、物は言いよう。


「りょーしゅいないのぉぉぉぉガーン」

「リリーさんお久しぶりです罵倒してください!」

「エムおまえきもい……」


「変質者の集まり」

「「「え?」」」


 ──そんな意外そうな顔をされても困るのだが。


 第一にエル。このようなちびっこに任務を頼むトモリ様もトモリ様なのだが、いつもうるさい。年相応って年齢でもないでしょうに。

 第二にエム。こいつは私に罵倒されたいらしい。三度言われた辺りから口を利かないようにしている。

 第三にエヌ。……あれ、こいつは普通だな。

 でもまぁいいか。こいつも同罪。


「ふぅぅ……」


 眉間に指をあてる。


「あなたたち、せめて静かにしててくださいね」

「「「はーい」」」

「うむ、よろしい」


 だが、こんな狂犬たちにも良い所はある。


 聞き分けがいいのだ。言えば聞いてくれる、言わねば聞かんってな感じだ。


 まあ結局面倒くさいのだが、別に悪いやつらではない。きっとトモリ様もそこになにか見いだしたのだろう。そう思えば彼女はすごい方だ。


 ─*─*─*─


 それはそうと、最近また人が増えた。


「……お、はようございます」

「あら、お目覚めが遅いようで」


 少し皮肉ってみるが、案の定彼女は苦笑い。

 彼女の名はスズナ・カナタと言うらしい。


 アーリン様の皮を被った異世界人。未だに信じ切れないが、トモリ様が世話しろとおっしゃるから仕方なく世話している。


「すみません……」

「謝るくらいでしたらすこしは手伝ってください」

「すみません…………」


 彼女は「気にしい」だ。

 こんな姿を見せられると如何せん鼻につく。


 正直に言えば、人はすぐ死ぬものだからアーリン様の死は仕方のないことだと思えはする。

 けれどこの肩身の狭い様子はなんだ。


 これではお前も死んでるのと大差ないじゃないか。


 なのにエリーは彼女を気に入っているらしい。

 私よりも多くの時間をアーリンと共にしていたのにも拘らず、だ。


 なぜ?純粋な疑問。

 なぜ気に入ることができる。別に嫌わなくてもいいが、そこまで同情する義理はないだろう。


 ──お願いだからあまり関わらないでくれ。


「あれ……トモリ様、今日はいないのですね」

「今日はニジ教会の聖地、シュケーオンに参られています」

「えっなんで」

「なんでって、外交ですよ、外交。わかります?」

「さすがに分かりますよ……なんかすみません」


 謝るなよ。

 そんなにしみたれた態度を取るな。それでは。


 それでは……頭をよぎる。


「あ、すずなさんここにいたのですね」

「エリーさん。ごめんなさい出歩いちゃって」

「──」


「別にいいです。言霊の訓練を始めましょう」

「ああ、そうだね、ありがとう。あの、リリーさんもありがとうございます……あれ」

「リリー?」


 ……だめだ。

 いまは、だめだ。


 エリーは辺りを見回すが、見つかってはいないようだ。


「リリーがいたのですか?……いないですけど」


 エリーの声が遠ざかっていくのを目で追うと、自然にため息が漏れる。


 ──気にしいは、私なのかもしれないな。


 動揺する心に、焦点の定まらぬ目。

 物陰にゆっくりと腰を下ろすと、ひとつ大きく深呼吸。


 さあ。

 今日も頑張ろう。

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