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ことだまの紡ぎ手  作者: 大場景
ひのめの章
21/39

20.事情聴取は計画的に(前編)

 場所は移り。

 ここはさしずめ、応接室といったところか。


 革張りのソファが向かい合わせに二つと、その中心には彫刻の施された大きなテーブルがどんと構えている。

 壁にはセンスありげな油絵が立てかけられており、なんだか雰囲気ありげだ。


「まあまあ、粗茶ですが」

「あ、お構いなく」

「ふふ、いいんだよ」


 向かいの席に座るなりそう語りかけるのは、領主のトモリ。

 すっごくニコニコしている。いつもこんな感じなのだろうか。


 ちなみに、その隣にはピタとえるちゃんが座っている。

 もとい貼りついている。こちらもニッコニコである。

 なんというか、そういう文化なのか。


 そしてテーブルを隔てた向こう側に座っているのは、今回転生してしまったしがない私、スズナである。


 ──というか、なんで私はこんなにもてなされているんだ?


 向かいにはトモリ。その隣にはえるちゃん。

 二人に見つめられる私はなんとなくむずがゆくなり、とりあえず目線を机に落としつつズズズとお茶をすする。


 ……おお、意外と飲めるな。

 緑茶や麦茶とはまるで味の系統が異なるものの、不思議と不快感はない。

 濃くはないけど深みのある、質素な味わい。リリーさんが淹れてくれたのかな。

 領主の斜め後ろに控える彼女の方を改めて見てみる。


 やはり、似ている。髪型や雰囲気がエリーと瓜二つである。

 メイド服を着ているところまで同じだから、最早二人の存在を逆に捉えても仕方がないとまで感じられる。

 あえて二人の相違点を述べるならば、エリーはどこか優しそうな眼差しである一方、リリーはツンと尖った釣り目だということくらいか。

 あ、名前も似てるな。


「どうかいたしましたか」


 げ、見てるのバレた。

 リリーはいぶかしげな表情で私を睨んでくる。

 この顔に擬音をつけるならば、恐らく『ムスー』である。


 ……そうではなく。い、急いで弁明せねば。


「……いや、なんでもないっす」


 目を逸らす。

 リリーの方は、え?などと戸惑いの声を上げている。


 こういう圧のある人と話すのはどうにも苦手だ。


 場がしんと静まり返る。


 かと思えば、この空気を打ち破るかの如く話を始めるのはトモリである。


「さて、そろそろ話を始めようか。あー、まずは君が誰なのか教えてくれないかな」


 先ほどまでとは打って変わり、トモリは真剣な眼差しでそう語り掛ける。

 この表情。声。一目でわかる。

 トモリさんは、やっぱり領主なんだなって。


「……はい」


 ごくりと唾をのむ。

 鼓動はみるみるうちに早くなる。

 でも、そう。落ち着こう。

 私は私のありのままを話そう。だって、話すことに緊張する必要はないのだ。


 一つ大きく深呼吸をすると、私は話を始める。

 私の前世。過去。そして現在に至るまで。私の知り得るすべてを。ありのままに。


―*―*―*―


「…………」


 再び、静寂が滲む。

 それは私の心までも満たしたかと思うと、私の胸は酸欠を起こしたかのように締め付けられる。


 すべてを語り切った。

 本当にすべてだったから、大変な時間がかかってしまった気がする。

 とはいえ私とて小説家の端くれ。表現力には一定の自信がある。……あるはずだ。

 だから、私の想いは伝わった、はず。


 ちらとトモリの顔を見る。

 トモリは顎に手を当て、考え込んでいる。かと思えば、その口を開き。


「なるほどね……」


 トモリの一言に、ひとまず私は胸をなでおろす。


 話が伝わった。

 それだけのことでも、私にとっては大きな意味があった。


「情報の整理をしましょう」


 次に声を上げたのはリリーである。


「実名カナタ・スズナ。火事に遭い大やけどを負ったことが原因で数年後に死亡。気が付くと意識のみこの世界に転生。戸惑っているところにアスク・フーシレアにその正体がばれて殺されかけるが、その場はなんとか逃げ果せる。逃げた先でこの子、エルに遭遇。人攫いに遭遇するもののこれを撃退。その際に言霊能力を行使。廃教会でエルに人攫いの話を聞き、アスクに見つかり、気を失い、今に至る……」

「あ、実名スズナ・カナタでお願いします」

「あ、はい」


 大筋は伝わったようだ。とりあえず安堵。

 と、リリーはトモリの耳元に口を寄せ呟く。


「ホエケャウコエタエウタ、ノワシエブナドエヤワケャウコエヂシャウコ」

「サウドラウニ。サリネセチマ、アスクゴサカモヂセチエトタホ」

「ヨホレシツダホエモヘタツナヤウヂ」 

「ンルグテホエッテョドミドヤ」


 またこの言語。


 この世界に来てからというもの、日本語と異世界の言語が入り乱れている。

 順序を考えると、異世界語のある世界に後から日本語が広まったのだろうか。

 しかしそうなると、なぜわざわざ日本語を話すのかという疑問が生まれる。


 うーむ……。

 疑問が疑問を呼ぶとはまさにこのことである。

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