0. この書物を読む者へ
「はあっ……はぁっ……!」
どこまでも続く荒野の中を、私は走っていた。
ただ、ひたすら。
足がもつれる。転びそうになる。
後ろを振り返り、地に手をつき、また立ち上がり、走る。
異世界系。
悪役令嬢、最強スキル、なろう系あたりに代表される、別世界線を舞台にした小説ジャンル。SFとかも、広く捉えれば入るだろうか。
そんな物語において、異世界はしばしば「希望の象徴」として描かれる。
当たり前だろう。そりゃあそうだ、創作だし。
そうして人は、多かれ少なかれ異世界に憧れを抱く。
しかし、私は思うのだ。
「はぁっはぁっ……はあっ」
異世界は、救いなのだろうか。
異世界はなぜ救いだと思うのだろうか。
──少なくとも私にとっては、違う。
それを今更になって理解するだなんて、私は馬鹿だな。異世界系に酔わされていたとしか思えない。
「はぁっハ、んぐっはぁ……はぁっ」
剣と魔法。異世界特典で最強。世界征服。そんなものくそくらえだ。現に私はなにも持っていない。そんなこと、できるビジョンすら見えない。
私の手元にあるのは、手に余る不安と虚無、そして後悔だけだ。
「はあっ……はぁっ……もうっ、帰りたいよおお」
そう。
私はなにも持っていない、いたって普通の人間で。
私の思い描いていた「異世界」は所詮想像の域を脱しず。
私は、一刻も早く「世界」から抜け出してしまいたいのであった。
─*─*─*─
この物語は、ただの異世界譚である。
わかりにくいだろうか、もう少し噛み砕くならば、ただの人生譚である。……噛み砕けてないか。
でも、とにかく。
私は、この物語を──私の人生を、生きていく。
生きていかねばならないのだ。