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ことだまの紡ぎ手  作者: 大場景
ひのめの章
19/39

18.白髪エルフと不愛想メイド(後編)

 どこか抜けているようで、それでいて包容力のある声。


 若干声色が低いからか中性的ではあるが、これは女性の声だ。

 あまりにも優しい声だから、なぜかこちらが委縮してしまいそうである。


「りょーしゅー!」


 一目その姿を見ると、えるちゃんはスポッと私の腕から抜け、ぴょいんぴょいんと跳ねながらその人の方へ行ってしまう。


「あっあーあー」


 私は間抜けな声を出しながら、えるちゃんのいた方へ転がる。


「いってぇ……」


 ──なんだてめえ私のえるちゃんを……。


 少しムスリとしながら声のした方へ顔を向けると、部屋の入口に腕を組む少女を視認する。


 バチと目が合う。


 リョーシュ。

 えるちゃんはこの少女をリョ―シュと言っていた。

 そういえば、えるちゃんがリョ―シュのところに連れていくなんて言ってたっけ。勝手に男性と思い込んでいたが、どうやら女性みたいだ。


 細く線をつくる垂れ目。腰まで真っ直ぐに伸びた白髪に、ぱつんと一直線に切り揃えられた前髪。


 相当な瘦せ型のようで、地面につくほどに長い羽織りを羽織っているのにスレンダーな体型であることは想像に難くない。耳はやはりツンと尖っているようで、これは予想通り。


 彼女もエルフのようだ。


 リョ―シュはこちらの目を覗くと一層目を細め、意味深な笑みを浮かべる。

 なにやら得体の知れない雰囲気を醸し出している。


「お初にお目にかかる、かな。私はレア領領主トモリ・レアホワイト。丸二日も起きなかったからびっくりしたよ、疲れてたのかな」


 鈴の様な声。


 などと言うには大げさかもしれないが、本当に惹きつけられる声をしている。実に耳心地がよい。


 これが第一印象。


 というか私、二日も寝てたのか。どうりで寝起きがすっきりしていたわけだ。寝るの、あまり得意じゃなかったんだけどな。こんな状況で、ね。




 ……いや、待て。

 今なんて


「りょうしゅ?領主、ですって?」


 思わず声が裏返る。


 考えてみればそうだ。

 異世界だからリョ―シュとかいう変な名前もあるかと割り切っていたが。




 リョ―シュは、領主だったのか。


「領主というと、この土地一帯をまとめる主ということ?ですか?!」


 慌てて敬語を加える。


 領主。県知事みたいなものだろうか。なんだか急に緊張してくる。なんにせよ、偉い人であることは間違いない。


「そうだねぇ、ただうちは少し特殊でね。詳しい話は長くなるから割愛するけれど、レア領は国号を持たない独立領。つまり私は国のリーダーということになるかな」


 トモリはへへんと(ない)胸を張る。なるほど動作に出やすい人だ。


 というか、国のリーダー。つまり総理大臣。

 一体どんだけ偉いんだ、この人は。


 ……あれ、そういえばアーリンやアスクも地方領主の家柄なんだっけか。なんだかよく分らないが、とりあえずトモリの方が格が高そうだ。雰囲気的に。


「何カッコつけてんですか、領主様」


 などと考えていると、突然扉の向こうから芯の通った声が聞こえてくる。

 こちらはトモリよりも力強い声色。どちらかといえばSな感じだ。


「なにさ、いーだろー別に」

「そーだそーだ」


 領主は扉の方に顔を向けつついかにも不服そうに反論をする。それに同調するのはえるちゃんである。


「別に悪く言っているわけではないのですが……。それで、あなたがスズナさんですか」


 声の主は入口から姿を現し、私に問いかける。


「すず……」


 ぎょっとする。

 何故その名を知っている。


 なんてかっこよさげなことを思ってみるが、すぐに納得する。


 ああそうか、えるちゃんか。

 ここではじめて声の主に目を向ける。


 あれ、この顔。……似てる。


「あの、もしかしてエリーっていう姉妹いますか?」


 あまりに似ていたものだから、つい質問を質問で返してしまった。


「……さあ。で、あなたがすずなさんですか」


 嫌な顔をされた。


 エリーと容姿が瓜二つだったため姉妹かなにかだと思ったが違ったらしい。


「あ、はい彼方すずなです」

「ああ、私の自己紹介がまだでしたね」


 私が居心地悪そうな顔を見せたからか。

 彼女は一礼をし、自己紹介をする。


「申し遅れました。私の名はリリー・ギープ。トモリ様の秘書を務めている者です」


 顔は全く笑っていない。それどころか、彼女もやはりどこか遠くを見ている様子。

 先ほどのえるちゃんと表情が重なる。


 ──この世界の人々は、皆も揃って本心を隠すのが下手なのか。


 私は苦笑を隠さなかった。

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