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脳筋王子と肥満王~仏独伊が出来た頃の物語〜  作者: ほうこうおんち
脳筋王の時代、そしてその次の時代へ(西暦889年~899年)
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皇帝アルヌルフと魔境イタリア

 アルヌルフは教皇フォルモススによって、イタリア王・西ローマ皇帝の冠を授かった。

 これは多くの者にとって、実に不愉快な事であった。


 一番はスポレート公グイード2世の子・ランベルトと、その母アゲルトルーデであろう。

 彼等はつい先日までイタリア王・西ローマ皇帝に、あと一歩の場所に居たのだから。

 フォルモススはアルヌルフを信じて待ち続け、ついにランベルトに冠を授けなかった。

 アゲルトルーデの恨みは深い。


 アルヌルフに臣従したフリウーリ伯ベレンガーリオも、この決定が面白くない。

 彼はイタリア王位をスポレート公やプロヴァンス王と競っている。

 彼がアルヌルフに臣従したのは、アルヌルフが東フランク王だからだ。

 違う地域の王に頭を下げるのは問題無い。

 アルヌルフがイタリア王なら話が変わる。

 この王位だけは譲れない。

 ただでさえ、ローマ進軍の際に自分に属していた諸侯がこぞってアルヌルフに従ってしまい、彼の王としての尊厳は損なわれている。

 ベレンガーリオは、密かに宿敵スポレート公との提携を模索し始める。


 同じように不満を持ったのは、プロヴァンス王ルイであった。

 正確にはその母・エルメンガルドであるが。

 彼女は、ルイをイタリア王にするという約束で、アルヌルフを宗主的フランク王と認め、臣従をしたのだ。

 それなのに、アルヌルフ自身がイタリア王になるなんて、契約違反であろう。


 このように各地に敵を作った皇帝就任に先立つイタリア王即位人だが、当のフォルモススとアルヌルフは実に鈍感であった。

 フォルモススにしたら、皇帝戴冠までの手順を踏んだに過ぎない。

 アルヌルフは、イタリア王は不要だから、いずれ投げ捨てる気でいた。

 だから、ちょっと待っていれば問題ないだろ、という意識なのだが、それは伝わっていない。

 聖人だったから世俗の機微が分からない教皇と、基本「交渉よりも戦争」という王の組み合わせは、政治的な駆け引きとか、根回しをして「便宜上そうする」と周知させる事について、絶望的に無能であった。

 まあ、そういう二人だから立場を超えて友誼を持てたのだろうが。


 この状況変化を敏感に感じ取ったのは、正式には就任していないが、立場的には皇后となった王妃オーダである。

 用事が有る時以外は東フランクの身内としかつるまないアルヌルフに代わり、普段からローマや北イタリアの諸侯・司教と交流していたオーダは、噂という形でアルヌルフへの敵意を知る。

 敵の敵は味方というが、このイタリアでは「味方であるが、たまたま手を組んでいるだけだから、第三者を使ってバレないように、自分の陰謀を味方のせいにして、相手をハメてやろう」なんていう、油断ならない関係構築がまかり通っていた。

 たまたま反アルヌルフで手を組んだとはいえ、フリウーリ伯にとってスポレート公は敵だし、アルヌルフを上手く利用して共倒れにさせようくらいは普通に考える。

 フリウーリ伯に従っていた諸侯とて、好機と見れば今担いでいる主を失脚させ、自分が上に行こうと考える。

 フリウーリ伯とスポレート公が目立つが、他にもイタリア王に名乗りを挙げているイタリア諸侯もいるわけだし。

 だから自分に難が及ばないように、噂とか怪文書、聖職者を使っての神託とか、そういう形で情報を流して相手を動かせたら儲け物、そんな地域であった。


 オーダは、イタリア程ではないにせよ、諸侯間の駆け引きが激しくなって来たザクセン出身だ。

 彼女自身も、自分の立場を利用して対立する諸侯を衰退させたりもした。

 それによって王家と微妙な関係になったザクセン公との仲を取り持つ事もあった。


『アルヌルフ様が避けていた理由が分かったように思う。

 ここは本質的に武人のアルヌルフ様には、不気味な国だわ。

 敵味方と単純に色分け出来ない。

 昨日の味方が今日も味方とは言えない。

 情報が虚実入り乱れているようにも思うし、意図的にそうなっているかもしれない。

 アルヌルフ様が言うように”魔境”ね』


 彼女は、もしも自分が同じ状況になったなら、どうやって敵を排除するかを考えた。

 そしてアルヌルフと同じ結論に達する。

 力の無い、女性ならずともそういう者が強者を倒すには毒を用いる。


『自分が守らないと』


 オーダはアルヌルフの飲食には目を配らせ、必ず銀の器を使わせるようにした。

 銀は毒を乗せた場合、黒く変色すると言われているからだ。

 豪傑と思われているアルヌルフから言い出すと、臆病者と思われてしまうから、王妃が過度に心配しての行動と周囲に示す。

 女だてらに出しゃばっていると思われ始めたが、それでも良い。

 アルヌルフは意図を察したようで、何も言わずに従っている。

 まあ、押しの強い女性には弱いって面のせいかもしれないが。

 更に、こうして毒殺を警戒している者が存在するとアピールすれば、それが抑止力になるだろう。


 だが、彼女の警戒が及ばない場面も存在する。

 戦場だ。

 周囲から勧められた結果、アルヌルフはスポレート公を屈服させる為に出撃する事になった。

 教皇領に隣接する勢力である為、叩きのめして力を奪い、二度と逆らえないようにしておかないと心配だ。

 そういう声と、アルヌルフ自身の

『正直、まだ一回もまともな戦争してないんだよなあ。

 敵は逃げてばかりだし。

 せめて一回くらい戦って、相手を蹴散らしてから国に帰ろんと、折角来たのに収まりつかん』

 という好戦性からスポレート攻撃が決まる。


「アルヌルフ様、どうか気をつけて下さい。

 貴方様がおっしゃる通り、この地は危ういです。

 毒をいつ盛られるか分かりません。

 貴方様が強いから、弱い者は手段を選ばないでしょう」

 不安を口にする王妃に、アルヌルフは笑って答える。

「オーダよ、俺とてそれくらい分かる。

 毒について、ずっと前から疑っていたのは俺だぞ。

 対策はバッチリだよ」

「身の回りの世話には私の手の者をつけます。

 ここは聖職者も油断なりませぬゆえ。

 私はローマに留まり、怪しい動きがあれば即座に知らせます」

 王妃の言に、アルヌルフも頷く。

「任せた。

 そういう事は妃の方が得意そうだからな。

 でも、良かったよ。

 俺と同じ考えに到る者が傍に居てくれて。

 聖職者を疑うとは何事か、って言う奴が多いからなあ」


 アルヌルフも抜かりない。

 自分も参陣すると言ったフリウーリ伯ベレンガーリオを含め、イタリア諸侯は伴わずに東フランク軍だけを率いて出撃する。

 オーダが付けてくれた者に世話を頼み、他の者は生活空間には近寄らせなかった。

 食事も

「王妃がうるさくて敵わん」

 と文句なんだか惚気なんだかを口にしながら、必ず銀の皿を使っていた。

 こうしてスポレート軍の籠る最初の関門・フェルモの砦を目指していたのだが、やはり事は起きてしまった。




「皇帝陛下が倒れました」

 この報を聞き、オーダは真っ青になりながらも、直ちにアルヌルフの陣に駆け込む。

 これは夫を心配しての行為でもあるが、同時に自分の周囲で殺意が感じられたゆえ、危機を回避しての事だった。

 皇帝を毒殺した後、皇后たるオーダも暗殺すれば事は一気に捗る。

 実際にはそんな陰謀は無いかもしれないし、疑心暗鬼になったかもしれない。

 しかし、不穏な空気のローマに居るのは危険だと彼女は察知したのだ。


 オーダが駆け付けると、アルヌルフは意外に意識はハッキリしているようで、容態について話す事が出来た。

「頭は痛いが、考えるのは苦痛じゃない。

 手足が麻痺して上手く動かせない。

 それと、目の前が赤くなって、チカチカしている。

 やはり毒のせいだろう」

 これはアルヌルフの決めつけではなく、皇帝が倒れたという知らせがローマに伝わると

「前皇后のスポレート公妃アゲルトルーデが毒を盛ったのだろう」

 という噂が囁かれ、誰しもが疑いを抱くものだった。


「食事には気を使っていたのですよね?」

「ああ。

 この地の食事は一切口にしていない。

 戦場だから贅沢はしない、と言って母国から持ち込んだ塩漬け肉、塩漬甘藍(ザワークラウト)、狩りで獲った獣にもフランク産の岩塩をたっぷり練り込んだ。

 更に、飲み物にも気を使い、聖なる塩を溶かしてから飲んでいたぞ」


 お前それ塩分の摂り過ぎ、高血圧で脳梗塞にでもなったんじゃないのか? とは言ってはならない。

 高血圧が危険と判断されるのは、1945年にアメリカ大統領F.D.ルーズベルトが死亡してからになるのだから。

 塩は防腐剤であり、キリスト教の中でも「人の純化の象徴」とされ、塩気とは神の祝福なのだから。


 オーダは夫の手を取って、涙ながらに言う。

「よくそこまでされました。

 私の言った事をお聞き下さって、ありがたく思います。

 しかし、そこまで気を使ったのなら、毒殺ではないかもしれません。

 治るように思います」

「治るか?」

「私はそう信じます」

「そうか……」

「ですがアルヌルフ様、直ちにこのイタリアを離れた方がよろしいかと思います。

 ここは危険です」

「うむ……」


 そして、更なる急報が入る。


「教皇猊下が薨去されました!

 巷の噂では暗殺されたのではないか、と」


 それはアルヌルフが倒れ、オーダが慌ててローマを発った数日後の復活祭での事だった。

 ミサの最中に、突如フォルモススが崩れ落ちる。

 間も無くしてフォルモススはこの世を去った。

 オーダが身の危険を感じた殺気は、もしかしたら教皇に向けられていたものだったのかもしれない。

 或いは、復活祭のミサに皇后の立場で参列していたら、本当にオーダの身も危うかったのかもしれない。


「帰りましょう、フランク王国に。

 この地は私たちにとって、居るべきではない場所です」

 オーダの涙ながらの声にアルヌルフは頷く。

「俺は最初からイタリアには来たくなかったのだ。

 それを貫いていれば良かったな。

 そうだ、帰ろう俺たちの国へ。

 血と臓物の臭い、戦場の風の方が、嫉視や打算、何やら分からん画策の嫌な空気より百倍もマシだ」


 こうしてアルヌルフは東フランク王国に帰る事を決める。

 皇帝アルヌルフと教皇フォルモススのタッグによるイタリア支配は、一年も持たぬ数ヶ月で終わりを告げたのだった。

おまけ:

イタリア王及び皇帝を目指したり、名乗りを揚げる面々。

近い将来も含む。

・フリウーリ伯ベレンガーリオ

・スポレート公ランベルト

・プロヴァンス王ルイ(盲目王)

・上ブルゴーニュ(ブルグント)王ルドルフ2世

・ラトルト(アルヌルフの次男)

・トスカーナ辺境伯アーダルベルト2世

・カメリーノ辺境伯

・イヴレーア辺境伯アンスカーリオ1世

・アルル伯ユーグ


アルヌルフでなくて作者の方が、細かい物語書くのを放棄しました!

こいつらの栄枯盛衰書いてたら、途中で嫌になって筆折るかもしれん!

(東フランクの物語でなく、イタリア版群雄割拠の物語として三ヶ月くらい構想練ればいけるかもしれないですが、次話で終わりますんで)

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