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脳筋王子と肥満王~仏独伊が出来た頃の物語〜  作者: ほうこうおんち
脳筋王の時代、そしてその次の時代へ(西暦889年~899年)
39/42

イタリア遠征

 西暦894年を迎えた。

 モラヴィア王スヴァトプルクが死の床に就いている。

 彼は三人の息子を枕元に呼び出した。

 長男モイミール、次男スヴァトプルク2世、三男 プレドスラフに対し、王は三本の杖を渡す。

「モイミールよ、これをまとめて折ってみよ」

 しかし折れない。

 次男、三男と試させる。

 折れない事を確認すると、彼は三人に一本ずつ杖を持たせ、折らせてみた。

 彼等が杖を簡単に折ったのを見た王は

「お前たちが手を組んで一致団結したなら、決して敵に打ち負かされる事はない。

 しかしお前たち兄弟の間に争いや対立が起こったなら、お前たちは互いに滅ぼし合い、やがて敵によってモラヴィアは滅ぼされるだろう。

 お前たち、長男をよく支えて国を守れ」

 と伝えた。

 そして

「東フランク王アルヌルフとは戦い続けよ」

 そう言い遺し、偉大なモラヴィアの王は死亡した。




 息子たちは父の遺言に従わなかった。

 彼等は戦う事なく、即座にアルヌルフとの和平を選択した。

 これは気質の違いもあっただろう。

 スヴァトプルク1世は、アルヌルフを好敵手と認め、辟易しながらも戦う事が好きであった。

 しかし息子たちは、背後からマジャール人に襲われているのに、それどころではない。

 戦闘狂でない彼等は、とりあえず正面の敵との戦いを避ける事を決める。


「そうか、スヴァトプルク王が死んだのか……」

 息子たちの投降を受けたアルヌルフは、思いっ切り寂しそうであった。

 はあーっと溜息を吐き

「どいつもこいつも、俺を残して死にやがって……。

 まあ、人間なんてそんなもんだけどさ……」

 と呟いている。

 好敵手が死んだ以上、その倅たちでは相手として不足がある。

 アルヌルフは、モラヴィアを形式的な従属国とし、東フランク王国の一員とすると全軍に帰国を命じた。

 どんな形であれ、巨大なスラヴ人国家モラヴィアを屈服させた事で、アルヌルフの名声は西欧はおろか、東ローマ帝国にまで聞こえるところとなる。




 この頃、皇帝グイード2世と教皇フォルモススとの対立は抜き差しならぬものとなっていた。

 グイードは幼い息子・ランベルトを共同皇帝に任じようとした。

 フォルモススはこれを拒否する。

 ほとんどの期間において真面目で清廉な聖職者であったフォルモススは、教会が世俗の圧で要求を呑む事を拒み、原理主義的な頑なさを発揮した。

 これに不満を覚えたグイードは、次は教皇領に対する野心を顕にする。

 グイードのスポレート領は教皇領の南東に在り、隣接している。

 カロリング家のピピン3世が寄進なんかしたから出来た教皇領だが、本来宗教家にそこまでの領土は不要だろう。

 精々司教区で十分。

 実際、教皇領はまともに統治出来てなく、サラセン人が襲って来たなら自分たちが守ってやっているではないか。

 グイードはそう考え、教皇領の併合を目論む。

 流石に1000年程後に、同じ「イタリア王国」を名乗るようになる国がやったような、武力による全土制圧はやりにくい。

 キリスト教社会では反発され、ネロ帝やユリアヌス帝のような扱いにされてしまう。

 そこでグイードは、少しずつ国境辺りから削っていく「蚕食」、教皇に圧をかけて領土割譲を認めさせようとする「恐喝」、フォルモススの対抗勢力、次の教皇候補者を作って内部分裂をさせる「謀略」で野望を実現しようとした。

 更にはイタリア王権の強化、南イタリアへの勢力拡大と、その手を広げまくる。


 やり過ぎだった。


 彼は様々な人物を敵に回し、恐るべき敵をイタリアに呼び込んでしまう。




「フリウーリ伯から招待状が届いています」

 レーゲンスブルクの宮殿で、書記官エンギルペロがアルヌルフに報告していた。

 要は、自分だけでは対立するグイードに勝てないので、アルヌルフにイタリアまで来て助けて欲しいというものだ。

 アルヌルフはイタリアに手を出す気が無かったから、思いっきり面倒臭いという表情をしている。

 書記官や宰相にしても同感である。

 アルヌルフは一昨年から今年初頭までモラヴィアと戦争をしていた。

 政治は議会に丸投げしてるとはいえ、王としてすべき仕事もそれなりにある。

 先年、依怙贔屓をした結果、微妙に気まずくなったザクセン公との関係も修復中だったりする。

 原因の一端であるオーダ王妃が、関係改善の為に奔走中だ。

 また、故郷バイエルンに留まっているアルヌルフに対し、フランク族の本貫地とも言えるフランケンの諸侯は、自分たちの地域への立ち寄りや、フランクフルトでの王国会議開催を求めていた。

 今年こそは内政をちゃんとして欲しい。

 アルプスの向こう側、イタリアになんて行って欲しくはない。


 しかし、アルヌルフをイタリアに招くのはフリウーリ伯だけではなかった。

 南イタリアに在る自領をグイードに脅かされた東ローマ皇帝レオーン6世が、アルヌルフに対して共同出兵を求めて来ている。

 レオーン6世統治下の東ローマ帝国は、東欧の地ではブルガリア人相手に苦戦をしていたし、シチリア島のミラッツォ沖海戦でイスラム教徒に敗れる等、軍事的には劣勢だったからアルヌルフの協力を得て、南イタリアの自領を守りたかったのかもしれない。

 しかし、西欧社会にとって東ローマ帝国に動かれる事は不快なもののようだ。

 東ローマが兵を動かすより前に、誰か西欧の有力者に何とかして欲しい。

 

 教会に現在進行形で圧を掛けているグイードもだが、東ローマ(と、その中にあるコンスタンティノープル教会)にもこれ以上イタリアにおける勢力拡大をして欲しくないローマ教会を代表して、教皇フォルモススからの救援要請が届いたのだ。

 フランク王国の中にも、東ローマに先んじられないよう、王に行動を促す貴族も現れるくらい、東の動向もアルヌルフの行動の決め手となった。


「教皇から言われたのなら、行くしかないなぁ」

 面倒臭そうだったが、はっきり意思表示したアルヌルフを宰相アスペルトが諌める。

「陛下はあれ程、イタリアとか西フランクに手出ししたくない、フランケン・ザクセン・バイエルン・アレマニア(シュヴァーヴェン)・ロタリンギアだけあれば十分と言っていました。

 何故教皇猊下の求めに応じるのですか?

 以前は領内で反乱が起こったからと言って断りましたよね。

 今回も適当にあしらえばよろしいではないですか」

 だがアルヌルフは首を振り、

「借りは返さないとならない」

 と断言する。


「借りって、何があるんですか?」

「デブ叔父(カール3世)を廃位した行動の正当化、死んではしまったがベルンハルトとの和解の仲介、その時呼ばれていたのにローマへ行かなかった事の弁明、先のモラヴィアとの和平の仲立ち……」

「結構有るんですね……」

「まあねえー。

 教皇がまだポルト大司教アンセギスと名乗っていた頃から、様々な情報を流して貰ったりと、良くしては貰ってたのよ。

 借りは返しておかないと、気持ち悪いじゃないか」

 宰相は溜息を吐くと

「そういう事情ならやむを得ませんな。

 借りを返し、身軽になって下さい」

 そう言った。

 だが、基本的にイタリアに行きたくないアルヌルフは宰相と相談して、庶長子のツヴェンティボルトを派遣する事にした。

 そして、遠征軍司令官となるツヴェンティボルトの箔付の為に、彼をロタリンギア副王として共同統治者にする内定をした。

 この地位には、カール3世の庶子で唯一の子、アルヌルフの従兄弟であったベルンハルトが内定していたが、彼は反乱を起こした挙げ句、アレマニア貴族によって暗殺されていた。

 嫡男ルートヴィヒが産まれた事で浮いた庶長子に、東フランク王国ナンバー2の地位を与え、かつバイエルン偏重と思われがちなアルヌルフに「ロタリンギアも重視している」という態度を示させた、政治上の一手でもあった。


「よし、息子よ!

 俺の代わりに手柄を立てて来い!」

「…………」

「返事はどうした?」

両者力比ロックアップしながら、喋れるわけないでしょ……」

「喋れたじゃないか」

「父上みたいな化け物と……一緒にしないで!」

「誰が化物フリークスだ!」

「グハッ!」

「良いか!

 真正面だけに気を取られていると、脇腹に膝蹴り食うのだぞ!」

「文字通り、レバーに銘じておきますよ」


 こうしてツヴェンティボルトは、真正面のアルプス直進ではなく、迂回路である東のパンノニア経由でイタリア入りした。

 ツヴェンティボルトは、フリウーリ伯ベレンガーリオと合流後、スポレート公にしてローマ皇帝グイード及びランベルトと対峙する。

 そして起きたベルガモの戦いで、ツヴェンティボルトはグイードを圧倒した。

 それも当然だ。

 スポレート軍はサラセン人のゲリラ的というか、海賊行為というか、そんな小部隊との戦いしかして来なかった。

 後はイタリア諸侯や教皇領との小競り合い。

 それに対し東フランクの軍は、ヴァイキングを撃破し、全盛期のモラヴィア王国と2年戦って来た精鋭である。

 スポレート軍は、戦争経験の少ない弱兵のフリウーリ伯の軍にこそ勝てたが、東フランク軍には蹴散らされてしまった。

 そしてツヴェンティボルトは、ベルガモ、ミラノ、そして首都パヴィアを占領する。

 フリウーリ伯ベレンガーリオは、アルヌルフを主君「唯一のフランク王」と仰ぎ、領土の一部を献上した。

 だが、北イタリア東部のフリウーリ領周辺以外は、外からやって来た軍を歓迎しない。

 ツヴェンティボルトは各地で抵抗を受け、ローマへの進軍は出来ない。

 敵の本拠地スポレートにも、ローマにも行けないツヴェンティボルトは父にも出兵を要請する。


「父上、援軍を!」

「任せたんだから、お前がちゃんとやれ、愚息よ」


 こんなやり取りを何回か繰り返した後、ツヴェンティボルトは仕方なく抵抗を実力で排除する。

 父よりも軍才は無いが、なにせ率いる軍が強い。

 次第に北イタリアは東フランク軍に占領されていった。


 だが、敗れてスポレートに撤退したとはいえ、皇帝グイードはまだ諦めてはいない。

「まだだ、まだ終わらんよ」

 戦争よりも謀略の地イタリアの領主は、次なる手を繰り出そうとしていた。

おまけ:

どこぞの三矢の教えみたいな話、モラヴィア王国でもありました。

創作じゃないです。

そして、三矢の教えの兄弟(もしくは甥と二人の叔父)とは違い、こいつら速攻で仲違いします。

弱体化し、東フランク王国と同盟を結んでマジャール人に対抗するが、敗れて滅亡します。

この時点から僅か13年後、西暦907年の事になります。

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