モンスターの肉でお料理を。
「さーって!お料理しますかッ!」
洞窟に戻ると新しく手に入れたローズタイムとフローリーフの出汁でハーブ塩作りに取りかかる。
まずは、鍋に水を入れ、フローリーフをじっくり煮出し出汁を濃くとる。
フライパンに出汁を移して沸騰させ少し煮詰める。フローリーフの深い香りが漂い、リンは満足げに鼻を鳴らしながら塩を入れ、ヘラでかき混ぜて水分を飛ばしていく。
焦げないようにじっくりかき回す。水分が飛んでサラサラになったら生産魔法で乾燥させたローズタイムを適量混ぜる。
仕上げに、黒胡椒を軽く刻んで加え丁寧に混ぜればピリッとした風味がハーブの香りを引き締める。
できあがったハーブ塩を指先で少量つまみ、口に入れると、ローズタイムの爽やかさ、フローリーフの旨み、そして黒胡椒のスパイシーさが見事に調和していた。
「はぁー…すっごく上出来!!これでどんなお肉もさらに美味しくなりそう」と満足そうに微笑んだ。
次はお肉の準備。今日倒したモンスターを『鑑定』する。
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デスラッシュボア
**特徴**: 牛のような巨大な身体を持ち、猪と豚が混ざったような姿。強靭な筋肉を持ち、巨体にもかかわらず驚異的な速さで突進する。獲物を見つけると、一直線に突進し、その進路を変えることができない。この攻撃を避けるには、直線的な突進を見極めて素早く回避するしかなく、真っ向から立ち向かうのは非常に危険。口の両側から伸びる鋭い牙は特に強固で、武器や防具の材料として重宝される。この牙から作られる武具は、高い耐久性と切れ味を持つため、職人たちの間で希少価値が高い。デスラッシュボアは広大な森や草原の深部に生息し、見つけるのは容易ではない。遭遇すると危険だが、その肉と牙は非常に高価で取引されるため、冒険者たちの狩りの対象となることが多い。
**特性**:肉は極めて美味で、特に油の甘さとジューシーさが絶品。ほんの少し獣の臭いはするが、それが逆に野性味を引き立て、風味豊かな料理に仕上がる。
**弱点**:頭が悪い。
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「弱点が辛辣…まぁ、これは…シンプルにステーキにして素材の味を楽しみたいな…」
生産魔法で解体したデスラッシュボアのロース肉を取り出すと丁寧に切り分け、厚めのステーキ用に整えた。手に持った肉はずっしりとした重みがあり、肉質はしっかりしているが、触っただけでわかるほどの脂の乗りを感じる。
フライパンをじっくりと熱し、ヴァイオレットスティンガー油を少量たらしたら肉を静かに乗せた。ジュワッという心地よい音とともに、肉が瞬く間に焼き上がっていく。
ハーブ塩を片手に、今回は肉の旨みを楽しみたいので普通より少な目の塩を振りかける。デスラッシュボアの甘みが強い脂に、ハーブの清涼感が絶妙に絡み合い、香ばしい香りが広がった。表面がパリッとするまでしっかり焼き、肉汁が中に閉じ込められるよう、慎重に裏返す。
「…ぅん…いい香り…」
しばらくすると、厚い肉からはたっぷりとした肉汁が溢れ出し、肉の表面に美しい焼き目がついた。焼き上がったステーキをお皿に移し完成だ。
お皿に乗ったデスラッシュボアのステーキを前に、わずかな緊張を覚る。切り分けたばかりの肉は、肉汁がじわりと表面に染み出し、香ばしい焼き目が美しい。
ナイフをゆっくりとステーキに入れると、抵抗なく切れる。切断面からは肉汁があふれ出し、柔らかなピンク色の中心部分が顔を覗かせた。
一口分をフォークにさして香りを確かめる。鼻先に漂うのは、デスラッシュボア特有の甘い油の香りと、ハーブの爽やかな香りが絶妙に混じり合ったものだ。
フォークを口元に運び、そっと歯を立てる。その瞬間、肉は驚くほど柔らかくほぐれ、ジューシーな肉汁が溢れ出した。
口いっぱいに広がるのは、デスラッシュボア特有の甘みと豊かな旨味。脂が持つまろやかな甘さは、決してしつこくなく、舌の上でゆっくりと溶けていく。
「ん…なんて贅沢な味…」
この世界での初めての肉料理に感動を抑えきれず、もう一口をゆっくりと味わった。噛むたびに脂の甘さが増していき、肉のしっかりとした旨味と絶妙なバランスで絡み合う。ハーブ塩の控えめな塩味が、肉の甘みを引き立て、黒胡椒のスパイシーさがアクセントとなっている。
「本当に、この肉は驚くほどの美味しさ…」
静かな夜の中でただひたすらにデスラッシュボアのステーキを堪能する。厚切りの肉は食べごたえがありながらも、一口一口が贅沢で、脂の甘さが余韻として口の中に残り、心地よい満足感をもたらす。
最後の一切れを口に運び、目を閉じてその味を深く感じた。口の中で広がる豊かな風味、そして肉のジューシーさが舌に刻まれ、このステーキは記憶に残る最高の一品となった。
さらに、リンは輝くジュエルドロップを手に取り、その甘い香りを楽しんでから、慎重にナイフを取り出して厚い皮を剥き始めた。果実の外側はしっかりしていたが、ナイフがスッと中に入ると、まるで宝石のように光るジューシーな果肉が現れた。
「美味しそう…!」
唾を飲み込み、ゆっくりと果肉を一口かじる。
果汁が口の中に広がると同時に、ジュエルドロップの甘くて爽やかな風味が広がった。
まるで熟したマンゴーやパイナップルのような、トロピカルなフルーツの甘さとほのかな酸味が絶妙に混ざり合い、舌を包み込む。果肉は柔らかく、噛むたびにジュースが溢れ出し、口いっぱいに広がるその豊かな味わいにまたしても目を閉じた。
「なんてジューシーで甘いの…!こんなフルーツ食べた事ない!」
ほっぺが落ちそうな美味しさに微笑みながら、もう一口大きくかじりつく。果汁がぽたぽたと指先に滴り落ち、手のひらでそれを受けながら、夢中で食べ続けジュエルドロップの美味しさにすっかり心を奪われていた。
それから優雅にゆっくりとカモミールティーを入れる。乾燥させたカモミールの花を手に取り、その小さな黄色い花びらを見つめる。カモミール特有の甘くて優しい香りがふんわりと鼻先に漂い、自然と微笑んでしまう。
鍋で沸かしたお湯に適量のカモミールを入れる。熱いお湯がポットの中でカモミールの花に触れると、すぐに柔らかい香りが立ち上がり、洞窟全体に広がる。鍋の中で花びらがゆっくりと開くのをじっと見つめる。
「もう少し待とう…」と、心の中でつぶやきながら、カモミールの香りが十分に抽出されるのを待つ。
手持ちのカップにフクレシア草を使って即席で作り上げた茶漉しをセットしたらゆっくりカップに注ぐ。
食後の一杯のその温もりを感じながらそっと口に運ぶ。ひとくち飲むと、カモミールのやわらかい甘やかな香りとほのかなフルーティーな香りが口の中に広がり、疲れた心をほぐしていく。
「ふぅ…やっぱりカモミールティーは落ち着くわ…」
ゆっくりと息を吐き、カップを手にしながら、静かな癒しの時間を楽しみつつ明日の事を考える。
文明レベルや通貨も知りたいし、どんな食材があるのかも楽しみだ。
『旅の方ですか?こんな辺鄙な村へようこそおいでくださいました。』
なーんて歓迎されちゃったりなんかしてと胸を躍らせながら買い取って貰えそうな物を準備して眠りについた。
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「何者だ!!持ってる物を捨てて手のひらをこちらに向けて両手を上げろ!!」
なんでよぉー!!