最初の料理。
まだまだ自身のスキルや魔法に対して研究の余地ありと感じるが、腹が減ってはなんとやら。
さっそく夕食のメニューを考え始める。
「そうだ、今日はリゾットを作ろうかな…ヴァイオレットスティンガー油を手に入れたし、フローリーフから出汁もとれるってかいてあったし!
まずは、アイテムボックスから取り出した鍋に魔法でお湯を入れる。暖炉の火の側に置いたらフローリーフを1メートルほど取り出して畳み入れ煮出してみる。
鍋の中でフローリーフがふわりと浮かび、まるで昆布のように透明な出汁がゆらゆら出始める。それを確認すると、生成魔法で抽出したヴァイオレットスティンガー油をアイテムボックスからフライパンに取り出した。
「綺麗な紫色ー!!」
テラテラと輝くような美しい紫色の油。この世界特有の素材にワクワクしながらフライパンを火にかける。米を入れ全体に油が回るように木べらでやさしく混ぜながら炒める。
「フローリーフのお出汁はどうかな?」
スプーンですくって味をみる。
「んー!!昆布出汁みたいな深い旨味…それに軽やかで爽やかな風味があるわね!」
米が紫色の油をまとってキラキラ光る。火が通って米の表面が白くなったら熱々の出汁を注ぐ。こうして出汁をつぎ足しながら、20分ほどかけてゆっくり炊く。
出汁を吸い込んで米がふっくらしてきたら薄切りにしたキラキラマッシュを加えて塩で味を整えながら、リゾットを仕上げていく。
「できた…!」とリンは心の中でつぶやき、最後に粗く刻んだ黒胡椒をふりかけたら。
「異世界リゾットの完成ー!」
異世界の素材を使って初めての料理が完成した。
「フライパンから直接食べるなんてお行儀が悪いけどアウトドアっぽくて良いよねっ!…いただきます…」
とスプーンで一口すくってフーフーと一生懸命に冷ます。最初の一口で火傷しないように慎重にゆっくりと口に運ぶと口の中に広がる香りと味わいに、彼女は思わず目を閉じた。
「はぁぁぁ…これ、本当においしい!」
柔らかくも程よい噛み応えを残した米は、ふっくらと炊き上がり、出汁の旨味をしっかりと吸収していた。フローリーフの出汁は昆布を思わせる深い旨味がありながらも、どこか軽やかで爽やかな風味を帯びている。米が口の中でほろりとほどけるたびに、その旨味がじわりと広がり、まるで自然の恵みそのものを味わっているかのような感覚だった。
「出汁がこんなにしっかりしてるのに、重たくない。むしろ、軽くて食べやすい…!」
リンは感動しながら、さらにもう一口を口に運ぶ。キラキラマッシュから出た旨みと風味が加わり、まろやかさとともにキノコ特有の香りが鼻をくすぐる。キノコの食感はもちっとしていて、米との絶妙なコントラストを生み出していた。ヴァイオレットスティンガー油も無味無臭でありながら、全体の素材を優しく包み込み、口当たりを滑らかにしている。
「地球のリゾットよりもあっさりしてるのに、深みがすごい…」
リンはもう一度スプーンをすくうと、ゆっくりと味わいながら、さっぱりとした後味が口の中に残ることを感じ取った。その後味が、さらにもう一口を誘う。濃厚すぎず、さっぱりしすぎず、絶妙なバランスの取れた最高の味わいを楽しんだ。
「ふぅ……お腹も満たされて、心まで満たされた気がする…」
リンは満足げに息を吐き、微笑んだ。
外はすっかり陽が落ちて暗くなっている。入り口を土魔法で塞ぎアイテムボックスからエルフの織布を取り出す
「だいぶ大きな布ね。折り畳んで間に入れば少しは寝心地がよくなるかな…お風呂に入りたいけど、今日は我慢だね…」
と言いつつ、自分に対して『クリーン』の魔法を使う。身体の不快感がなくなりサッパリした。
「清潔になった実感があるし、便利な魔法だけどやっぱり実際に身体を洗ったり歯磨きをしないとなんだかしっくりこないよぇ…」
あぁーやっぱり床は固ぃ。眠れるかなぁ…
横になって眠くなるまでスキルや魔法を調べようとステータスを表示させて、試しに探索スキルの文字に鑑定をかける。
するとウインドウにはステータスで表示されている文言と同じ内容が大きく表示された。
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**鑑定結果**
【探索スキル】周囲の地形を把握し、アイテム・植物・動物の位置や危険を察知、把握することができるスキル。
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しかしリンはウインドウの右上に歯車マークをみつける。
「ん?これは設定のマークじゃないの?」
歯車マークに触れてみると設定画面に切り替わった。
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【範囲設定】
・範囲詳細設定
・常時スキル使用ON :OFF
【表示設定】
・表示詳細設定
・表示カラー詳細設定
【危険察知】
・警告音ON :OFF
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「なんてゆーか、タブレットを操作してるみたい…まぁ、充電しなくていいし、目の前に浮いていてくれるからタブレットより便利かぁ…」
慣れ親しんだ電子機器を操作するように設定を確認していく。範囲設定を半径500メートルに設定。常時スキル使用をONに。地形把握OFFにすることで、視界にはアイテム・植物・動物だけがハイライトされるようになった。また、100メートル以内に危険が接近した場合の危険察知の警告音をONにする事で視界に入っていない危険を音で知らせてもらえる。
「この設定だったら寝ていても危険が近づいたら音でわかるって事だよね?」
とさらに便利になった事に喜びながら【設定を保存】を押下した。
他にも便利な機能はないかと、アイテムボックスの文字に『鑑定』をかける。するとステータスで表示されている説明よりもさらに詳しい説明が表示される。
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**鑑定結果**
【アイテムボックス】
無限にアイテムを収納できるスキル。アイテムボックスの中は時間が止まり、収納されたアイテムは、腐敗や劣化が起こらず、時間が経過しても収納されたままの状態で保管される。
※生成魔法使用中の食材や素材は例外となる。
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「生成魔法使用中は例外?どうゆう意味なんだろう?」
次は生成魔法の文字に対して『鑑定』を使う。
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**鑑定結果**
【生成魔法】素材やアイテムを別の形に変えたり加工することができる能力。
**素材の変換**
材料となる素材やアイテムさえあれば、魔力を消費して異なる形や状態に置き換えることが可能。例えば、石と木があれば石斧に変換可能。
倒したモンスターを毛皮・肉・骨・内臓・血液等の部位ごとに変換可能。
素材を加熱・乾燥・発酵・熟成・発泡・燻製(木が必要)に変換機能。
**魔力消費**
物を生成するには通常、魔力を消費する。生成する物の大きさや複雑さによって、必要な魔力も増える。
**特殊効果のある生成物**
生成魔法術者本人が使用できる魔法に限り素材やアイテムに対して付与が可能。付与加工したものは特殊効果のある生成物となる。※但し、付与された魔法使用の際は、別途魔力が必要。
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「あぁ。こりゃあれだ。本格的に…ちーと…」
呟ながら寝落ちした。