自分の限界。
「プギュギギィィィィィ!!!!」
デスラッシュボアの断末魔が響き渡る中、レオは飛び上がらんばかりのテンションで喜びの声を上げた。
「よっしゃあぁー!!敵討ち完了!!俺の大剣ちゃん、なくしてごめんねぇー!!」
そう言うと、喜びのあまり踊りだしそうな勢いで武器を回収に走り出す。
その横で、アルは慎重にデスラッシュボアの死体を確認していた。冷静なアルと対照的なレオを見ながら、私はホッと息をつく。
デスラッシュボアの異名である「死を招く猪」は伊達ではない。その猛スピードと圧倒的な破壊力を目の当たりにした今、改めてその危険性を実感する。
「流石だな、リン。」
アルが静かに言葉を続ける。
「これだけ強烈な突進を止める石壁を作る魔力と技術、惚れ惚れするよ。動きを止めてくれたおかげで、俺たちでも仕留められた。」
今回の戦闘では、以前私が一人でデスラッシュボアを倒したときと同じ作戦を使った。突進を土魔法で作った石壁で止めてから攻撃する。ただし今回止めを刺したのは兄弟だ。レオとアルが息を合わせ、木刀をデスラッシュボアの両目から突き刺して仕留めた。
「ありがとう!戦闘は経験が少ないし、自信がないから不安だらけだけど、事前にアルがアドバイスしてくれて落ち着かせてくれたから上手くいったよ!」
私の言葉に、アルは照れくさそうに視線をそらしながらも、口元に微かに笑みを浮かべた。
「兄貴〜…覚悟はしてたけど、やっぱりボロボロだよぉ〜。」
大きな大剣を抱えながら、アルに2本の双剣を渡すレオ。彼の声には情けない響きがこもっていた。
どの剣も、雨風や砂埃で汚れ、輝きを失っている。鋭さもすっかりなくなり、かつての輝きは見る影もない。
「失くす前から手入れができてなかったからな…」レオはしみじみと呟きながら、ため息をつく。「魔鋼なだけあってサビはないけど、これはもう修繕しないと使えないなぁ。」
2人の落ち込みようが手に取るように伝わってきた。苦楽を共にした大切な武器なのだろう。
ひとまず、デスラッシュボアをアイテムボックスに収納し、ついでにジュエルドロップも収穫してからキャンプ地に戻ることに決めた。
「そんなに落ち込まないで!とりあえず、無事に武器を回収できたことを喜ぼう!生産魔法でどうにかできないかやってみるし、それがダメでも街で修繕してもらえばいいんだから!ね?」
※
※
※
【アップグレードしますか?】
キャンプ地に戻り、ひと息ついて兄弟の武器をアイテムボックスに収納したあと、生産魔法を起動させると突然目の前にポップアップが現れた。
「……アップグレード?」
思わず声に出して読み上げた私は、少し首をかしげる。これって多分、機能向上とか改良って意味のアレだよね?けど、どうなるか分からないし、ちょっと迷うな……。
「ねぇ、してみる?」
アップグレードの意味を説明して兄弟に尋ねると、ゆっくりお互いの顔を見合わせた。言葉を交わすのかと思いきや、次の瞬間、勢いよく声を揃えてこう叫んだ。
「「する!!!」」
その迫力に思わず目を丸くする私。この即決、生産魔法への信頼ぶりがちょっと面白い。
「分かったよ。じゃあ、お願いします?」
ピコンッ
【スティールメアの外骨格、魔石を使用してよろしいですか?】
「必要なものを好きなだけ使ってください。」
ピコンッ
【アップグレードを開始します。】
ポップアップの表示が進行バー変わると同時に、体内の魔力が一気に消費されていくのを感じて思わず息を呑む。大きな魔法を使う時、自分で魔力を練り上げて放出する感覚とは全く違う。これは、生産魔法そのものが魔力を吸い上げている不思議な感覚。
「これ、かなり持っていかれてる気がする……」
額にじんわり汗が滲むのを感じながら、つぶやいた瞬間、グラリと身体が傾き、そのまま崩れそうになったところを、異変に気がつき素早く駆け寄ってきたアルが支えてくれる。
「リン、大丈夫か?!」
アルの声がすぐ耳元で響く。その声音には心配が滲んでいる。
「ごめん。なんか、すっごく魔力を持っていかれてるみたいで、急に疲れちゃった。私、魔力∞のはずなんだけど、一気に使いすぎるとこんな風になるんだね。」
「魔力が∞なんて奴、今まで出会ったことも聞いたこともないが、使い方次第で限界がくるんだな。リンが倒れるなんて…俺も考えが足りなかった。無理させてすまない。」
アルは申し訳なさそうに視線を落としながらそう言った。その言葉に、私は驚いて彼の顔を見上げた。
「え……そんな、私の方こそ、自分に限界があるなんて分かってなくて……」
言い訳のように口を開いた私に、アルは小さく首を振って続けた。
「リンの魔力に限界があるかもしれないって少しは考えるべきだった。俺の責任だ…」
隣にいたレオも頷きながら口を開く。
「確かに、リンは何でも出来るって思ってるから、つい頼りにしちゃって……考え不足で無理さてごめんね。これからは、俺たちも気をつける。」
二人の真剣な言葉に、胸がじんと熱くなった。私のために本気で反省してくれている。その優しさが嬉しくて、自然と笑顔がこぼれる。
「ありがとう。でも、私もちゃんと自分の限界を知るようにするから。心配かけてごめんね。」
ウインドウには【アップグレードが完了しました】と表示されている。しかし、それを確認する余裕もないほど、兄弟たちの心配は止まらなかった。
「今日は無理するな。とりあえず早く休め。」
軽い夕食をいつものような楽しい会話は控えめで食べ終えた。
「お腹いっぱいになった?気分は悪くない?少しでも早く元気になってね?」
皿を片付けながらレオが声をかけてくれる。
「ありがとう、大丈夫。ちゃんと休むから。」
そう答えたものの、彼らの視線にはまだ心配の色が残っているのが分かる。結局、二人に促されるまま早めに寝床に入ることになって布団に包まりながら、ふと視界の片隅に残るウインドウを見て、微かに笑みを浮かべる。
アップグレードは成功したみたいだけど……今日はそれどころじゃないか。
兄弟たちの優しさに包まれながら、私は静かに目を閉じた。




