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異世界食べ歩き日記〜チートでもぐもぐ旅 ~  作者: 犬沼わんわん
第1章はじまりはじまり
18/23

そろそろ出発しましょうか。



『隠蔽探索共有魔力供給機能付きツノ輪』。便利な機能が詰まっているものの、名前が長くてカッコよくないと兄弟たちが言い出し、最終的に『オブスキュアリング』と命名された。その名を得たツノ輪は、今まさに兄弟のツノに装着されている。



オブスキュアリングは、螺旋状に成型された金具に魔石を埋め込んだ精巧な作りで、魔石は額側に固定されており、ぶつかったり引っかかったりすることがないよう工夫してある。また、金具には反しをつけ、しっかりとツノに固定されるようになっていて、激しい動きにも耐える設計。



一見するとただの飾りに見えるが、隠蔽効果を発動した瞬間、周囲に溶け込むようにツノと共に姿を消す。探索や魔力供給の機能を加えたその性能に、兄弟たちはますます満足げだった。



「リン!これ、すごいよ!久しぶりに体の中に魔力が満ちてる感覚がする!兄貴はどう?」



「ああ、この感覚……久しぶりだな。ずっと忘れてたけど、やっぱり悪くない。」



アルも静かに微笑みながら、久しぶりの魔力が満タンの充足感に浸っていた。



オブスキュアリングの魔石にリンが魔力を補充して兄弟の体内の魔力量は徐々に元通りになっていった。それぞれ数回繰り返した後、ついにツノが2本あった頃と同じくらいの魔力量にまで回復していた。



魔力が回復した兄弟は、水を得た魚のように生き生きと修練に励み、その成果は目を見張るほどだった。みるみるうちに体力や筋力を取り戻し、初めて会った時の痩せ細った姿はもはや影も形もない。今では、逆にこちらが剣術と接近戦、身体強化について教えてもらうほどになっていた。



「シュパーッとしてギュッ、ここにトン、トン、トン、でクルッと見て、クンッとしてササッサ! これが基本的な剣術と接近戦の動きと身体強化のコツ!」



爽やかな笑顔を浮かべながら、軽快な動きと共に説明してくれたのはレオだ。しかし、その説明はあまりに天才肌らしい表現で全く頭に入ってこない。

 


「えっと……ごめん!アルー!通訳お願い!」



思わずアルを呼んでしまうが、レオは自信満々に笑いながら、さらに実演を続ける。



「大事なのはノリとタイミング!やってみればわかるって!」



近づいてきたアルが苦笑しながら助け舟を出してくれる。



「レオの言うことは感覚的でわかりにくいだろうが、要は一連の流れをスムーズにやれってこと。俺がもう少し実践的に教えるよ。」



ひと通り身体を動かし終えて休憩を取ることにしたけど、兄弟は楽しそうに木刀で打ち合いを続けていて休む気配は全くない。そんな二人の様子を眺めながら、健康的な姿を取り戻してくれたことに安堵しつつ、ふとあることに気がついた。



「あれ?この兄弟、こんなにカッコよかったっけ……?」



改めてみてみると、兄のアルは青髪を少し伸ばしており、その鋭い目つきにどこかセクシーな雰囲気を漂わせている。笑顔になると驚くほど柔らかい表情になり、そのギャップがたまらない。さらに、背が高く脚が長い抜群のスタイルが魅力を一層引き立てている。



一方、弟のレオは短めに整えられた赤髪がよく似合い、少し垂れた目元が親しみやすい優しい顔立ちで、クシャっと笑った顔が可愛くも魅力的。ガッシリとした体型は男らしく、安心させてくれる頼もしさがある。



二人とも「アイドル系」というよりは「男前系」といった雰囲気で、とりあえず目の保養と言える。



「この二人と旅ができるなんて、本当にありがたいわぁ。女神様に感謝!」



ふと空を見上げて、心の中でそっと感謝を捧げる。



「さてと、本格的に旅の準備に取りかかりますか!」



こちらの世界に来て、気づけば1ヶ月半ほどが過ぎていた。最初は戸惑いも多かったけど、兄弟の身体はすっかり回復しているし、この世界についても彼らから色々教えてもらって、もはや洞窟に留まる理由はない。



その夜、食後のハーブティーを飲みながら、これからの話をしていた時のこと。



「俺たちはもういつでも出発できるよ!」



レオが笑顔でそう言ったものの、少し苦笑いを浮かべながら木刀を見つめた。



「…って言っても、武器はリンが作ってくれた木刀だけだから、戦闘力はまだ低いけどね。」



木刀を丁寧に手入れしているレオの姿を見ると、本当に気に入って大事に使ってくれているのが分かる。それでも、長年使い慣れた武器を無くしてしまったことを思い出したのか、どこか悲しげな表情を浮かべている。



「まぁ、体調は万全と言っていい。けど、せめて無くした武器が見つけられればな…」



アルがそう呟きながら、木刀を手入れするレオをじっと見つめた。



「街の鍛冶屋に持ち込めば修理してもらえるかもしれないが、問題はその武器がどこにあるかだ。あれがないと、本調子には戻れない気がする…」



アルが懸命に過去の記憶をたどりながら、どの辺りで無くしたのかを思い出そうとしている。その横顔を見て、私は彼にそっと問いかけた。



「アル、武器を無くしたのって、終焉山脈の中だったの?何か手がかりはない?」



彼は手を顎に当てて考え込むようにしてから、少しずつ話し始めた。



「確かあの時は、2人でディジーモスキートに刺されて、フラフラだけど腹が減って死にそうで、やっと見つけたジュエルドロップに夢中になっている所をデスラッシュボアに襲撃されて、武器を拾う間もなく死に物狂いで逃げたんだ。場所ははっきりは覚えていないけど、逃げてる途中で湖が見えたのは覚えてる。」



「じゃあ、一度その辺りを探してみるのも悪くないかもね。旅の最初の目標は、武器回収としましょう!!



そう言うと、レオが嬉しそうに頷いた。



「リン、ありがとう!俺たちの大事な武器だ。もし見つかれば、本当に助かる。」



こうして新たな目標が加わった旅の準備は、また一歩進んだのだった。





翌日。




「忘れ物はない?」



そう声をかけると、兄弟はそれぞれ荷物を確認しながら頷いた。



洞窟を出る前に、私は最後に振り返ってその場所を見つめた。約1ヶ月半、ここで過ごした日々が頭をよぎる。慣れない異世界での暮らし。試行錯誤しながら作った食事や、兄弟と過ごした時間…。



「おそらく、もうこの場所に戻ってくることはないんだろうな。」



少し胸が締め付けられるような寂しさを感じながらも、私は洞窟に向かって深く頭を下げた。



「お世話になりました。ありがとう。」



低く抑えた声が洞窟の中に優しく響く。その一言に、感謝と別れのすべてを込めて。



これから始まる新たな旅路に、少しだけ決意を込めて私たちはその場を後にした。



カウグラス村にも最後の挨拶に向かう。食材屋のリゼルさん、雑貨屋のバーニスさん、そして衛兵隊長のガルドさんに足早に挨拶を済ませた。心の中で村の皆への感謝を噛みしめながら、そっと村を離れようとしたその時——



「おい!リン!待ってくれ!!」



唐突に響き渡る大きな声。振り返るとマリウスの姿が見えた。



「お前らが俺のリンをたぶらかしているクズどもか!リンの光魔法がなければ、どうせ何もできない役立たずの分際で、調子に乗るなよ!俺がその腐りきった根性を叩き直してやる!リン、お前は俺のものだ!こんな奴らに縛られる必要なんてない!俺が全員片付けて、お前を“自由”にしてやる!そうすれば、俺と一緒に幸せになれるよな?リン、俺のもとへ来い――そして、俺と結婚しろ!勝負だ!!」







「「あれはないって。」」



すっかり上機嫌で村を後にする私。思わずスキップでもしそうな勢いだが、その背中に兄弟から困惑混じりの声がかけられる。



「え?何が?」



振り返って兄弟の顔を見ると、2人で顔を見合わせてからレオが返答する。



「何って、急に求婚相手から『それじゃあ、勝負ね。手加減なし』なんて言われて木剣を渡され、戸惑いながら応戦したものの、ボコボコにされてさ、光魔法で治癒されたかと思ったら、『そんなに弱いくせに、誰のどの根性を叩きのめすって?』って煽られて、またボコボコ。何度も怪我を回復されて、『それが本気? 弱ッ、ダサッ』って追い打ちで煽られて、最後には俺たちに謝らせたことだよ?!」



アルも隣で深く頷きながら、「それとさ、『ダサッ』ってどういう意味?」と首を傾げてきた。



「ダサいっていうのはね、カッコ悪いとか、野暮ったいとか、冴えないって意味かな?」



「そうなの?けっこうひどい悪口だったんだね……でもさ、剣術や身体強化の訓練の成果を試すために、嫌いな奴といえど求婚してきた相手をボコボコにするのってどうなの?!」



アルが微妙な表情で首を傾げると、レオも続けた。



「アイツ、あそこまでズタボロにされて、自尊心の粉すら残らなかったんじゃない?」



2人はまるで哀れな犠牲者を思い出したような表情で私を非難がましく見てくる。



「あれ? 二人とも、アイツの味方なの?私の大切な仲間に暴言吐くなんて、絶対に許せないって思ったのに!!それに、ツノ狩りしようとしてたのアイツだよ?」



そう言った途端、二人は「自業自得だな」とあっさり手のひらを返し始めた。しまいには、「もっと徹底的にやってやればよかったんだ」なんて言い出して、こっちが引くほどの豹変ぶりで笑ってしまった。



兎にも角にもこうしてカウグラス村にも別れを告げた。



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