はじめての看病。
悠々自適な洞窟生活に、突然大柄な男性二人が加わった。それも飢餓で衰弱し、意識のない状態で。
飢餓状態の人間にいきなり栄養のある食事を与えると命に関わる、という情報をどこかで見聞きした記憶がある。あやふやな知識で看病するのはよくない気がする。村に行って、ガルドさんかリゼルさんに聞いてみよう。
急ごしらえではあるが、フクレシア草で大きなゴザを作って床に敷き、その上にデスラッシュボアの毛皮を敷いて二人を寝かせた。枕もフクレシア草で作った。
男たちの服はボロボロで全体的に薄汚れていたので、洞窟に入る前にクリーンの魔法を使ったから衛生面は問題ない。
「お水は大丈夫だよね?飲まなきゃダメだよね?」
白湯を作り、2人に交互に少しずつ口の中に注いで水分補給させる。
「こんなもんかな?あれ、もうこんな時間!」
ふと太陽の位置を確認すると、すでに昼前頃になっていそうだ。
マリウスさんの体調を確認して、飢餓状態の時に与えて良い食事内容を聞いて、2人が元気になるまで看病するとなると、しばらく外出や遠出ができなそうだから食料も買い込んでこよう!!
聞こえているかわからないが、「できるだけ早く帰ってきます」と言い残し、洞窟の入り口を塞いで村へと走った。
村の門前ではマリウスが待ち構えていた。
「おはようございます!約束の時間を過ぎてしまってすみません!!」
さすがに村まで走ってきたので、体力のある身体でも息が切れた。息も絶え絶えにマリウスに声をかけると、急かすような少しイライラしているような返事が返ってきた。
「あぁ、待っていたよ!遅いじゃないか!早く来てくれ!みんなが待ってる!!」
そう言って、強引に腕を引かれる。
「え?何か大きな事故で怪我人が出たんですか?みんなが待ってるって、一体どうしたんですか?」
「どうしたって?事故なんか起きていないさ。俺たちのために聖堂にみんなを集めたのさ、治癒魔法を存分に披露して、みんなに認めてもらおう!」
……こいつは一体何を言っているのだろうか?掴まれている腕を振り払い、立ち止まる。
「俺たちのためって、どういうことですか?私は治癒魔法を披露するつもりも、皆さんに認めてもらう必要もありませんが?」
「俺たちが結婚して、治癒魔法を使える君がこの村の聖堂に住むには、みんなに認めてもらう必要があるだろう?だから、集まってもらったんだ。わがままを言わずに早く来てくれ!」
…すみません。…この世界には、こんなに話が通じない人間がいるんですか?…結婚?こいつとわたしが?…なんで?
頭の中は疑問だらけだが、こんなチンプンカンプンなやつにはハッキリと伝えなければならない。
「私は、あなたと結婚なんてしません。この村にも住みません。ですから、皆さんに認めてもらう必要はないので、治癒魔法も使いません。」
目の前のマリウスは驚いた顔で混乱して言葉が出ない様子なので、さらに畳みかける。
「世間知らずで、何か誤解を招くようなことをしてしまったかもしれませんが、マリウスさんには治癒魔法の練習台になってもらったので様子を見に来ていただけです。急いでいるので失礼します。それと、馴れ馴れしく触れてくるのも不快なのでやめてください。」
昨日より顔色が良くなっていたし、あれだけ元気にチンプンカンプンできていればもう問題はないでしょう。と、呆然としているマリウスを残してリゼルさんの食材屋に向かった。
「リゼルさーん。こんにちは!!」
元気に食材屋の扉を開ける。
「あれ?リンじゃないかい。みんなの治癒は終わったのかい?マリウスが意気込んで声をかけ回っていたよ?」
「あぁ、そのことなら、マリウスさんの勘違いで人を集めてしまったようです。」
「え?どんな勘違いがあったっていうんだい?」
「全て勘違いです。そんなことより、リゼルさん、教えてほしいことがあるんです。」
鬼人族であることは伏せて、森で遭難者を保護したが、彼らが飢餓状態にあるため、食事や看病の仕方を教えてほしいと伝えると、丁寧に詳しく教えてくれた。
さらに、看病に専念したいので、迷惑にならない量の食材を買い込ませてほしいと相談したところ、快く大量の食材を売ってもらえた。
時間はもう昼過ぎだ。急いで帰らなくちゃと、村を後にしようとしたその時、行商人がやってきた。
欲しいものや聞きたいことがあったからちょうど良かった。と行商人を呼び止める。
「おやおや?見ない顔ですね?旅の方ですか?」
「はい。旅人です!蜂蜜や砂糖などはありますか?いつも売れ残ってしまうような商品はありますか?上級ポーションはありますか?スティールメアの肉は買い取ってもらえますか?」
急いでいたため、矢継ぎ早に声をかけて行商人を困らせてしまった。しかし、スティールメアの肉については、日持ちを考えてこっそり生産魔法で加工して、乾燥したものと塩漬けしたものを見せると、大層喜んでくれた。とても人気があり、都市部では高値で取引されるらしい。
「蜂蜜や砂糖は嗜好品で、この辺りの村々ではあまり売れないんだ。そんな高価なものを食べるくらいなら果物を食べるって言われてしまうんだよ」
と、行商人は苦笑いしていた。
同じように、質の良い石鹸も高級品であまり売れないらしく、上級ポーションに至っては都市部でも手に入らない貴重品だと教えてもらった。
スティールメアの肉を売ったお金で買えるだけ売ってほしいと伝えると、行商人は嬉しそうにニコニコしながら手持ちの蜂蜜、砂糖、石鹸のほとんどと、小金貨数枚のお釣りを手渡してくれた。
正当な価格での取引だったのかはわからないが、良いお客さんにはなれたことは間違いなさそうなので、まあ、よしとしよう。
これで引きこもって看病する準備は整った!死告げの花園の坂を駆け上がろうとしたとき、後ろから声がかかった。
「リーン!!マリウスと喧嘩したのかー?」
振り返ると、ガルドさんが息を切らしてこちらに向かってくる。
「ガルドさん…?マリウスさんと喧嘩するほどの仲じゃないこと、ガルドさんもご存じのはずですよね?どうして結婚なんて話が出てるんですか?」
「…え?いや、あいつは腕も立つし、叔父の俺が言うのもなんだが見た目も悪くないから村一番のモテ男だ。マリウスの浮かれようを見ると、てっきりお互い一目惚れってやつかと思ってたんだが…違うのか?」
「違いますね。浮かれて勘違いしてるのはマリウスさんだけです。私は何とも思っていませんので、ガルドさんからもそう伝えてください。すみませんが、急いでいるのでこれで失礼します!」
「あ、ちょっと待ってくれ!リン!!」
あまりに世間知らずだと、この世界の人と関わるたびに思わぬ勘違いを招いてしまうから、気をつけないといけない。困ったものだけど、とりあえず自分の意思はしっかり伝えたはずだ。
くだらない話で立ち止まっている暇は今はない。ガルドさんに軽く頭を下げ、洞窟に急いで戻った。
洞窟内は静まり返っていて、戻って早々、2人が心配で駆け寄り、呼吸を確かめてしまった。
「良かった、生きてる。すぐにご飯を作るから、もう少し待っててね。」
リゼルさんの話では、パンで作るミルク粥や野菜の煮込みスープ、蒸した果物を数時間おきに食べさせると良いそうだ。
パンはまだ作っていないから、フローリーフの出汁とご飯で重湯を作った。
「口に合うかわからないけど、頑張って食べてね。」
少しずつスプーンで口元に重湯を流し込むと、ゆっくり飲み込んでくれているのがわかった。
大切なのは、焦らず、少量をゆっくり時間をかけて何回にも分けて食べさせること。
それから、クワックバニーの骨でとった出汁に、細かく切ったジャガイモ、ニンジン、トマト、玉ねぎ、キャベツ、ニンニクを加えてじっくり煮込み、最後にローズタイムでハーブの効能と香りとをつけてスープを完成させ、蒸したリンゴはすり潰してペースト状にする。
この3種類を、数時間おきに与え続けた。




