こちらの常識わたしの非常識
朝から採取しつつ村に向かう。
行商人が明日まで来ないって言ってたし、それまで村にポーションがないのが心配なんだよね。それに、昨日治癒したマリウスさんの様子も見ておきたいな。手を出したからには、最後まで責任をもたないとね。
ジリジリジリジリジリジリジリジリ!!!!
警告音が鳴り響く。
キーッギィィィギャシャンッギャシャンッ
鋭く耳に突き刺さるような金属が擦れ合う摩擦音と虫嫌いは卒倒するような不快なシルエットが見える
「うっげぇ!超巨大ムカデだよー!足100本どころじゃないじゃん!気持ち悪い…」
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**鑑定結果***
スティールメア
**特徴**:体長が数メートルにも達する巨大なムカデ型モンスター。外見はムカデに似ているが、体節ごとに硬く黒い光沢を放つ金属のような外骨格を持ち、まるで自然の防具を纏ったかのような姿をしている。移動時には、金属が擦れ合うような不快な音が周囲に響き渡る。
**特性**:外骨格は並の武器では傷をつけることができないほど硬く、物理的な衝撃を吸収し、さらに魔法を弾く特性を持つ。そのため、討伐には特別な武器や戦術が必要となる。非常に機敏で、縦横無尽に地形を駆け巡り、縄張りに侵入する者には容赦なく攻撃を仕掛ける。その力強い顎と硬い外骨格で、圧倒的な力を誇る。
**価値**:繁殖力が低く、生息数が少ないため、その素材は非常に希少で高価である。外骨格は貴重な防具の素材として重宝され、その防具は硬さ、衝撃吸収能力、魔法防御力に優れ、特に高ランクの冒険者や王族に愛用されている。しかし、外骨格が非常に硬いため、通常の鍛冶技術では加工が困難であり、加工には特殊な魔法鍛造法が必要とされる。このため、スティールメアの素材を使った防具は非常に高価であり、手に入れられるのはごく一部の者のみである。
***特記**:透き通るような白身の肉には、滋養強壮効果があり、体力や健康の維持・回復に役立つ。また、精力剤としても重宝されている。味は、噛むたびに広がる濃厚な旨味とぷりっとした歯ごたえが特徴で、後味にはほのかな甘みが残る。生食可能だが、焼いたり揚げたりすることでさらに濃厚な風味が加わり、独特の深みが引き立つ。
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「どーやって倒すのよぉー!物理も魔法もダメって無敵じゃない?イヤァァー!!近づいてくるー!!埋めるか!そうだ!埋めよう!!」
地面に手をつき、全力で落とし穴をイメージする。自分の正面からスティールメアの後方までの地面を、一気に魔力を放出して切り取り、アイテムボックスに収納した。
足が何本あろうと、地面がなければ歩けない。5メートルほどある巨大な体が、深く掘られた穴に音もなく落ちていく。
穴を覗き込み状況を確認することすらせずに切り取った地面を元に戻した。ついでに重力をかけるイメージで魔力を込めた。
これでどうだろう?ムカデって地面掘り進むタイプだっけ?窒息でどうにかできない?
探索スキルでスティールメアのシルエットを確認すると、押し固められた地中でもがくこともできずにいる。しかし、まだしぶとく生きているようなので、近くを探索しながら時間を置くことにした。
近くの地中の反応を鑑定する。
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**鑑定結果**
グロウルート
**特徴**:地中深くで育つ特殊な植物。日光を必要とせず、地下で根を広げながら増殖する。地表には姿を現さず、その存在を確認するのは極めて難しい。発見には特殊な魔法や探索スキルが必要とされ、「大地の隠された宝」として知られている。
**特性**:根は十分に成長すると、すりおろすことで非常に滑らかなクリーム状になる。このクリームは周囲の魔力を吸収し、長期間にわたって保持する性質を持つ。魔法使いや錬金術師は、グロウルートのクリームに吸収させた魔力を活かしてポーションを作る。ポーションには必要不可欠な素材で高値で取引される貴重品。
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「貴重品はっけーん!!」
運良く大量のグロウルートを発見。収穫し、しばらくしてからスティールメアを確認すると、無事?に仕留めることができていてアイテムボックスに収納できた。
今回のように素人でも安全に討伐できる卑怯な方法を考えながら色々試していかなきゃね。
そうこうしながら、昼前には村に到着した。門に近づくと昨日顔見知りになった門番は笑顔で迎え入れてくれる。
「おう!リンさん今日も来てくれたのかい!」
「おはようございます!マリウスさんの具合をみにきました。どこに行けば会えますか?」
「マリウスならガルド隊長と詰所にいるよー」
詰所に到着すると、扉が開いていて話し声が聞こえる。
「そんで?なんで昨日はクワックバニーが群れでいるような森の奥まで入った?死ぬところだったんぞ!!」
ガルド隊長の声だ。
「昨日は友達と狩りに行ったんだけど、ちょうど同じく狩りをしていた隣村のやつと出会ってさ、森の中で怪我した鬼人族を見たって話を聞いたんだよ。」
「鬼人族だと?あの、角を手に入れて売ったら一生遊んで暮らせるって噂のか?」
「そうそう、それだよ!怪我してるなら、俺達でも倒して角を奪えるかと思ってさ…それで鬼人族を探しに森に入ったんだ。叔父さんに育ててもらった恩を、返せるチャンスかと思ってさ…」
ちょっと盗み聞きしてしまったが、そろそろ邪魔しようとノックする
コンコンッ
「お話中すみません。怪我の治り具合は問題ないか確認に来ました。」
「リンさん!俺の命の恩人!愛しの女神!会いに来てくれたんですね!」
マリウスが瞳をキラキラさせながら駆け寄って、両手を握ってきた。
え?この人、なんでこんなに馴れ馴れしいの?なんなら会話するの初めてだけど?女神とか言われた?
とりあえず、握られた手を振り解きながら挨拶する。
「おはようございます。マリウスさん。身体の調子は問題ありませんか?ガルドさんも、昨日は色々教えていただいてありがとうございました。」
「リンさん、昨日は命を救ってくれて本当にありがとう!リンさんの魔法のおかげで、身体も元通り元気になったよ。今日も様子を見に来てくれるなんて、本当に嬉しいな。今日は俺が村を案内するよ!それから、食事をご馳走させてほしいんだ。何時頃まで村にいられる?
マリウスが矢継ぎ早に返答したせいで、言葉を発するタイミングを失ったガルドさんは、苦笑いしながら手を挙げて挨拶を返してくれた。
「あそこまで大きい怪我に治癒魔法を使ったのは初めてなので、詳しく教えてもらえませんか?昨日の治癒後、傷口に痛みや痒み、動かしたときに皮膚がひきつるような違和感はありませんか?無理なく動かせていますか?体調全体はどうでしょう?疲れやすさや目眩、痛みが残っている部分があったり、不快な症状があれば教えてください。」
「リンさん!ご覧の通り俺はもう大丈夫!それより牛肉は好きかな?」
はい。この人話が通じないタイプの人です。面倒なので勝手に鑑定してみると貧血状態とでている。昨日かなり出血してたし、治癒魔法は血液を作り出す効果はないからね。確かに顔色が悪い気がする。
血液の生成を促して貧血状態を回復するような魔法も使えると思うけど、これ以上馴れ馴れしくされるのは嫌だから早々に退散しよう。
「牛肉は好きですが、今日は予定があるので帰ります。これ、スティールメアの肉です。滋養強壮効果があるらしいので、よかったらガルドさんと食べてください。」
「えっ…!!…こんな貴重な肉を俺に…?ありがとう。大事にいただくよ。明日の予定は?また来てくれる?」
「今日は村に中級ポーションがないのが心配で、怪我人が出ていないかと、マリウスさんの具合を確認しに来たんですが、明日は何時頃に行商人さんが来るんですか?」
「村のことも俺のことも心配してくれてありがとう!行商人はいつも昼過ぎには来るけど、もし都合が悪くなければ、明日も来てくれないかな?」
「わかりました。明日も今日と同じ時間くらいに顔を出しますね。」
「じゃあ、明日もここで待っているね!嬉しいよ!もう少し話したいから、死告げの花園まで送ろう!」
「いいえ、少し買い物がありますし、マリウスさん、顔色が悪いので休んだほうがいいと思います。ガルドさんも、また明日!失礼します。」
次の提案をされる前に、バタンッと扉を閉めた。早く逃げよう。ガルドさんはお人好しで良い人なのに、甥はなぜあんなに押しが強いのだろう?
まぁ、治癒魔法の実験台になってもらったようなものだから、お礼としてスティールメアのお肉をあげたけど、明日までは我慢して様子を見てあげようかな。
帰りがけにリゼルさんの食材屋に立ち寄ってハードチーズと明日行商人がきて仕入れられるからと小麦粉をたくさん売ってもらえた。
そろそろ家(洞窟)にパン焼き釜戸を作ろうかなーと考えながら木の実やハーブを採取しつつ帰った。
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クワックバニーを1人で倒すことができたら一人前。倒せなければ森には入れない。これが村の常識だ。
一般的には、日々鍛錬を重ねて18歳頃にクワックバニーを倒せるようになる者が多いが、俺は親代わりでもある衛兵隊長の叔父に小さい頃から鍛えてもらったおかげで、俺は15歳でクワックバニーを倒せるようになった。
友達には一目置かれ、カウグラス村だけでなく、隣村の女性陣からもチヤホヤされてきた。
20歳を目前に、結婚を急かされる年齢になったが、自分に見合う生涯愛し続けられるような女はカウグラス村にも隣村にもいない。
そんな時、手負いの鬼人族の噂を聞いた。今の俺なら鬼人族を倒して角を手に入れられるだろう。角を売って育ててもらった礼として叔父に少しの金を渡し、残った金で自分に見合う女探しの旅にでも出ようと意気込んだのも束の間。
3匹のクワックバニーに襲われた。1匹なら苦戦することなく倒せるが、3匹ともなると、あいつらは連携プレーで3匹以上の攻撃力を持って襲ってくる。
友達と3人で行動していたが、3匹のクワックバニーとの戦闘となると、彼らは足手まといになる。友達を岩陰に隠れさせて1人で戦ったが、さすがに死闘だった。
気がつけば、見慣れた詰所に運び込まれていたが、友達や同僚たちの悲痛な声が聞こえてきた。
中級ポーションがないらしい。確かに最近、建物の補修工事中の事故やモンスター討伐時の衛兵の怪我、牛が暴れて牛飼いが怪我をするなどが続いていた。
俺もここまでかと全身の痛みと死の恐怖に震えていたが、エルディアーナ様は俺を見捨てなかった。
なんならエルディアーナ様が現れたのかと思った。突然、神々しく美しい女性が現れ、暖かい光で俺を癒してくれた。
身体の怪我が癒えていく安心感と、やっと運命の人に出会えた喜びに包まれながら、意識を手放した。
翌朝目覚めると、叔父が昨日の出来事を説明してくれた。俺の女神は『リン』という名前らしい。しかも、なんと無償で治癒してくれたそうだ。この恩は一生をかけて返していこう。
今は修行中の仲間と森の中にいるらしい。可哀想に。あんなか弱そうで美しい人を森で生活させるだけでなく、村に買い出しに来させてコキ使うなんて。どうせリンさんの治癒魔法に頼りきりで、大して強くもない奴らに違いない。
リンさんはこの国出身ではないようだが、俺と結婚すればルミナール王国民になれるし、治癒魔法が使えるからこの村の聖堂に居住場所を増築して住めば良い。
そんなことを考えながら叔父さんの怒号混じりの追及に答えていると、
コンコンッ
女神が現れた。小さな女性らしい手を握ると、照れているのかすぐに振り解かれてしまった。村の案内や食事の誘いも断られたが、それがまた新鮮だった。この辺りの女たちは、皆向こうから誘ってくるものだから。
しかし、明日も会いたいと声をかけてみれば了承をもらえた。それに、俺の顔色の悪さに気づいて体調を気遣ってくれただけでなく、精力剤として有名なスティールメアの肉をプレゼントしてアピールしてくれた。女から男に精力剤を渡すのはこの近辺では逆プロポーズの意味合いもある。
そうだ!村には足腰が痛む年寄りや、軽い怪我を負っている衛兵隊も多い。転んだりケンカして怪我した子どもたちもいる!みんなを集めて、リンさんに治癒魔法で治してもらえば、俺との結婚を皆に認めてもらえるし、きっとお礼として村人総出で聖堂に居住場所を増築してくれるに違いない!
そう考えるといてもたってもいられなくなり、マリウスは村人たちに声をかけるため、詰所を飛び出した。




