29 カレンの告白
「よぉリュー、悪いな。こっちで勝手に話を進めちまって。でも、お前にはどうしても伝えておきたかったんだ」
買い物の途中、ミナトの告白を受けた。
そしてもう一人、カレンも俺に話があるらしい。
突然のことに俺の頭は混乱しているが、真剣な二人の想いはキチンと聞くべきだろう。
「ミナトに聞いたろ、話。あいつ、結構重い将来背負っているからなぁ、あはは。……だからこそ、一緒にいてくれるパートナーには妥協したくなかったんだろ。分かるよ。私だって同じ気持ちだし」
金髪ヤンキー娘カレンがさっきミナトが座っていた席に座り、真っすぐ俺を見てくる。
笑ってはいるが、これは重い雰囲気を出したくない、誤魔化し笑いに近いか。
「私のとこってさ、おじいちゃん……祖父が旅館やっていてさ、どうやら後継者がいないってことで数年後に畳む予定なんだ」
カレンのご両親は共働き。普通の会社に勤めていて、旅館で働いてはいない。
後継者、か。
「私、あの旅館好きでさ。雰囲気とか場所とか、子供の頃から大好きだったんだ。その旅館が無くなるのか、と思ったら我慢出来なくてよ。中学卒業間際に、私がそこを継ぐって言ってしまってよ、あはは」
旅館の女将、カレン。
想像してみるが、おお、普通に似合う。
「両親には大反対されてさ、お前じゃ無理だって。あはは……まぁ私、頭悪いしな。で、食い下がったら条件一個出されてさ、それが結婚ってやつさ。ようするに私一人じゃ足りねぇから、サポートしてくれるパートナー見つけろってこと」
カレンがじーっと俺を見てくる。
「ミナトにも言われてお前も大変だろうけど、このタイミングだからこそ言わせてくれ。なんか結婚相談所……? に高校卒業したらすぐに登録しろとか言われてて、ったく、そんな知りもしねぇやつなんて信用できっかよ。私がこの身体を許すのは、この世で一人だっつーの」
一つ、間を置き、カレンが右手を突き出し拳を作る。
「子供の頃からお前は私のヒーローなんだ。私が転んで泣いていたらすぐに駆け寄ってきて、出来もしねぇのに、背負おうとしたり。小学生の時、二人で初めて料理したときもよ、リューは上手く出来たのに、私失敗しちゃって。絶対に美味しくないのに、それをリューは笑顔で私の手作りだから美味いって……あはは、思い出したら泣けてきた」
あれは俺の誕生日だったか。
カレンがケーキ作るとか言い出した話。混ぜる量を間違えて、それはそれはモッサモサだったな。美味しくは……なかった。
でもカレンが一生懸命作ったんだ。その想いは俺に伝わってきた。
だから、美味かった。
「中学のときに荒れて変な方向に進んでしまってよ、心配したリューが話しかけてきても無視しちまって……マジだっせぇよな、私。ずっと私を見ていてくれた、大切な人だってのに。旅館を継ぐってなったとき、やっぱ最初に、というか私の心にいる男ってお前だけなんだって分かった。高校初日、うぜぇ男に絡まれたとき、当たり前のように私を助けてくれた。見返りとか欲とかじゃねぇ、私のことを想ってくれた行動。……かっけぇ、やっぱリューがいい、私にはこいつしかいねぇ。勝手に離れていって、勝手に近付いてきて勝手なことを言う私をどう思うか分からねぇ。でも私、双葉カレンは虎原リューイチと一生一緒にいたい」
高校初日の話。ミナトとカレンが絡まれて困っていたから助けたのだが、二人には無言でじーっと見られた。
ミナトにも言われたが、カレンも怒っていたわけじゃあなかった、と。
「でもリューには喫茶店もあるしな、お前の想いを無理矢理曲げるつもりはねぇ。ただ、私は一方的にリューと結婚したい。そういう宣言だ。高校卒業したらもう一度言う。その時お前の気持ちを聞かせてくれ」
カレンは中学の時、成績はかなり下のほうで、俺がいる高校に入れる状況ではなかった。
でもカレンは決心し、俺と一緒の高校に行って仲を取り戻し、想いを伝えようと頑張ったらしい。
そして一気に学力を向上させ、ギリギリ俺と一緒の高校に合格。
合格発表の日、カレンはマジで嬉しくて泣き崩れたらしい。それほど、とても強い思いで努力をしたのだろう。
うん、格好いいぞ、カレン。
俺はこの日、ミナトとカレン、二人に想いを告げられ、二年後に答えを求められた。
では俺はどうなのだろう。
二人のことは好きだ。でもこれがライクなのかラブなのか、今の俺では判断がつかない。
二人には幸せになってほしい。
これは本音だし、その為なら俺は……
「まぁ今は悩むな、リュー。あはは、高校の間は三人で楽しくやりてぇんだ。どっちも選ばない選択だってある。それはお前の人生だ、自分で選べ」
多分俺が相当困った顔をしていたのだろう、カレンが笑顔を見せてくる。
「でよ、これは私を選んだ特典なんだけどよ、なんとこの身体が全部リューの物になる。どうよ、リューって結構私の身体、見ていたよな? ほら、触りたいだろ? 私にして欲しいこと、あるんだろ? あはは」
カレンがいつもの顔に戻り、俺をからかってくる。
大きな胸を寄せて上げてのアピールポーズ。
おおお……すっご……って、チラチラ見ていたのはバレていた、と。
「ちょっとカレン! そういう釣り方はずるいですよ! あ、リューくーん、それならカレンより私のほうが胸のサイズ大きいんですよ。ほら、こっちのほうがいいですよねー? ふふふふ」
向こうにいたミナトが駆け寄ってきて、同じように胸を寄せて上げてのポーズ。
いや、二人ともかなり大きいから、そんなに差はないような……そしてフードコートでそれはマズイです。ほら、周りの視線がすごい。
俺は立ち上がり、二人の手を握り歩き出す。
「あ、リュー君力強ーい。ふふ、今はこれでいいんですよ。ね、カレン」
「ああ、これでいい。高校はこの三人で全力で楽しむ。な、ミナト」
二人が俺に引っ張られながらも見つめあい、ニッコリと微笑む。
今はこれでいい、か。
タイムリミットはあるだろうが、それは今ではない。
俺が答えを出すには考える時間も必要だろうし、高校のあいだは今まで通りの三人でいよう。
大丈夫、しっかりと答えは出すさ。




