22 野外学習のグループ分けトラブル
「ではプリントを回してくれ。読んで質問があったら挙手なー」
ゴールデンウイークも終わり、俺の日常は高校一年生という現実に戻った。
連休中は幼馴染みのハイスペック美女、ミナトとカレンと一緒に映画を見たりと結構充実したものだった。
映画のあと? ああ、待機中だったミナトのイケメンハーフ運転手、ジェイロンさんが偶然たこ焼き片手に現れたので、そっちに飛びついた。
追加で全員分のたこ焼きを買い、広いフードコートで四人で映画の話をしてから帰ったぞ。
ジェイロンさんは映画が好きらしく、知識もあり話し方も面白くて最高だったな。
ミナトとカレンはちょっと不満そうだったが。
でもジェイロンさんがいなかったら、その後三人一緒の写真とか撮れなかったし、合流して正解だったのでは。
映画の翌日以降、二人は俺の実家の喫茶店でのアルバイトにも来てくれたので、連休中はずっとミナトとカレンと一緒に過ごしていたな。
あんなハイスペック美女二人と一緒とか、本当に贅沢なゴールデンウイークでした。
中学時代の俺の携帯端末には、通学中に一人で撮った季節ごとの風景写真とか、ゲームのスクリーンショットぐらいしかなかった。
それが高校生になってまだ一か月ちょいだってのに、すでに中学校三年間で撮った写真の枚数を超えているという事実。
ミナトとカレン。二人の写真が、俺の端末にとても色鮮やかに残っている。
中学からの親友佐吉に、『笑顔が増えたな』と言われたが、そういえば二人と疎遠だった中学の時は、笑顔になるような楽しいこととか、充実した時間は俺には無かったのかもしれない。
今、ミナトとカレン、二人と過ごす時間は本当に楽しい。
子供の頃のような仲良し三人組の時間が、今後いつまで続けられるのか分からない。ある日突然終わりを迎えるかもしれない。
だからこそ、今、この時間を大切にしよう。
フードコートで三人笑顔の写真を見ながら、俺はそう思った。
あと、さっき佐吉に、ゴールデンウイーク中の出来事は一切伝えていないのに、『子供向け映画www』と笑われたが、あいつはどこまで俺たちのことを知っているのか。
あいつとの関係は……別に切っても問題はないな。俺はそう思った。
「えーと、野外学習か」
担任の先生がなにやらプリントを配ってきたので見てみると、そこには楽しげなフォントで書かれた『野外学習』の文字が。
バスで一時間ほどの海辺に行って、そこで四人以上のグループごとに分かれ炊事体験をするもの。
ってこれ、こないだ行った、ミナトの会社の高級リゾートホテルの近くの河原じゃないか。
「川瀬さーん、私たちとグループ組みましょー」
「川瀬さん、俺たちと一緒にカレーを作りませんか」
「双葉さん、どうかな俺たちと」
プリントが全員に行きわたると、突如始まる人選ドラフト。
クラス委員でもあり、誰に対しても優しい黒髪お嬢様ミナトに一斉に声がかかる。うっは、すっごい人気。
ミナトには女子が多く、金髪ヤンキー娘カレンにはイケメン男子が集中。
イケメン君たちはカレンの身体を舐めるように、ニヤニヤしながら見ている。露骨だなぁ……。
うーわ、カレンが最高に機嫌の悪い顔で、舌打ち&睨みつけのコンボだ。
二人がクラスメイトに囲まれながらも、チラっと俺を見てくる。
出来たら二人を誘いたいが、キラキラしたクラスメイトに囲まれている状況で、カースト下位の俺が割って入れる雰囲気じゃあないよな……。
下手したら反感買うだろうし。
「俺、実家の喫茶店で人気のチキンカレー作るよ。材料も俺が揃えるから、みんなは残さず食べてくれれば……」
とりあえず四人、佐吉にクラスのゲーム仲間である浜野、久我山と組んで集まり、役割分担をしていたら、そこに迫る影が二つ。
「私も一緒でよろしいでしょうか? リュー君の家のチキンカレー、私大好きなんです」
「おぅ、私もだ。悪いがこのグループに入らせてもらうぜ」
そう言い、クラスメイトの囲いから抜け出てきた二人の女性が、俺たちの輪に入ってくる。
ちょ、いいのかよ二人とも、こっちで。
クラスカースト底辺の男グループに、上位も上位、黒髪お嬢様ミナトと、金髪ヤンキー娘カレンが参入でクラスメイトがざわつく事態に。
特に浜野と久我山が、目を見開いて驚いている。
「ええ、か、川瀬さんに双葉さん……! こ、このグループに入ってくれるの?」
「す、すっげぇ……雲の上の存在だと思っていたのに……虎原がいるとすげぇことが起こるな」
まぁハイスペック美女二人、ミナトとカレンは見た目と放つオーラがモデルさんとか芸能人クラスだからな……。
この二人を近くで見たら、免疫のない男は大抵こういう反応になるだろう。
ああ、俺もだけど。
「ふふ、よろしくお願いしますね、浜野君、久我山君」
「お前ら何もしなくていいぞ。リューと私で作るからよ」
黒髪お嬢様ミナトに微笑みながら名前を呼ばれ、金髪ヤンキー娘カレンに軽く睨まれ、男二人が真っ赤な顔と恐怖で固まる。
「あら、私だってお手伝いぐらい出来ます。アルバイトのあいだ、ずーっとリュー君の後ろ姿を見ていましたから」
「私は家でも妹たちの為に料理すっけど、ミナトはしねぇだろ? なぁお嬢様? あはは!」
そしてその美女二人が、怯える俺のゲーム仲間の前で睨み合い。
や、やめろお前ら。こいつら俺より免疫ないんだから。
金髪ヤンキー娘カレンは両親共働きで、家でよく妹たちに作っているから、料理はかなり出来る。
黒髪お嬢様ミナトは……華麗な仕草で食べる、専門かな……。
「あーもう、じゃあ二人は俺のサポートな。俺のグループは楽しくやる、がルールだ。守れないのなら、当日カレーの量を減らす」
「は、はーい、仲良くやりまーす! リュー君怒らないでー」
「わ、悪かったってリュー。お前のカレーだけが楽しみなんだからよ」
この二人と一緒は楽しい。
楽しいが、結構トラブルも多い。
俺はなるべく平和に行きたいので、頼むから俺の処理能力を超えるトラブルはよしてくれよ、二人とも。
「なぁリューイチ。川瀬さんと双葉さんの作ったカレーって、売れるんじゃね? ひひ」
そして妙に大人しかった悪友佐吉が始動。
高校の授業の一環で、商売なんて出来るわけが無いだろ……。売れそうだけど。
始まる前から不安なイベントになりそうだぜ、野外学習。
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影木とふ




