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エピソード5:


火星での野菜栽培が軌道に乗り始めた頃、灯牾とうごは新たな使命を与えられた。それは、火星での長期滞在を目指す「火星居住計画」への参加だった。


この計画では、火星に恒久的な居住地を設立することが目標とされていた。灯牾とうごの役割は、その居住地での食料生産システムの確立だ。


「火星で、八百屋になるとはなあ...」


そう自嘲気味に呟きながらも、灯牾とうごはやりがいを感じていた。地球から遠く離れたこの地で、自分の存在意義を見出せたのだから。


火星居住地の建設が進む中、灯牾とうごは日々研究に没頭した。限られた資源の中で、いかに効率的に野菜を育てるか。その答えを求めて、試行錯誤の日々が続いた。


そんなある日、灯牾とうごは一通のメッセージを受け取った。それは、かつての上司からの手紙だった。


「灯牾、君の活躍を聞いているよ。八百屋時代、君を見くびっていてすまなかった。君は、本当に素晴らしい人材だ。地球の青果市場も、君を誇りに思っているよ」


その言葉に、灯牾とうごの目が潤んだ。長い間、認めてもらえなかった自分の存在が、今、遠く離れた地球で認められているのだと実感した瞬間だった。


火星での生活は、決して楽ではなかった。厳しい環境の中で、時には挫折感を味わうこともあった。しかし、灯牾とうごは諦めなかった。


「この野菜たちが、未来の火星人の命を支えるんだ」


そう自分に言い聞かせながら、灯牾とうごは野菜たちと向き合い続けた。


そして、ついにその日がやってきた。火星居住地が正式に開設され、灯牾とうごが育てた野菜が、居住者たちの食卓に並んだのだ。


「灯牾さん、あなたの野菜のおかげで、火星での生活が豊かになりました。本当にありがとう」


居住者の一人が、灯牾とうごに感謝の言葉を述べた。その言葉に、灯牾とうごは込み上げてくるものを感じた。


「いえ、私はただ、野菜を育てただけです。野菜の力なんです」


そう謙遜しながらも、灯牾とうごの心は満たされていた。自分の人生が、多くの人の幸せに繋がっていると実感できたからだ。


火星に野菜を根付かせた男。それが、いつしか灯牾とうごの新しい呼び名になっていた。手取り28万円の八百屋から始まった物語は、今や、宇宙を舞台に、新たな伝説を紡いでいる。

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