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プロローグ

人生初の小説。一歩ずつ進んでいきます。

岩城灯牾いわきとうごは、八百屋さんである。正確にいうとスーパーマーケットの青果担当として20年以上働いている。20年勤めても手取りは30万円を超えないが、灯牾とうごは現状に満足している。


女性が苦手だったのに結婚できて子供を1人授かった。独身の時に婚活のために飲み会に参加しても、一言も話せなかった恥ずかしい記憶が、いまだに覚えている。「あの時に頑張ったから、今がある。」と。

35歳で八百屋デビューして、年下に怒られて馬鹿にされて。転職を2回して、前職ではリーダークラスの役職だったのに八百屋にチャレンジした。


前職の経験が役に立ったのが売り場作りだ。自動販売機でドリンクを補充していた灯牾とうごは、八百屋の売り場との共通点に気づいた。どういう配置で商品を並べたら、売上が最大化するのかを売上データと睨めっこしながら、活路を見出した。商品は素人でもマーケティングのスキルが活かせされた。お店の青果部門のトップであるマネージャーという役職には、前例がないほどに早くに昇格した。


入社時には、キャベツとレタスの区別すらわからなかったのに、今では地域のお客さんに頼られている。


「野菜や果物のことは何でも知っている」


そんな風に言われることに誇りを持っている。実際にナマの野菜を育て始めて、さらに野菜に詳しくなろうとワクワクしながら毎日を過ごしていた。つい先日には昔の部下が遊びにきたので、「今が楽しい」と存分にアピールしてやった。かつて3年間も一緒に仕事をして、ガミガミ起こり続けた昔の部下に、ドヤ顔が出来たと思う。


世間から見たら不遇に思われる境遇だが、灯牾とうごは幸せだ。休みが無くても、旅行にすら行けなくても灯牾とうごはニコニコして毎日を過ごしていた。20年の経験は、職場での居心地をプラスに作用させていた。


店長が何度変わっても、灯牾とうごだけは異動がなく残り続けることが出来た。新しい店長が来たら、逆に灯牾とうごが教えを請われる立場となっていた。お店を支えているのは、お客さん。灯牾とうごは、お客さんについて誰よりも詳しいからだ。いくら学歴が高い店長が来ても、この店舗のお客さんに対する知識で灯牾とうごの右に出る者はいなかった。



その日、灯牾とうごはいつものように20時を過ぎても残業をしていた。出勤は朝6時だ。タイムカードはとっくに押している。稼働時間が長いと人事から注意されるので黙ってサービス残業をするのが暗黙のルールだ。

就業規則で決められた労働時間ピッタリになるように、タイムカードを押した。この裏ルールは新入社員の時に教わったが、これにも納得している。


入社当時はグループで4000億円だった売上も、20年で600億円にまで落ち込んだ。売上が減少すれば、経費削減が求められる。より少ない人員で仕事を回す、ということだ。かつて、この八百屋には正社員が4人いた。売上の減少とともに、1人また1人と社員が減っていった。


会社を維持するには仕方ないのだろう。灯牾とうごは理解している。自分と家族、働くパートさん、お客さんが最大限に幸せになるために一生懸命なのだ。


今は灯牾とうごが、たった1人の社員として、パートさんの力を借りながら現場を回している。



暗い作業場で、帳簿を付けながら灯牾とうごは昔のことを思い出していたーーー

2024.4.6 加筆・修正。

2024.4.5 追加。

2024.4.4 書き出し。

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