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凱旋パレード 

王都内を進み続けた勇者凱旋パレードは、盛況のまま間も無く終わりを迎えようとしている。

最後は群衆観衆の元、城外の大庭園にて、王族が勇者パーティを迎え入れ、賛辞や労いの言葉と共に締め括る流れだ。


ナトリは、式典用の馬車で、長時間笑顔と一緒に手を振り続けるという慣れない行為を続けた所為か、少し疲れて小休止を取る。

そんな中、女戦士がナトリに声を掛けてきた。


「そういや、キチンと聞いてなかったけど……勇者パーティ解散後、ナトリはどうするの?」


「少し迷ってる……村の孤児院に戻ろうか考えていたけど」


ナトリの両親は、魔王率いる魔物から当時まだ赤子だったナトリを庇い亡くなった。

偶々修道女に拾われて、12歳まで教会が運営する孤児院が彼女の居場所となっていた。


そして、その時教会に居た聖女候補生の確認に訪れた勇者カイザーに、(その容姿が)偉く気に入られ真の聖女として勇者パーティに半ば強制的に参加させられたのが、悪夢の始まりである。


聖女見習いですらない自分が何故、選ばれたのか………その時は分からなかった。

聖女候補生だった優しいお姉さんが、引き攣った笑みで祝福してくれた顔が今でも忘れられない。


(きっと、勇者様に何か特別な考えがあっての事だろう)


当時は無理矢理にでも、そう思いたかったナトリだが、その考えそのものが見当違いで浅はかだった事をすぐに思い知らされる。

旅立ちの前日、その疑問を思い切って勇者カイザーに直接尋ねてしまったからだ……。


「何故、候補どころか見習いですらない君を選んだのかだって?」


カイザーは肩まで伸ばした金髪をキザったらしく掻き上げながら、平然と答える。


「それはね……君がそう遠くない未来に僕好みの美少女になりそうだったからさ、どうだい? 嬉しいだろう?」


この回答を聞いた時、ナトリは何かの冗談かと思った………んがっっと開いた口が暫く塞がらなかった位だ。

聖女としての素質や潜在能力を見抜いた………という訳でなく、単に好みの女の子になりそうだったから、勇者自らが執り行うパーティ選抜が、そんな理由とはナトリでなくとも思うまい。


色々と察したナトリは、早々に辞退を申し出たものの、旅立ち前日という事もあり、何よりも勇者であるカイザーの意思決定は絶対であった。

たかだか12歳の子供であるナトリが逃れる術は、皆無だったのである。


……村を出る時、孤児院の仲間達と聖女候補生だったお姉さんが見送りに来てくれたのを覚えている。

聖女候補生に選ばれる事すら相当の難関だと聞いた事がある。

きっと見送りに来るまでに様々な葛藤があった筈だ。

それでも、お姉さんは少し腫れた目を晒しながらも、優しく抱き締め旅の無事を祈ってくれた。


ナトリは申し訳なかった……本来、選ばれる資格があるのは彼女だった筈なのにと、つい自責の念に囚われそうになる。

幸いだたのは、聖女の付き人として、エルフのリリィが一緒に行く事になった事だろうか……。


旅立ちの時の事を思い出した所為か、少しモヤっとした気が表れ、ついついカイザーを半眼で睨んでしまった。

そんな彼と目が合うと、何を勘違いしたのか、ハンドサインと同時にウィンクをしてくる。


相変わらずなカイザーの姿にナトリは小さく溜息を吐く。

まぁ、そんな女好きでお調子者の彼とも、もう少しで正式なお別れと思うと多少であるが、感慨深いものである。


「そういや、教会の孤児院出身だったね」


「ええ、どちらにせよ、一度はキチンと顔を見せるつもり」


困難だった魔王討伐を成し遂げたばかりで、今後の将来設計は、まだ白紙状態である。

孤児院の手伝いの他に、漠然と朧げに思い浮かぶのは、病気や怪我の人々を癒やす為に、各地を旅する事くらいだろうか……。


「もし良かったらさ、私たちと一緒に来ない?」


「一緒に?」


「ええ、女性陣だけで冒険者稼業やらない?って皆で相談してる所よ」


3年間、主にカイザーに振り回される事で苦楽を共にし絆を育んできた。

人間固まれば何かしらの対立や派閥が生まれそうだが、カイザーを除くと、皆が人格者で優しい心の持ち主だった為、大きなトラブルは一切起きなかった。

多少のいざこざは、お互いがフォローしあって無事乗り切ったのである。

ナトリとしても、そんな仲間達が大好きで、このままお別れするのは、寂しい気持ちがないといえば嘘になる。


「ふふ、とても魅力的な提案ね」

「でしょ?」


ナトリが笑顔で言うと女戦士はウィンクしながら同意する。

先程のカイザーにされた時は思わず身震いしてしまったが、普段から明るく優しい彼女のウィンクは思わず見惚れてしまう。


馬車は大庭園の中央まで進むと指定の位置で停止する。

王国兵士が旗を掲げながら左右に整列し進むべき道を築いている。

壇上で待つ国王陛下の手前まで、勇者率いるパーティ全員で、ゆっくりと歩く流れだ。


「とうっ!」


勇者カイザーは式典用の馬車からわざわざ飛び上がると、掛け声と共に回転を加えて様々なポーズを決めて着地する。

この過剰なパフォーマンスに群衆は湧き上がる。

当然の反応だなといった様子を見せながらも、カイザーはご満悦なようだ。


ナトリ達は、彼のような派手な演出をすることなく、設置された低い階段から静かに降りた。

先頭のカイザーは、片腕で合図しパーティを従えるように進む。

勇者とはパーティの旗印でもある、3年間の彼の言動や行動を考えれば思う事がない訳ではないが、ナトリは場の空気を読んで行動する。

その結果、あのように更なる悪夢が起こるとは、この時のナトリは、思いもしなかったのだ。



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