ショッピング
ナトリはショッピングモールに立ち並ぶ数々のブティックのショーケースに飾り立てられた衣服の数々に感動させられる。
「わぁ……」
どれも素敵でつい感嘆の声を漏らしながら、彼方此方と目移りさせる。
着慣れた聖女服もそれなりに愛着があり、別段嫌という訳ではない。
……が、ナトリとて年頃の女子、偶には他の服も着てみたい願望は常日頃、冒険時代からあった。
沙苗に連れられて、その内の店舗の一つに入店する。
ワンピースやブラウス、フレアスカートやチェック柄のミニスカ、カーディガンからジャケット、フリルやレースが過度なく上品に使用されてたり、色味なども全体的に落ち着いた衣装が多い。
生地の触り心地も良く、どの服も洗練されたデザインで沙苗がお勧めするだけあって良い店のようだ。
ナトリはその中の1着を選び、値段を確かめる。
「…………」
はて、見間違いだろうか3万円と値札に表示されている。
改めて見直しても、桁は変わらなかった……そっと静かに衣装を元の位置に戻した。
「どうやら、偶々高額な商品を手にしてしまったようね」
自分に言い聞かせるように、そう宣うと別の衣装を選び取る。
先程のより、ややシンプルなデザインのものだ。
これならば通常のお値段だろうと値札を確認するが、思いに反しそこには4万円と書かれている。
もしかして、この位の値段が服の平均価格なのだろうか?
金貨が32万で買い取って貰えたから勘違いしていたが、王国と違い、素材である金の価値が低いのかも知れない。
これでは、3、4着購入しただけで、所持してる資金の大半を消費してしまう。
「どうしよう……通常より安価な服屋さんを紹介して貰うべき?」
ナトリがウンウン悩み始めていると沙苗が見繕ったのか、何着か服を手にして戻ってくる。
「これなんか、どうでっしゃろ? ナトリはんによーうつって……似合ってはると思ったのだけど」
彼女の持ってきた服は襟が何層にもなったブラウスで、フリルがふんだんに盛り込まれてある。
それに合わせたのか裾にレースの付いた空色のミニスカートも見せてくる。
貴族の子女が、ドレス以外の時好んで着るようなデザインだ。
「今の手持ちの所持金を考えると、余り多くは買えそうもないわ……他に服が安価な場所を、沙苗さん知らない?」
「ナトリはん……支払いは全部、あたしがするに決まってるじゃないの」
沙苗はそう言って黒いギルドカードのような物を指で挟んで取り出して見せた。
それが何か知らないが、このタイミングで出すということは、支払いに関係あるカードなのは確かだろう。
「ええっ!? 何を言っているの。そういう訳にはいかないわ」
「ふぅ……ナトリはんこそ何言うてはるの? あたし達は家族になる……親が娘の服を購入するのは普通やんか」
「だけど、流石に甘えが過ぎると言うもの……私達は今日出会ったばかりだし」
今にして沙苗の養子になる。ひいては母子になるという事の重大さを理解した。
正直、親子とは言葉の綾みたいなもので、お世話になる同居人に近いイメージを勝手に抱いていたのだ。
「ナトリはんは、あたしと家族なってくれはるのよね? こういうのは最初が肝心、遠慮したい気持ちも痛い程分かる、ここは我儘させて貰えへん?」
「……わかりました」
これから一緒に暮らしていく相手、彼女が自分の為にそう望んでくれるのなら、悪いからと拒否しすぎるのも失礼に当たる。
「ふふ、聞き分けが良いナトリはんは大好きどすぇ」
沙苗は満面の笑みを浮かべながら、女性の店員を呼ぶと注文を付けた。
「なんぞ、この子に見繕うてくれはらしませんやろか?」
店員の女性を交えてアレコレと服を持ってきては、試着室でナトリに着替えさせる。
そうしてナトリは、たっぷり1時間ほど沙苗の着せ替え人形と化した。
店を出る時、ナトリは大事そうに紙袋を抱えて歩く。
すぐアイテムストレージに収納するのは何だか無粋に思えた……。
何より今はこの世界で初めて贈り物を、程よい重さと一緒に感じたかった。
「その様子だと、たいそう喜んで貰えたみたいどすなぁ」
「うん、本当に有難う」
「めっそもない。ほな、何か食べたいものでもある? 何処かのお店で外食でもどうでっしゃろ?」
正午はとうに過ぎている。朝食は軽めに摂った為かお腹が空くには丁度良い時間帯だ。
ナトリは少し遠慮がちに……だが、しっかりと自分の要望を伝える。
「なら、沙苗さんの手料理を食べてみたい」
物心付く前に両親を亡くし孤児だったナトリは、母の手料理というものに強い憧れを持っている。
教会では、当番の修道女達と孤児達が分担作業で作ってた。
魔王討伐の旅路はアイテムボックスのお陰で、道中作り物を買い足すだけで事足りた。
だからこそ、余計に憧憬の念を強く抱いてしまう。
一方で遠慮せずに確り希望を教えてくれた事とその内容に、沙苗は内心感激する。
お店で高めのランチとかじゃなく、よもや沙苗の手料理を欲してくれるとは、正直、思わなかったのだ。
「本当にナトリはんは、良い子やわぁ」
早苗としては年相応にもう少し我儘言っても罰は当たらないと思ってしまうが……。
それでも、最初に手料理を望んでくれたのが何だか、いや、とても嬉しくて、ついニヤけてしまっている。
「やったら、先ずは買い物からどすね。ちびっと歩くけど、食材買いにデパートに行きまへんか」
「はいっ」
沙苗に連れられて到着して目にしたデパートなる建物は、想像以上に大きかった。
ホテルも大概と思ったが、デパートはそれ以上に視界に収まりきらないくらい広く壮大だ。
王国のお城に匹敵する程だとナトリは感じた。




