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犯人逮捕

天界の店主である五島沙苗が目を覚ますと、店内はガラスの破片があちこちに飛び散り酷い状況が目に飛び込んできた。


「あら、そうどす……強盗に入られたさかいした……」


上半身を起こしながら惚けた頭を振り回し、鈍った思考を蘇らせる。

鮮明に記憶に残っているのは、確か男の1人に脇腹を刺された事だ。

火傷しそうなくらい酷い熱を帯びた痛覚を、まだハッキリ覚えている。

沙苗は恐る恐る刺された傷跡の状態を確かめようと目を向ける。

ナイフで穴の空いた服が血で真っ赤に染まっているものの、受けた筈の刺し傷が見当たらない。


「そういえば……痛みがいっこもない?」


中のシャツを捲って、ナイフを受けた部分を確り確認するも、やはり傷は塞がっている。

白昼夢というには、状況証拠が残っている。

更に思い返すと気を失う直前、少女の声を聞いた気がする。


今すぐ癒しますので、ほんの少し待ってて下さい……。


鈴のような、それでいて何処か凛としたような声が脳内に再生された。

その時、ズボンのポケットから硬貨が滑り落ちる。


「そうだ、あの人形にように綺麗なお嬢はん」


その金貨を目にした時、この店に来店した少女の顔をハッキリ思い出した。

その服装や容姿からファンタジーの世界から、そのまま飛び出てきたような女の子だった。

そんな彼女が、店の入り口で右往左往しながらも立ち往生する姿が、すりガラス越しからでも確認出来た。


引き戸を知らないのか困った様子が少々微笑ましく、余りに可愛らしい容姿で、つい必要以上に詮索してしまったのは記憶に新しい。

彼女を探して、それほど広くない店内を見回しても、その姿は見られなかった。


「傷の手当てをしてくれたのは、やっぱり彼女が? いやいやいやいや……まさか」


あれ程の刺し傷、どれほど高名な医者でも瞬時に治すのは、物理的にも技術的にも現代では不可能な筈だ。

刺されたと思ったのは気のせいで、実際には無傷だったのだろうか?


「肝心な彼女は既に帰ってしもたのかしら?」


この状況で、警察も呼ばず黙って居なくなるような娘さんには、見えなかったが……。


「そういえば、男の1人が彼女に絡み出して、そうだ……あたしが間に入って刺されたはず……もしかして連れて行かれてしもた? え、えらい事やわっ!」



サーッと顔を青褪めなさせがら、沙苗は警察へ連絡を入れたのだった。




ナトリに杖で脅されながら運転する車は、縛られながらも喚く強盗達を乗せたまま店に到着する。

車が店の入り口付近で停車した後、何とか逃れようと運転手の男は、言い訳と泣き言を言い始める。


「お、俺、本当は強盗なんて、やりたくなかったんだっ! 良い稼ぎになる闇バイトだって、後ろの奴らに言われて仕方なくやったんだよっ! だから、俺だけでも見逃してくれないか?」


この発言に縛られたままの3人の男達が、広がった後部座席で暴れ出す。


「て、てめぇレッドラムを裏切る気か!」


「ヘッドの()()()さんが、黙っちゃいないぞ?」


「馬鹿が……仮にいま逃れても、チームは報復の為に必ず探し出す」


「う、うるさいっ! 俺はまだ大学生なんだよっ! こんな所で人生終えられるかっ! イキってお前らみたいな連中に関わるんじゃなかったよ……なぁ頼むよ、これからは真面目に生きるからさ」


「……駄目よ。更生は罪を清算してからじゃないと、意味を成さないのだから」


ナトリは彼らに見えないUIを魔力で表示させた後、指で弄りながら更に答える。


「今後、真面目になると約束出来るなら、先ずは犯した罪に対してキチンと真摯に向き合うべき……でなければ、どんな真剣な表情で言い繕って見せても、その言葉に何の信頼も得られない」


「……うう、く、クソっ! こんな所で捕まってたまるかっ!」


逃亡を図った男が足掻いてドアを開けようとした瞬間、予め準備していたコマンドを発動する。


拘束魔法(マナレストレイン)


逃げようとした男の身体が突然固まる。

見えない魔力で、その場に全身を固定されたからだ。


「な、何で身体が動かないんだ……」


「この国の警察とかいう治安組織の部隊が現れるまで、暫くそのままで居て下さい」


喚き続ける男達と運転席の男に、ナトリはそう伝えると手にしていた両手杖をストレージに収納し、奪われた品々が入った鞄を両手に持って店に戻った。

店内に入ると店員の女性が、スマートフォンで何処かに連絡を終えた直後の様だった。


「あ、お嬢はん無事やったさかい! うん? その鞄はどないしたん……?」


ナトリの手にした鞄に少し見覚えがあるのだろう……店員の女性は首を傾げながらも、尋ねてくる。


「この鞄の中のものは盗られた財宝です。全てある筈ですが確認して下さい」


「はい?」


中の金品が覗ける様に、ナトリは鞄を開いて見せた。


「どないして……」


「えと、犯人達を追いかけて……です」


「……誰がそないな事願いましたか?……」


「え?」


ナトリからすれば、勇者パーティの頃に散々受けた依頼である盗賊退治みたいな感覚だった。

だから討伐もしくわ捕えるのは当然の行いで、疑問を挟む余地すら持たなかった。


「そない危険な事っ!あたしは望んでません!」


激昂する店員に詰め寄られ両肩を揺さぶられる。

ナトリは困惑する……今までの経験上、感謝される事は多々あったが、助けて怒られるのは初めてだった。


「え、えと……」


「どうやって取り戻せたかは知らないけど、貴女は女の子なんどす。何かあったら悲しむ人が居るんでしょ?……自ら危険地帯に飛び込むような阿呆な真似はせんの」


「あ……」


失念していた……この女性は生命が危険な中でも、自らを顧みず自分を気遣うくらい心根の優しい人だという事を……。

結論を先に述べるなら危険はなかった。あの程度の連中に後れを取るナトリではない。

だが、心配を掛けてしまったのは事実で、そして何よりナトリの身を案じて叱ってくれた気持ちは、素直に嬉しかった。


「心配かけて……ごめんなさい」


「ほんまに無事で良かったどす……あの、あたしも最初、その、色々詮索みたいな事聞いて……」


「いいえ、気にしてません」


謝り合ってる間に、外は少し騒がしくなる。

赤色の明かりと音を鳴らした車が、店先に何台か停まったのが店内からでも分かった。


「警察のパトカーが着いたみたいどすな」


察するに、ナトリも一度乗せられた車が到着したらしい……頭上の赤色のランプが、回転しながら光を放っている。

暫くすると、入り口が開き男達が入ってきた。


「連絡を受けて参りました。警視庁捜査一課の倉橋です」


彼は一度身分証を提示した後、店員の女性に質問する。


「貴女が通報した女性ですか?」


「はい、店主の五島沙苗どす」


そして倉橋は、やや戸惑った様子で話を進め始めた。


「それで、その、表の車の車内に縛られた状態の男達が、なにやら騒ぐ様子が見受けられるのですが……彼らは一体?」


「ええっ?」


「倉橋さんっ! 例の車のナンバーを照合した所、やはり盗難者でした」


倉橋という警察の男が、部下らしき人物の報告を受けると確認するように聞いてくる。


「もしや、彼らが通報にあった強盗犯ですか?」


「ええと? ごめんなさい……あたしには、わかりません」


答えた店の女性も困惑しながらも、ナトリに視線を向けてくる。


「彼らは私が捕らえた後、連れ戻りました」


「はっ? ええと、彼女は?」


突然、話に割り込まれた倉橋は少し怪訝な表情を浮かべながら、店主の女性に尋ねる。


「運悪く偶々事件に居合わせてしまった。お客様どす……」


「なるほど……一応、車内にいる容疑者の顔を見てもらっても?」


「わかりました」


倉橋という警官は、ナトリの言った内容を殆ど信じていないようで、特に問われる事も無く敢えて聞き流されたようだ。

最もナトリとしては、別段自分の手柄だと言い張るつもりはなく、単に事実を述べた迄で、信じて貰えなくとも一向に構わなかった。

倉橋や店員について行く形で店を出ると、男達が車外に連れ出されるみたいで、暴れ始めている。

その間、拘束魔法(マナレストレイン)は解除しといた。



「何だよっ! 離せよっ」


「やっと、動けるようになった……アレは何だったんだ?」


「俺達、何もしてねぇ証拠あんのか?」


男達の1人が、店を出てきたナトリ達に気付くと騒ぎ立てた。


「あ、お前っ! ナイフで病院送りにした筈なのに何で平然と居んだよ……確か脇腹を思いっきり刺したのに……あっ……」


店主の女性を直接刺した恫喝男は、彼女が平気そうに歩いているのが信じられなかったようで、驚く余り気付いた時には、己が犯行をうっかり口にしていた。

それを耳にした倉橋が、彼女に尋ねる。


「刺されたというのは本当ですか? ん? 確かに服に血痕が残ってますね……大丈夫なんですか?」


「ええ、それが、受けた筈の傷がけったいな事に塞がってましてなぁ」


「はい? もう塞がって??」


「はい、白昼夢か何やの勘違いやった。……っと思いたかったさかい、自信はあらへんのですが……」


倉橋という警官も店主の女性も狐に摘まれたような顔をしている。


「……まぁ、彼等が犯人なのは間違いないようですな……急ぎパトカーで送るので念の為、病院で刺された部分を診てもらって下さい」


「おおきに……」


「では、詳しい話は後ほど、改めて私が病院を訪ねるので……ああ、そうそうお嬢さんにも一緒に話を聴きたいので、彼女に連れ添って病院に向かって貰って構わないかな?」


「はい、大丈夫です」


昨晩に続き再び警察という組織の厄介になりそうだなとナトリは、思ったのだった。





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