強盗
突如店内に入ってきた4人の男達の1人が、牽制するように怒鳴り声を上げ始める。
「怪我したくなきゃ、近くに固まって両手を上げろっ!」
先端の部分がV字に割れた鉄の棒で指し図しながら、2人を威嚇する。
どうやら彼らは盗賊や山賊の類で、この店の高価な品々を奪うつもりらしい。
この世界に飛ばされて、まだ13時間程しか経過していないに関わらず、犯罪者達との2度目の遭遇である。
「この国は治安が余り、良くないみたいですね」
「確かにきょーび、こないなえげつない感じで物騒な事件が多発してると聞きますぇ」
「おいコラ、勝手に話してんじゃねえ……マジブッ刺すぞ」
大人しく両手を上げているにも関わらず、女性店員とナトリの平然とした態度が気に入らないのか、頭の沸点が低そうな男がバトルナイフ片手に恫喝してくる。
「わかりました、わかりましたから、せめてお嬢はんには手を出さぬよう、堪忍願います」
「ヘヘッ……そうそう素直にビビって黙ってれば良いんだよ」
男達は手にした武器と鉄の棒で、次々ガラスケースを砕いて中の商品を手際よく鞄に詰める。
上手く分担していて、随分と手慣れている感じがする……つまり、逃走まで残された時間は余りない。
ナトリは魔力を練り込みコマンドを表示させる。
そして気付かれぬように、少しづつ指を近付け鑑定をタップする。
【レベル15 人族 男
攻撃力12 防御力10 魔力0 精神力6 全体速度9 戦闘スキル無し】
今迄見た中では高い数値だ……魔力を消費する事で、更なる項目が追加される。
【魔法抵抗値1 状態異常耐性値6】
状態異常は兎も角、魔法抵抗が低過ぎると感じる。
鑑定した数値を確認すると、同じ轍を踏まぬよう体内の魔力調整して閃光魔法を、選ぶ。
だが、対象者を選択しようとした時、先程の恫喝男がナトリに近付いて彼女の腕を掴んできた。
「お前、RPGみたいな変わった格好してっけど、レイヤーか何か? すげぇ可愛いじゃん……なぁコイツ攫っていかね?」
「馬鹿っ女連れて逃げ切れる訳ないだろ……もう行くぞ」
「勿体ねぇよ……見た事もないくらいの上物だぜ? 寧ろこの女で稼いだ方が大金になるんじゃね?」
「好きにやりすぎるとヘッドに締められるぞ……」
男の余りに身勝手すぎる言い分に我慢の限界だったのか、女性店員は声を荒げるとナトリを庇うように立ちはだかる。
「お嬢はんには手出ししない約束の筈。そないなけったいな相談は少々勝手が過ぎると違いますか?」
「ああ? うるせえなぁ! 誰がいつ了承したよ。勝手なのはテメェだろ! 大人しく黙ってろクソがっ!」
「駄目っ!」
ナトリの制止も虚しく、激昂した男は手にしたナイフで店員の脇腹を突き刺す。
「うぐ……」
店員は軽く呻いた後、お腹を抑えながら倒れ込んだ。
男の行動は想定外だったのか仲間達は狼狽だしている。
「ば、馬鹿野郎! ホントに刺すんじゃねぇ……面倒になる前にすぐにズラかるぞ」
「チッ、わーったよ……マジ勿体ねぇんだけど」
恫喝男は名残惜しそうにナトリを見ながら、他の男達と鞄を持って立ち去って行った。
残されたナトリは、何より先ずは治療が先決と考え、すぐに女性の怪我の具合を確かめようと触れる。
すると店員は呻きながらも此方に視線を寄越してた。
「……無事みたいで……ほんまに良かったどす……」
自身の酷い怪我すら顧みず、会ったばかりのナトリの心配を初めにしてくれている。
その心根は聖母のように真っ直ぐで慈愛に満ちている。
「今すぐ癒しますので、ほんの少し待ってて下さい」
「…………」
声を掛けるが痛みで気を失った様子で返事はない。
ナトリはコマンドUIを魔力で開くと初めにストレージから、長杖を取り出す。
長杖の上部には聖属性の高位魔性石が付けられており、その周囲を銀の装飾が螺旋を描くように施されている。
対応した属性魔法の魔力補助が主な目的だが、物理的な攻撃や防御も確り熟す。
確かめた怪我の具合と流血から、通常の魔力を込めたヒールを選択し目視にて対象を選ぶ。
彼女に杖を少し掲げて『治癒魔法』を唱えて放つ。
そしてナトリが望んだ通りの効果が表れ始め、脇腹の刺し傷は瞬く間に塞がった。
次にナトリは自身に身体強化を掛ける。
「このまま床に寝かせるのは、正直気が引けますが……少しだけ失礼しますね」
ナトリは店を出ると『索敵魔法』を唱える。
本来この魔法は、周囲にいる魔物や魔族を認識する為のものだが、それ以外でも、一度でもナトリ(魔法詠唱者)に対し敵対行動をした場合は一時的にだが有効になる。
「発見しました」
去った男達は、車で移動しているのか相当な速度で離れて行く。
このままでは索敵範囲外になると思ったナトリは、『身体強化』の更なる強化を開始した。
身体強化の魔法は魔力を注ぎ込み重ね掛けする事で、『超身体強化』に変化させる事が出来る。
強化を終えたナトリは、ビルの屋上や家の屋根伝いに移動する事で、どんどん彼らに迫っていった。
天界というお店から金銀や高額な腕時計などを奪った男達は、猛スピードの車で逃走しながらも、実に上機嫌だった。
「こりゃ、軽く数億いくぞ。笑いが止まんねぇw」
「でも、あの女惜しかったなぁ……なぁ、銀髪で目立つ形してたし今度見付けて攫おうぜ」
「女関係は今は駄目だ。最近は、あの3人がやり過ぎた所為で、警察のマークが張り付いていて厳しいんだよ」
「チッ、納得いかねぇ……」
「そもそも、お前が店員の女をブッ刺した事で、既にヤバい状況かもだぞ」
もしも、あの店員が死んでしまったら、強盗殺人事件として大きく報道され、沽券をかけた警察が、躍起になって自分達を捜索する事になる。
「ヘッドに一部の金を収めたら、海外へ逃亡コースかもな」
「マジかよ……テンションガタ落ち」
「おめぇの所為なの理解出来てる?」
「ああ? 何? やんのか?」
「お前ら車内で内輪揉めすんなって、大金が入ったし女は海外行って遊べば良いじゃん」
「チッ……まぁ、それもそうか」
人気のない通りに入り、車は廃棄された短いトンネル内に侵入する。
此処を通り過ぎた先の廃工場で、盗難車を辛うじて稼働するプレス機で押し潰し破棄する流れだ。
トンネルを順調に進んで行く中、突如、眩い閃光が彼らを襲う。
ハンドルを握った男は驚いて急ブレーキを踏み車を停めた。
光が収まると、車のハイライトで照らされた前方には長杖を手にした少女が立っていた。
「あっ、さっきの美少女じゃん……へへ、運がいいな」
「は? 待てよ、どう考えても可笑しいだろ? 何でソコに居るんだって話だろ?」
「そりゃ、よくわかんねぇけど〜なぁ、この際捕らえて楽しもうぜ」
そう言って舌舐めずりをした恫喝男とその一味は、車内から出て来る。
「あら、もう目が見えるの? 思いのほか魔力調整が難しいみたいね」
ナトリは試しに数分は視界不良になるよう、閃光魔法に込める魔力をギリギリまで下げたが、どうやら下げ過ぎたらしい。
「何言ってっか、ちっとわかんねぇけど〜お前はこの後、俺らの玩具決定な」
ナトリは男の戯言に耳を傾ける事なく、盗んだ品々の返還を要求する。
「先ずは大人しくお店から奪った物を返しなさい。そうすれば、少しは女神の慈悲が与えられるかも知れませんよ?」
「はっ? 俺の話聞いてる? コスプレ女だし頭もイカれてんのかなぁ……まぁ自慢のコス引き裂かれりゃお花畑な頭でも理解出来るだろ」
男は店員を刺したナイフを片手に、ナトリのローブを切り裂こうと襲い掛かってくる。
ナトリは振り回す男のナイフによる攻撃を、難なく躱し続ける。
「へぇ……思ったより動けるじゃん。んじゃコレはどうかな」
男は持っていたナイフを投擲しソレを躱す事で生じた隙でナトリを捕えようと目論む。
修羅場の数々を潜ったこの男にとって、か弱き女性を組み伏せる事など赤子の手を捻るくらい簡単な事……の筈だった。
ナトリは投げられたナイフを躱した後、抑えてた身体能力を解放し男の背後に回り込む。
「なっ何処に消えやがった!?」
彼女を完全に見失った恫喝男は、キョロキョロと光に照らされた前方を見回す。
「馬鹿っ! 後ろだっ!」
周りの仲間が叫び警告するも、恫喝男が振り返った時、ナトリは既に杖を振り下ろしていた。
身体強化による頭部への打撃、死なないように相当手加減したといえ攻撃を受けた男は、身体を小刻みに痙攣させながら泡を吹いて気絶していた。
「その痛みは、刺された彼女の痛みへの代償……悔い改めなさい」
ナトリが告げた時、残された男達は身構え始める。
「お前……何なんだよっ!」
「俺達が誰だか分かってないようだな?」
「そいつ1人倒したぐらいで良い気になるなよ」
男達は口々に喚き散らしながら、ナイフなどの武器を、それぞれ取り出した。
「悪漢とはいえ、悪戯に傷付ける気はないわ。素直に武器を下げて投降なさい」
「この状況で何言ってんだ? 武器持った男3人に勝てる気でいるのか?」
「おい油断すんな……この女、何か妙にすばしっこいみたいだから、全員で一気に囲んで勢いで潰すぞ」
「分かった」
リーダー格なのかその男に指示されて、残りの2人は言われた通りナトリを急いで囲み始める。
絡まれた昨晩と似たような状況だと、ナトリは思いながらも、ほぼ同様の対応をする。
違うのは込める魔力の量と人数くらいだ。
『閃光魔法』
唱えると同時に3人の中の2人が気絶して前のめりに倒れ込んだ。
「…………は? また何か光ったと思ったら今度は何だよ……お、お前2人に何をしやがった?」
「安心なさい。魔力の手加減は、一応しているわ」
「は? お前は一体何言ってんだ??」
ナトリは魔法の対象を2人に指定して発動していた。
彼女は残った男に両手杖を向けながら質問する。
「そんな事より、確か貴方は車とやらを動かしていた人よね?」
「だ、だったら何だってんだ?」
4人の内の3人が、訳が分からない内に瞬く間に倒された事で、男は少し怯えているようだ。
後退りながらナトリから距離を空けて離れていく。
「奪った物を返しに天界というお店まで、車で向かって貰う」
「あ? 馬鹿にすんな、そんなの聞く訳ないだろ……」
そう答えられたナトリは、男の真正面まで一気に距離を詰めた後、その足元を長杖で突いた。
ボゴンッという鈍い音と共に地面は少し陥没する。
「ひ、ヒィッ……その杖、先端に鉛でも仕込んでんのかよ」
ソレを見て、男は尻餅をついて倒れ込んだ。
「力で脅す様な真似は、正直したくないのだけど….この際仕方ないわ」
時間を掛け過ぎると気絶した男達が目を覚ます。
一刻も早く言う事を聞かせる必要があった。
「わ、わかった。車を動かす」
残された男の了承を得た後、気絶してる3人の男達の両手両足を頑丈なロープで縛り上げる。
後部座席に押し込むと、ナトリは助手席に乗り込んだ。
「では、お店までお願いしますね」
っと笑顔と長杖を隣の男に向けながら言うのであった。




