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天界

受付の女性に案内され目的地である貴金属買取専門店に到着した。

看板には金銀財宝取扱専門店、老舗の宝物殿と銘打ってある。

店名は天界という……木造で古びているが、趣がある建物だった。


「すみません、お客様……急な呼び出しが掛かり急いで戻らなければならなくなりました」


「先程の会話ですか?」


「ええ、お察しの通りです」


つい先程、スマートフォンとかいうアイテムを耳に当てながら誰かと話している様子が見られた。

部屋にあったテレビというものと違って此方は通信も可能な装置のようだ。


「わかりました。ここ迄の道のり大変助かりました。貴女に女神リュミエルのご加護がありますように……」


「ふふ、有難うございます。帰りの道順は大丈夫ですか?」


「ええ、何とかなると思います」


「当ホテルにお戻りの際は、カウンターにてご一報頂けると助かります」


「はい、必ず知らせます」


「では、失礼致します」


受付嬢が立ち去るのを見送った後、お店に入ろうと入り口らしき場所の前方にに立つ。

これまでの経験から、この国の扉は自動で開くという事を学んだつもりだった……。

しかし待てども待てども開く様子は見られない。

ナトリは、その場でジャンプしたり手を振ったり回転したりと色々と試して見るが、一向に開く気配は見られない。


「もしや、入り口とは違う?」


扉は木材と磨りガラスが組み合わさったそれらしき代物だが、肝心のドアノブが見当たらない。

入り方が分からないナトリが、再び右往左往していると、見兼ねたのか店員らしき若い女性が近付いてくるのが磨りガラス越しにも分かった。


「おいでやすー。この扉は引き戸と言うて、このように開けはるのですよ」


横に流れるように動いた扉が開けながら、懇切丁寧に教えてくれる。

おっとりとした独特のイントネーションな話し方のする優しそうな女性だ。


「この店は、少々お高い品を扱うてるのですけど、大丈夫どすぇ?」


ナトリの年齢的に、一応念の為に確認してくれたようだ。

冷やかしだと思われたくないナトリは、すぐに要件を話す。


「ええと、金貨を買い取って欲しくて」


「金貨ですか? 取り敢えず中でお話を伺わせて貰います」


入店したナトリは、店内のガラスケースに並べられた貴金属に目を奪われる。

ネックレス、アクセサリー、ブレスレッド、他にも金貨やベルトの付いた小さな時計の数々。

どれも、素人ながら一級品と思わせる繊細で煌びやかな品の数々だ。

圧倒的な芸術品の宝庫に頬を染めて感動していると店員が、微笑みながら話してくれる。


「思わず目が奪われてしまうくらい見事な物やさかい、中にはユニークピースと言わはる一点ものの腕時計もあるのです」


そう示された腕時計という代物は、確かに複雑な機構が組み込まれている。

不思議な仕掛けが施されていて、絶えず動いてる極小の装置が精巧な緻密さを物語っている。


「ほな、お手持ちの金貨を、ちぃと拝見させて頂いても?」


「はい只今」


ナトリは予め用意しておいた王国製金貨を手渡す。


「ほんま……初めて見る金貨さかい、ええと純金製で違いないですか?」


金貨は王国製で、当然この世界には存在しない筈だ。

無理もないが女性の店員はほんの少し、此方を疑ってる様子だ。

守護騎士や衛兵みたいに犯罪を取り締まる警察という組織を呼ばれるかも知れない。

過剰防衛の疑惑で現在進行形でお世話になってはいるが、実際に罪を犯すつもりは毛頭ない。


「間違いなく本物なのは、私が保証します」


「そこまで言わはるのでしたら信じとう所です」


金貨は既に魔眼鑑定士の手によって、本物である事が証明されているのだが、異世界では説明が難しい。


「やっぱり刻印は刻まれてあらへん。やけど重さはあります……もうちぃとばかり詳しく調べさせて貰ってかまへんどすか?」


「はい、分かりました」


「ほな、ごめんやす。その間ー店内を見とぉみやす」


暫くナトリが店内の綺麗な宝石を眺めていると、鑑定が終わったのか店員が戻ってくる。


「どーやら金貨は純金製で本物のようでー安心しましたわ」


「よかったです……それで買い取って貰う事は出来ますか?」


「相場を鑑みて……1オンス1枚32万って所ですがぁ、どないしましょう?」


「では、それで……」


「はい、恐れ入ります」


店員は了承したものの、ナトリの方をじーっと見つめる。


「あの……何か?」


「そうどすなぁー最近、ここらの界隈では物知らぬ若う娘に大金を貢がせるホストも居ると耳にします……お嬢はんは、そういうのと違いない?」


32万という示された金額が、どれ程の価値か測りかねていたが、店員の話す内容から、それなりの金額である事が伺える。


「貢ぐ……ですか? ホストという人は、どなたか存じませんが、お貴族様ですか?」


「どうどっしゃろ……人に依っては、まるでお貴族様のような豪奢な暮らしぶりかも知れませんなー。違うてたら良いのです。あないなえげつない世界は知らぬが仏どすぇ……お嬢はんは結構な美少女やさかい、条件のイイ殿方なんて腐るほどぎょーさん寄って来はりますよ」


「ええと……ゾンビは少し苦手でして……」


田舎町の依頼で、自然発生したゾンビを討伐した過去があるのだが、グロテスクな見た目といい腐敗臭といい、散々だった思い出がある。

思わずゾンビを連想して答えてしまったが、冗談だと捉われたみたいで、女性は手を口に添えて上品に笑う。


「ふふ、その返しは少しばかり予想外ねん」


「ああ、そうでした。お気にせず」


魔物の存在しない世界とは聞いているのだが、つい、いつもの感覚で話してしまう。


「ほな身分証の提示をお願い致しますー。学生証でかまへんので……それと親に確認の電話もするさかい、固定か携帯の番号もお教え願いますぅ」


「身分証……ですか?」


「お持ちしてあらへんなら、買い取りはナンギな事になりますぅ」


元の世界で身分証になるギルドカードなら、今も所持しているが、この世界で通用しない事くらい考えなくとも予想が付く。

けれど諦める選択肢はない。此処は何処にも頼れる存在がいない異世界……先立つものは必要である。


「あの、何とかなりませんか?」


「もしかしてお忘れですかー? ほな、せめてご両親の携帯番号を……」


「……両親はいません」


「他に親戚とか保護者などはー?」


「此処には、いません」


「残念やけど、またの機会という事で、今はお帰り願うしかあらへんわ」


「どうしても、駄目なのですか?」


「そなやくたいな事………けど何か訳ありみたいやわぁ」


深刻そうなナトリの様子から色々察した女性は、唸りながら思考を巡らせているみたいだった。


「本来なら許されるケースでは無いさかい、此処だけの話という事で……あたしが個人的にお嬢さんから購入したってていで、どうどっしゃろ?」


「お、お願いします」


「交渉成立。現金を用意するさかい、お待ちになっておくれやす」


必要な手続きを見逃して貰えたり、客でしかないナトリを気遣って心配してくれたり、優しそうな見た目に違わず、良心的な女性だ。


「おまっとさん。万札でキッチリ32枚やわ、お嬢はんも数えといて」


そして、ナトリは手渡されたお金を見て愕然とする。

何故ならソレが32枚に束ねられたただの紙だったからだ。

いや、ただの紙は語弊がある、裏表両面に数字の他に繊細な絵があり、それぞれ人物画と風景画が描かれている。

4種類の硬貨を金銭として扱うレム王国では、紙のお金など考えられぬ話だ。


「これが、この国のお金なのですね」


「お嬢はん、あんじょー日本語に慣れてる様子で、生まれも育ちも日本かと思うていてはりましたが、違います?」


「そうですね。この国は初めてです」


「なるほどー、きょうびアニメで堪能なる海外の方もいらっしゃるそうですなぁ……格好からそうどっしゃろ?」


アニメというのはよく知らないが、母国語もこの国と全く同じと教えた所で、信じて貰えないだろう。

曖昧な笑い方で誤魔化しながらナトリは受け取った現金を、アイテムボックス内の所持金の場所にしまう。

王国金貨と一緒に混ざることになるが、問題ない筈だ。


「あら? お嬢はんは手品師か何か?」


手に持っていた紙幣が、目の前で掻き消えるように無くなった事で、店員の女性は驚いたようだ。

その表情から、この世界でのアイテムボックスの有無については態々聞かない事にした。


「手品師では有りません」


「んん〜? けったいな見間違いやわ……あんじょー気を付けはってお帰りやす」


「はい、有難うございました。貴女に女神リュミエルのご加護が、ありますように」


「ふふ、それはアニメの台詞?。せなおおきにー」


ナトリはカーテシーの後、入ってきた店の扉に向かって歩く。

確か引き戸という扉だったかなと窪みのある取っ手に手を伸ばすと、突然、扉が勢い良く開かれる。

別の客が、丁度入店してきたタイミングだったと思い一歩下がって正面を見ると……そこには覆面をした全身黒ずくめの男達が立っていた。




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