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事情聴取

生活安全課の如月は、深夜営業も受付ている蕎麦屋にカツ丼を特盛で頼んだ後、スマホを見ながら煙草を吹かせる。

画面には例の少女の画像が映り込んでいた。

こんな画像1枚でトレンド入りを果たすくらい、何処か惹きつけられる少女だ。


その神秘的で類稀な美貌ばかり注目されがちだが、直接話した如月には、それ以上の何かを感じさせた。

彼女は得体の知れないナニカをその内に秘めている。

単なる直感で根拠はないものの如月にはどうしてか、その様に考えてしまう。


「何だか雰囲気からして不思議な娘だよな」


レム王国、聖女、魔法等々……普通に考えれば馬鹿馬鹿しいと一蹴する内容だ。

如月とて彼女の妄想とも捉えれる話を信じている訳ではないが、やはり何かが引っ掛かる。

魔法を使ったと真顔で言い張る表情は真剣そのもので、とても演技してるようには思えなかった。


店先に付けられた防犯カメラの映像も理由の1つかも知れない。

そのカメラはマイク内蔵型だった為、少女が絡まれた側である証拠は確認済みだ。

問題は、少女が手や指を少しだけ動かした後の閃光である。

このすぐ後、3人の男達は一斉に気を失い倒れ込む。


フラッシュバンでも使用したのかと思ったが、何度見直しても閃光手榴弾を手にしてないし音も無かった。

そして、男達が1度の閃光でこうも綺麗に気絶するとは、そうそう考えられない事態である。


「どうやったか知らんが……何にせよ、フラッシュバン以上の効果なのは確かだな」


何度考えても改めて見直しても、閃光の正体は不明なままだ。

次に如月は男たちの今後の処遇を考える。


「今は被害者ぶって、被害届を出すとか鼻息荒くしちゃいるが、回復次第お前らは全員豚箱行きだっての」


その揃えたような刺青の特徴から特定に至った彼らは、この街で有名なレッドラムと名乗る半グレ集団の一味だった。

女性達からの多くの被害届も受理されていて、証拠も揃っている為、実刑は免れないだろう。




ナトリが取り調べ室で待っていると、料理を乗せたトレイを手に、如月という男が戻ってきた。


「すまない。待たせたかな……カツ丼持ってきたから、まず食べな」


「天からの恵みの糧に感謝します」


手早く女神への祈りを済ませたナトリは、目の前に置かれた深い器の蓋を外した。

中身はお肉と卵と何かのソースだろうか? 嗅いだこともない芳醇な香りが鼻を擽る。

ナトリは早速頂こうと周囲を見回すが、ナイフやフォーク、スプーンの類は置かれてなく、代わりに折り畳んだ紙に包まれた木製の小さな棒を2本見付けた。

もしや、食事にはコレを使用するのだろうか……。

目前の食事を前に躊躇していると、何かに気付いた男が、もう一度外に出て行き、そしてすぐに戻ってきた。


「もしかして箸使った事なかったか? コレでいいかな?」


そう言ってナトリが見慣れた食器である先端がフォーク状のスプーンを持たせてくれた。

衣で表面がサクッとした感触の肉を先端で切り分け、下の白い粒状の食物と一緒に口にする。

そのままの姿勢で一瞬固まる位の美味しさだった。

思わず口の中に掻き込みたい衝動を抑えつつ、聖女として上品な振る舞いを意識しつつ食べ続ける。


「あー食事中に悪いんだが、食いながらで良いから聞いてくれ」


姿勢を正した後、ナトリが相槌を打つと男は話し始めた。


「さっきも少し話したが、要点だけ纏めると君は今、微妙な立場にある……絡まれたとは云え、まだ直接襲われていない内に障害が残るような反撃は、過剰防衛と取られる恐れがあるからだ」


随分おかしな事を言うな……とナトリは話を聞いていた。

男達が本気でナトリに危害を加える気があったのは、あの時の会話からも伺える。

此方に直接の被害が及ぶ前に、先手を打つのは当然の流れである。


「彼らは初対面である筈なのですが、何処から情報を得たのか金貨を要求してきました。更には私自身の体が目的であるかの様に取れる発言もハッキリと口にしてました……それでもですか?」


食べ物をキチンと飲み込んだ後、ナトリは質問する。


「ナンパの一種でレイヤー姿に合わせて揶揄うつもりだったと、あの発言は全くの嘘で冗談のつもりだったと言い逃れられる可能性もある」


女性に声を掛けるのが目的で、仮に冗談で本気じゃなかったとしても、誤解を招く真似をした相手側に非がある筈である。

何より、この世界は知己の人間ですらない者が、急に金銭や身体を要求してきても、冗談だと言えばが許されるのだろうか?

ナトリが、やや不満な表情をしていた為か、如月という男は言い繕うように続けて話す。


「ま、まぁ、あの男達はキチンと別件で逮捕する予定だから、そこは安心して欲しい……だが、君の場合はそれとは別問題なんだ」


「別問題?」


「先程も言ったが、君の起こした閃光で目に障害が残ったとなると、君にとって不利になる」


「障害とやらが魔法の効果を示すなら、もう症状は治まってると思います」


「君から話を聞いて一応病院に問い合わせたんだが……どうも、まだ光が邪魔で見えないそうなんだ」


ナトリは首を傾げながら考え込む。

相手の表示されたステータスから考えて、流す魔力は抑えたつもりだ。しかし、まだ治っていないのなら、想定以上に魔法抵抗値や状態異常耐性値が低いのかも知れない。

今後、同じような魔法を放つとしたら極限ギリギリまで抑える必要があるようだ。


「もしかしたら、2、3日は治らないかも」


「……本当に、2〜3日で治るんだろうな?」


如月は最初の時のような疑り深い視線を寄越す。

伝えてた効果時間の大きな変化が、そうさせているようだ。


「君は魔法で閃光を放ったと言ってるよな? 仮に本当に魔法が使えるというなら今此処で再現してくれないか?」


「それは無理です」


ナトリは即答する。

閃光魔法(マギカフラッシュ)に限らず例え非殺傷魔法だとしても、悪戯に無闇矢鱈と披露するモノじゃないのだ。

人々の救済や自衛の為なら兎も角、女神から授かった力を見せ物のようにするのは、聖女としても許容出来ない。


「それだと魔法云々の事は嘘八百な出鱈目、やはり妄言の類で、実に馬鹿げた話に付き合わされたと捉える事になるが、それでも良いかい?」


神聖なる魔法の存在を否定され、ナトリの片目はピクリと動く。

だが、別段初めてという訳ではない。

信仰の違いから国によっては、異端と称して勇者パーティに属していた自分を襲ってくる過激派組織も存在したくらいだ。


「ええ、それは貴方が独自に導き出した答え……私は否定も肯定もしません」


女神や魔法を明確に阻む意思があるなら、対抗せざる得ないが、如月という男に、そんな意識はなさそうだ。

期待した反応と違ったのか、私の答えに呆れ顔の彼は肩を竦めるだけだった。


「あの……先程の会話から、もう一度ハッキリさせたい事があるのですが……」


「それは?」


「やはり、この世界には魔物や魔法が存在しないのですか?」


ナトリの言葉に一瞬期待を寄せた如月だったが、続く問い掛けで落胆の表情を見せた。


「魔法や魔物というのは、GAMEや漫画の世界でしかお目に掛かった事がないな。つまりは妄想や空想の類、要は想像上の産物でしかない」


「想像上の産物……」


「分かるかい? そうなるとお前さんには、単に虚言癖どころか妄想癖まであるって、つまらない話に繋がっちまう」


魔物や魔法が妄想、或いは想像上のもので、自分の話を虚言と断言するに、その実在は世界的に認知されていないと認識すべきである。

ナトリは、自分がこの世界で何処までイレギュラーな存在なのか、後々にでも知る必要があると考える。


「私からも良いですか?」


「どうぞ……」


「貴方の見識については否定も肯定もしません。ですが、()()()()魔法は確かに存在します。それだけはキチンと伝えておきたいので……」


正式な聖女へ至る為に行ったリリィとの修練、女神リュミエルからの贈り物(ギフト)、人々の希望としての在り方、強く凶悪な魔物達との数多の戦闘、魔王との生命を賭けた最終決戦。

どれもナトリだけでは成し得なかった事柄の数々。

それを思えば、魔物や魔法が存在しない世界では例え虚言と言われる事になろうとも、合わせて道化を演じ偽る事など不可能である。




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