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乙女ゲームのネタ枠エンディング間際のヒロインに転生した~このままだと、究極の脂肪筋肉を持つDOSUKOIエンディング一直線です~

 

 美味しく食べて健康に痩せよう!がモチーフのダイエット系乙女ゲームがあった。


 ダイエット系乙女ゲームは数あれど、このゲームほど「太っていること」に肯定的なゲームを私は知らない。


 だいたいのダイエット系乙女ゲームは、太っている間は攻略対象がツンツンしていて、最初のうちは塩対応、痩せていくにつれて『頑張ってるんだな』と褒めて持ち上げデレデレしてくるのが定番なのだが、このゲームはそれがない。


 わりと太っている最初から、『君の食べている姿を見ると癒されるよ』とか『よく食べなきゃ力でないよな!』と食べることに対して肯定的なのだ。


 力の入った食事シーンも用意されており、主人公が初めて食べる料理には力の入ったムービーシーンが流れ――興味がない人には最初からスキップできる仕様――食事シーンのムービーコンプリート率もあるのだから、ダイエット?乙女ゲーム?と発売された直後はレビューが賑った。


 もちろんダイエット系の乙女ゲームなので、ダイエット要素もある。


 それが、聖女装備の聖なる鎧シリーズだ。


 一定の体重ごとに、神様から授けられたという聖なる鎧シリーズが装備できるようになっており、対魔王戦が楽になるようになっている。


 聖なるブーツを履けるようになると毎ターン行動が二回になり、聖なる小手で通常攻撃が二回、聖なるスカートで毎ターンMPが10%回復、最後につけられるようになる聖なる胸当てを装備すれば、全ての聖魔法のMP仕様が半分になるという大盤振る舞いぶり。


 ただ太っていることに肯定的なところな戦闘システムにも導入されていて、この聖なる鎧シリーズがなくても魔王は普通に倒せる。


 このゲームにはステータスを上げる食べ物が色々あり、「ダイエットメニュー」を使わずに「暴飲暴食したメニュー」を使い続けたほうが、素のステータスの上がりが大きいのだ。


 その技を使って、『最強デブ聖女が一人で世界を救うそうです』動画など、中々の人気があった。乙女ゲームとは?。


 ただしこの技には罠があり、ダイエットメニューを使っての一定の回数の減量成功がないと、DOSUKOIエンディング――まあネタ枠エンドだよね――になるので注意が必要だ、通常のエンディングが見たいなら体重はおおよそ70キロまでは落とそう!。



 私もこのゲーム、学生時代にやりこんではまっていた。


 押しキャラもいて、痛バックも作った。



 だからこのゲームに転生した時、私はすぐに自分の状況を察する事が出来た。



 パンパンに膨らんだ二の腕、お腹が突き出すぎて自分の膝を見ることも叶わず、しゃがむことにも一苦労なこの体――。



 あ、これDOSUKOIエンディング目指してましたか!?。






 ――通常エンディングとは別の枠で出てくるこのDOSUKOIエンディング。


 実は、ファンの間での評価は分かれる。


 むしろこれがトゥルーエンディングじゃない?派。

 いや普通にネタ枠エンディングでしょ派。


 私は後者だと思っていたし、レビュー見てもネタ枠ハッピーエンド扱いが主だったが、前者評価の人もそこそこの頻度で見た。


 なぜならこのDOSUKOIエンド、このゲーム唯一の逆ハーレムエンドだからだ!。


 最終戦で倒した魔王が主人公に惚れるのは、このエンディングだけ!。



 乙女ゲームにありがちな魔王が可哀想枠なのはこのゲームも一緒で、最終決戦頃には魔王を救うためにも彼を倒してあげて魔王としての役目から開放してあげなければ!という展開になる、他のエンディングでは倒された魔王が主人公と他攻略キャラクター達に自分を倒してくれた礼を言い、ようやく死んでしまった愛する人の元へいけると微笑んで死んでいくのだが。


 DOSUKOIエンディングではそんなの関係ねーとばかりに主人公が全てのしがらみをその「究極の脂肪筋肉(聖マッスルパワー)」で捻じ伏せて、神から授った聖なる鎧シリーズを一つも使わずに自分を開放した聖女に、魔王は馬鹿笑いをして――今まで自分はこんなくだらないことに縛られていたのかと泣いて――主人公に惚れて告白をする。


 けれどもその「究極の脂肪筋肉(聖マッスルパワー)」に惹かれたのは魔王だけではない!、主人公が好きなのは自分たちも同じだ!と攻略対象者達が次々に告白していき。



 「この筋肉で全ての愛を受け入れよう」

 の選択肢が一つだけ出て、彼らの愛を受け止める主人公。



 ウェディングドレスのふくふく体系の主人公を、攻略対称者+魔王が胴上げしている楽しそうなスチルが出てきて、DOSUKOIエンド!と堂々としたテロップが出てセピア色になって終わる。



 っと思ったら、スタッフロールが流れて始まるスットンキョンなBGM。

 それぞれの攻略対象者達との生活が一枚絵として表示され、個別のここでしか聞けない声優さんの特別ボイスつき!。


 最後に魔王と主人公の特別スチルが出て、主人公が魔王の愛する人の生まれ変わりであることを示す会話をして終わる。



 このエンディングスタッフの熱の入れぐわいが半端ない!、主人公が一貫してふくふくちゃんなのに!!。



 私はこのエンディングをネタ枠だと思っていた。

 初めて見た時は、泣きながら笑ったぐらいだ。


 だから、自分がDOSUKOIエンディング間際の状態だと気がついた時、とった選択肢はただ一つだった。






 「全てのしがらみを己の体一つで粉砕したあなたを、愛しています!」


 ふくふくの体のまま、私は魔王様の全てのしがらみをこの体一つで粉砕し、尊い人の愛を一身に受けて。


 「私は、どうしようもない運命に辛め取られ、世界に害をなすことしか出来なかった彼を愛してしまいました!。みんなは祝福してくれますよね?」


 怒涛の攻略対象者からの告白の前に、決定事項をみんなに伝えた。


 「っ!、君の事を愛しているのは私たちも同じだが……、究極の脂肪筋肉(聖マッスルパワー)でこの世界を救ってくれた君の幸せを僕達は望むよ、ただその幸せはみんなで祝わせてくれるな?」

 「喜んで!」

 みんなを代表して、第一王子のティスタが失恋の苦しみに刹那そうな顔で微笑むと、私は満面の笑顔で言葉を返した。



 よぉぉぉぉぉぉっし!まったく望まない逆ハー展開は回避!!。



 「本当に良いのか?彼らも私と同じように、いや私以上にきっと君のことを愛している」

 「はい、それでも私が愛しているのは魔王様お一人なので」


 ――乙女ゲームだけに留まらず、漫画や小説アニメに多数の押しがいるオタクが一般的だと思うが、私にとっては初めてのゲームかつ、初乙女ゲームで出会った彼だけが授業中の脳を沸かせるほどの唯一無二の押しだった。


 攻略サイトを見ないままであらゆる条件を試した結果、彼の個別エンディングに出会えず、敗北した気持ちで攻略サイトを見て、彼と結ばれるエンディングがDOSUKOIエンドだけだと知った時の虚無感といったら。


 ネタエンディングだと決め付けていたDOSUKOIエンディング――――何十周もしたとも、魔王様だけと結ばれるエンディングも何度も妄想して夢小説まで……いや黒歴史は振り返るまい。



 「あなたを幸せに、いいえあなたと幸せになりたいと心から願っています」

 こちらから魔王様の手を握ると、幸薄い系美人の魔王様が瞳に涙をうかべて微笑んで、クリームパンのような私の手の甲にキスをしてくれた。


 「たくさんの人々を不幸にした私が、こんなに幸せになってしまっていいんだろうか?」

 「あなたが囚われている間にしてしまったことはけしてなくなりはしないでしょう、それで恨みに思う人もたくさんいる、でも望んでしたことではないことを私は知っています、行ってしまった罪への苦しみだって。――あなたに生きて幸せになって欲しいというのは私の高慢かもしれません、罪を償って死んでしまったほうがあなたにとっては幸せなのかもしれません。でも私はあなたと幸せになりたい、その苦しみを痛みを背負いながら私と幸せになって欲しい」


 気持ちのままに私は魔王様を抱きしめた。

 「私と一緒に、幸せになってくれますか?」

 「君が私の幸せを望むなら、君と共に私は幸せになりたい」 

 それに答えるように、魔王様は壊れ物を扱うようにそっと私を抱きしめ返してくれた。


 エンダァァァ!!!私!!!今!!!さいっこうに幸せです!!!!!。





 その後私はこの究極の脂肪筋肉(聖マッスルパワー)の魅力のせいで、ありとあらゆる老若男女から怒涛の告白を受けてはさばき倒すを繰り返すのだが、この幸せ絶頂の私がそんな未来を知る由もない。


 あまりにめんどくさいので、ちゃんとダイエットして魔王様との結婚式の時にはスレンダーボディに劇的ビ○ォアフターしちゃいました、必要に迫られれば人は痩せられる!。


 ――痩せたら好感度下がるのかしらとびくびくしていたのだけれど、私に微笑む魔王様の態度は変わることはなく。

 私たちは、ラブラブハッピーに幸せに暮らしました!。



  

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