49.心の憂いを晴らす時
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「『不細工な上に借金まみれとか。冗談じゃない』」
オリーが告げた言葉に、ストラの肩がびくりと跳ねあがる。
どうやら身に覚えがあるらしいとわかり、口元がへの字に歪んだ。
それは、あの日からずっとオリーの心を縛ってきた呪いの言葉だ。
「覚えているようね。私との婚約が破棄された時に、あなたが言った言葉よ。ストラ・ボッティ」
忘れたとは言わせない。
ううん。ストラが忘れようとも、オリーには忘れられなかった。記憶は薄れることすらせずに、オリーのその後の人生を左右し、決定づけた。運命の言葉だ。
孤児院へ、子供を戦争で亡くした夫婦が引き取る子を探しにくると、基本的には幼児期ぎりぎりか働き手になり得る年齢に入っているかがまず第一の判断材料であるが、選択肢がある時は、大抵の場合は顔のかわいらしい子から選ばれていく。
男の子も、女の子もそうだった。働き手というだけなら男の子が選ばれそうだけれど、家事労働の手伝いならば女の子の方が選ばれ易い。そこでもオリーは誰からも声を掛けて貰うことなく、成人した。
定職につけずに日雇いで屑野菜を貰って帰る道すがら、かつての友人の乗る馬車とすれ違いそうになって顔を隠した日も。
臨時雇いで酒場の給仕をした際、その日の噂話が、家が没落した美しい令嬢が高位貴族に娶られたという話だった夜も。
『自分は不細工だから、誰からも選ばれない』
悔しくて、悲しくて。
自分には関係のない世界なのだと、言い聞かせた。
あの頃だって今だって、ストラは別に絶世の美少年という訳ではなかった。
赤味のつよい茶色い髪もブルーグレーの瞳も派手さはなくて。
オリーだって分かっていた。ストラに言われるまでもなく、自分が美人でもなく可愛らしくもなく、むしろ不美人であるということを。
それを理解していたから、地味な顔をして、「着心地がいい」ということを優先し古ぼけた服装しかしようとしないストラが婚約者であることは「丁度いい」と思っていた。
そんな彼から下された裁定は、幼いオリーの心を引き裂いた。
でも。オリーだって、口に出さなかっただけで、ストラを高く評価していた訳じゃない。
不細工なんだからと思考を停止し、そこから抜け出す努力もせず、身綺麗に努めることすらせずにいた。
努力しても無駄なのだと。
じっと、オリーの手の中に帰ってきた髪飾りを見つめる。
総菜屋で暮らしていた時のままのオリーであったなら、間違いなく、こんな美しい髪飾りを貰ったとしても着けてみようとしなかっただろう。
ぼさぼさになっていた髪を手櫛で整える。
鏡もないし櫛もないけれど、それでも何百回とまではいかないけれど何十回も、繰り返し髪を整え、自分でメイクすることも練習を重ねてきたのだ。顔のむくみをとるマッサージも朝晩自分でするようになった今のオリ―ならできるのだ。
全体を梳いてふたつに分けて捩じって、交差させた場所を銀の髪飾りで留めた。
ドレスの捩れをひっぱって直し、裾についた汚れをはたいて落す。
よし。
本当はもう一回、乳を寄せてあげて気合を入れ直したいところだけれど、それは我慢。
「私ね、ずっと自分を不細工だって思って生きてきた。綺麗な人は得してズルいって思ってた。でもね、ただそのままで綺麗な人っていないんだって知ったの。皆努力してた。綺麗でい続けるのには努力が必要だった。楽じゃなかった。そして、美人にはなれなくても、不細工なりに、綺麗になる努力をしてる今の私の事を、私は好きよ」
恨みを晴らすつもりだったけれど、そう告げたオリーの心は晴れやかだった。




