34.なんて不細工
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「れも、ろうやっれ?」
元々大きい人だったなら、『育てた』なんていわないだろう。
育てる方法があるのか。
全然知らない。
色んな方面で衝撃を受けていると、眉を顰めたおねえさまが顔を近づけてくる。
そうして、ぎゅっとひと際強く私の高くもない鼻を捻り上げってから、ようやくその指を離してくれた。
「ひぃんっ」
ひりひりする鼻を指で擦る。痛い。
涙目になって見上げると、迫力美人のおねえさまが私を立ち上がらせて、鏡のすぐ前に立たせた。
頭の中が疑問符でいっぱいになっていたが、なにやら大変怒っている様子なので怖くて反論する気になれない。
「唇を持ち上げて」
「?」
何を指示されているのか分からなくて、指でくいっと下唇の真ん中あたりを押し上げた。
鏡の中に写る私の唇が、全体的に、への字に歪んでいた。
あぁ、なんて不細工なのか。死にたくなる。
薄化粧ではあったものの、先日基礎化粧のやり方を教わった後、自分で化粧ができるようにと習い始めたのだ。
眉の形はマダムが整えてくれたから、自分でやったのはファンデーションと口紅だけだ。
化粧をする為にはどうしても鏡で自分の顔を見つめなくてはいけないのだが、それがとにかく辛い。
耳元でもうすっかり忘れた筈の元婚約者のあの最後の言葉が何度も聴こえてくる気がするからだ。
『不細工な上に借金まみれとか。冗談じゃない』
その声が、耳元で聞こえた気がしてギュッと目を瞑った。
ぎゅ。ぎゅぎゅぎゅぎゅーーーっ
「いひゃいいひゃい。痛いですよっ」
今度はが、私の唇の両端を、ぎゅぎゅーっと力の限り指で押し上げていたデカすぎるものをお持ちのおねえさんから、自分の顔を取り戻した。
それ抓り上げてるのと同じだから。痛いから。
痛みに悶える私をおねえさんが冷たい瞳で見下ろしていた。
「お店の席についている時にお客様から話し掛けられて、そんな風に自分の考えに耽っていたら、許さないから」
どきっとした。
確かに私は別にお店で働きたくてここにいる訳じゃない。
けれど、そんなのはこのお店で本気で働いている人には関係ない。
去年、私の働いているお惣菜屋へ、親戚の子が行儀見習いで預けられていたことがあるのだがやる気もなくただ手伝いをさせられて返事も生返事しかしないし失敗しかしないし、叱っても「雇われが」って吐き捨てるばかりで困ったことがある。
たぶんきっと、あそこまで酷くないけれど、今の私はあの子と同じだ。
行儀見習いでもお金貰う仕事なんだからちゃんと働けと、私はあの子に何度も言った。
賭けのためだろうと、お金を稼ぐために私はここでマダムにお店に出る為の作法を教えて貰っている最中だ。
うわの空でいるのは、あの時のあの子と一緒なのではないだろうか。
「もう。言っている傍からだんまり? そんな心掛けでいるからそんななのよ」
ぐいっと先ほどよりも強くはないけれど、唇を持ち上げられた。
「?!」




