3.案外お馬鹿ってなに
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気を取り直してベッド脇にあったパネルみたいな引き戸を開けた。
そこにはなぜかミニバーカウンターが隠してあって吃驚した。ひえぇ。どうなってんのこれ。個人で楽しむ用? え、個人でこんなのベッドサイドに造るものなの? え。お金持ち過ぎじゃない? やっぱりお貴族様のお屋敷? それともやっぱり王宮なの、ここ。
その横にあるクリアガラス製の扉は開けるまでもない。広々とした洗面台とそれに続くシャワールームだ。辛うじてシャワールームとトイレらしき扉は磨りガラスなっている。真ん中あたりだけだけど。肝心な場所は隠してくれてるからギリセーフとする。
そのふたつまで完全クリアガラスだったら変態の住居かと思う所だった。ちょっとホッとした。
そうして、ついに残る扉はあとひとつだった。
ベッドが置いてある壁と反対側。どう見ても、このベッドルームへの入口いや出口? であろう、観音開きのその大きな扉を見つめる。
ここを開けたら、昨日のおじいさんがいるのだろうか。
記憶の中にうっすらと残るおじいさんは、どう考えてもお金持ちには見えなかった。
着倒しているのがアリアリと分かる形の崩れた外套を着ている、ボサボサ頭のおじいさんだった、と思う。眼鏡も掛けていたかも。
薄っすらと記憶に残るおじいさんの記憶を思い出せば出すほど、そこに貴族っぽさやお金持ちらしさを感じることはできなかった。
とりあえず、この部屋の持ち主だか借主だかわからないけれど、とにかくその人は凄いお金持ちだろう。これは確定。
「んー。違うか。全然別の人かもしれないな」
誰が連れてきてくれたのかサッパリわからないが、季節的に人通りの少ない裏通りで朝まで気絶なんてしたままだったら目覚めることなく凍死して天に召されるか、犯罪に巻き込まれるかの二択しかなかっただろう。
心の底から感謝を捧げることにしよう。
「あのおじいちゃんは、きっとどん底の私に天が遣わしてくれた御使い様☆ ありがとうございます、天使様!」
がちゃり。
囁いただけのつもりだったその声が、殊の外大きく出ちゃって肩が跳ねた。おもわず自分にビビって口を塞ぐ。
やばい。おひとり様歴が長すぎて独り言が大きくなってるのかもしれない。やばい。
っていうか、がちゃりって扉が開いた音がした?
そっと振り返ると、そこには人影があった。
「案外お馬鹿だな、オリーちゃん。いま現在、犯罪に巻き込まれてる真っ最中の可能性も考えるべきだろうよ」
その声には、確かに聞き覚えがあった。
扉の前に立っていたのは、あの色眼鏡を掛けた白髪頭のおじいさんだった。
ただし今はぼさぼさだった髪が綺麗に撫でつけられている。髭は相変わらずぼっさぼさの野放図だったけれど、仕立ての良さそうなけれどもかなり着倒した感じのする黒いシャツとズボン姿になっていた。
姿勢がいいからだろうか。白髪頭から想像したより若いのかもしれなかった。
なんというか、シュッとした感じに見える。