21.みんなを吃驚させたかっただけなのに
■
朝の分の薬を鼻をつまんで飲む。
「うえぇぇ」
用意しておいた水を一気に飲み干す。それでも口の中に広がってしまった粉薬の味が残って顔を顰めた。
「オリーちゃんは粉薬を飲むのが苦手なんだねぇ」
くくく、と笑われて、思わず睨んでしまった。
水が先か薬が先か。
粉薬を飲む時の流派は二派に分れるが、どうやらおじいさんは薬が先派なようだ。敵ね。
「薬だけ口の中に入れるなんて信じられないです。苦いじゃないですか」
水が先でもこんなにも苦みを感じるのに、粉を先に口に入れておくなんて信じられない。
うえぇ、とコップに水のお替りを注ぐ。
「いや。僕も水が先派だよ。でもやり方が違うみたいだ。舌の上に水を溜めてそこに薬をそっと乗せてそのまま喉奥に運んでいくんだよ」
舌の上に水を? 溜める? そのまま運ぶって??
「難しい事を言わないで下さい」
想像することすらできないそれを想定して、薬なしで試してみる。
けれど、そもそも舌の上に水を溜めるということ自体ができない。
想像できないまま、とりあえず言われた通りにやってみる。まぁ薬はまた次の機会に、だけれど。
「えぇと。舌の上に、水を」
言われた手順を思い出し、舌を出してコップの水を口に入れる。
だばー。
口からぼたぼたと水が零れて、呆然とする。まぁね、やっぱりそうなるわよね。
「騙しましたね!」
おじいさんの肩が、痙攣しているように動いている。悔しい。
恥ずかしさで思わず顔が真っ赤になる。
「騙した訳じゃないよ、止める隙が無かっただけで」
おじいさんが差し出してくれたハンカチを受け取り、まずは口元を押さえた。
睨んだけれど、おじいさんにはまったく効果がないみたいで笑ったままだ。
「オリーちゃんや。舌は外に出すんじゃない。むしろ口の中に引っこめるようにして上に窪みを作るんだよ。水を留める空間を作るんだ。その上に、水だ」
「?」
「ちょっとみてろ」
おじいさんが言葉で説明してくれたけれど、まったく想像がつかない。首を傾げていると、おじいさんが大きく口を開けて実演してくれた。
なるほど?
零れた水で濡れた胸元をハンカチで拭きながら、大きく開けられたおじいさんの口を覗き込む。
綺麗な形のいい白い歯が並んでいる中に、赤い舌が軽く折り畳まれるようにして鎮座している。
「へー。この中央部の凹みに水を溜めて、その上に粉薬を浮かべるイメージですかぁ」
思わず感心してしまった。
そんな粉薬攻略法があったなんて知らなかった。
自分でちゃんとできるようになったら、孤児院の子供たちにも教えてあげにいこう。きっとシスターも知らないに違いない。
「ふふふ。みんな吃驚するわ」
「んー。何をそんなに嬉しそうにしてるのか分らないけれど、こんなところを誰かに見られたら、ちょっと色々と、困っちゃうからさぁ」
傍と気が付いた。
口の中を覗き込む為に、かなり顔を寄せたままだった。
※ご意見を受けて、ちょっとだけ文章を足しました(2023.05.17)




