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第3話 お風呂で情報収集

【レイ HP:666,666】

 ショップで適当な装飾品とか買って、HPが美しく揃うように調整した。

 下三桁はほとんど誤差なんだけどね。

 とにかく、これでボク自身のレベル上げは終わった。


 ダンジョンのプレイヤー人口は結構なもので、入れ替わりも激しい。

 まあ、こんなゲームバランスじゃ息をするようにヒトが死ぬだろうから、生け贄の投入に躍起になるのも当然だろうけど。

 で、その中でも上層階をコンスタントに攻略できる一握りの連中が、拠点でも幅を利かせている。

 全ての隣人が、明日自分のパーティメンバーになり得るかもしれないからか、少なくとも拠点内での暴力行為や殺人に対しては、上級者による厳しい制裁があるようだ。

 こいつら、元は衛兵に捕まるような犯罪者か、戦闘狂か、良くても食い詰めた挙げ句に流れてきた犯罪者予備軍のクセにね。

 とにかく、ダンジョンに出ない限り、プレイヤー同士の秩序はある程度保たれているし、申し訳程度に衛兵も配置されている。

 それにした所で、絶対とは言えない。

 どこかのパーティに所属すれば、迂闊に手出しされる可能性は更に無くなるだろう。

 また、野盗達も大っぴらに他プレイヤーを襲うことは出来ない。物陰でコソコソ少数のルーキーをリンチするのが関の山だ。

 パーティで行動する限り、野盗に襲われる頻度はかなり減るはずだ。

 装備と検証が揃った今、もう奴らに用はないので、エンカウントしないに越したことはない。

 間違えないでほしいけどぉ♠️ボクは戦闘狂だったり快楽殺人犯ではないからねぇ◆

 また、今後、階層を進めるうち、嫌らしいトラップやモンスターも増えていくことが予想されるから、予備知識のある味方は必須でもある。

 

 

 

 そんなわけで、お風呂に入ろう。

 ちょっと薄暗い大浴場って趣だ。

 男女混浴なので、水着を着て入ることになる。

 中には酒盛りをしていたり、チェスみたいなゲームに興じているヒトもいるね。

 ちなみに空き瓶は一定時間放っておくと、これも消滅してくれるようだ。マジ便利だね。

 入浴中というのは手持ち無沙汰になるもので、隣人がいるなら実にトークが進むものだ。

 そんなわけで、この大浴場は情報交換の場としても使われている。

 ギルガメッシュの酒場ならぬ、ギルガメッシュの風呂場ってか。

「どうも、シャバでは我々の種族を中心として、チェーンソー教というものが興ったらしい」

 頭部までネコそのもののワーキャットが、ツレのドワーフと噂話をしている。

 あっ、それでっち上げたのボクです。

 コロッセオでフョードルを殺した時に、彼のファンのワーキャット達に包囲されて、煙にまくためにチェーンソー鳴らして、これ御神体だよって吹き込んだんだよね。

 良い感じに育ってるようだね、チェーンソー教。

 チェーンソー教って、声に出して読むとシュールすぎて超ウケるんですけど。

 まあそれよりも。

 最近、上級プレイヤーの野盗をバッタバッタぶち殺していたルーキー君の噂もやっぱあちこちで聴こえてくるね。

 恐怖の怪人・レザーマスク!

 ちょっと、B級ホラー映画みたいな尾ひれもついてるけど……。

 あんたらだって、HP効率ばかり考えて妙ちくりんなファッションしてるじゃないか。

 でもまあ、目立つに越したことはない。

 HPをゾロ目にしたのは、何も趣味ばかりではない。

 他プレイヤーの印象に残すためだ。

 とりあえず最上階到達レベルに達したと言うことは”パーティに参加する資格”を得たと言うことだろう。

 これ、リアルゲームであってテレビゲームじゃないからね。

 低レベルの足手まといをわざわざレベリングしてやってまで仲間にするいわれもない。

 で、

「ねーねー、キミキミ」

 ロリキャラのなりそこないみたいな、メスのアニメ声がかけられた。

 うげっ……イヤなのに当たったな。

 ワーキャットのメス。耳と尻尾だけがネコの、人間様に都合の良い獣比率。

 パッと見、下手をすればちょっと大柄な小学生くらいに見える。

 茶色に白い縞模様の入った髪を肩の高さで切り揃えている。

 白いレオタードを着ている。風呂場だからなのか、これが装備なのか。

 ……恐らくは後者だろう。

 吐きそうな衝動と、脳天を叩き潰してやりたい衝動を抑えるのがツラすぎる。

「これから、ヒマぁ?」

 さりげなくボクに寄り添い、腕をやんわり取ってきた。

 肌と肌が密着する。

 細いが、しなやかな筋肉の感触をこれでもかと売り込んでくる。

 落ち着け。

 殺してはならない殺してはならない今のボクなら素手で叩き殺せるだろうけど殺してはならない殺してはならないここは公共の施設だからだ!

「べべべ、別に、ヒマ、だけど?」

 怒りのあまりどもってしまったボクの様子を見たメスの猫目が光った気がした。

 つまり、そう言う奴なのだろう。

 趣味と実益を兼ねて、身体を売っているクチ。

 地球で、詐欺の仕事をしていてターゲットにした事のある、違法性風俗店勤めのメスそのものだ。

 以前、野盗の中にもこんな売女のようなワーキャットに襲われた事があるが、やっぱり、声優の出来損ないみたいな、酷いアニメ声だった。

 頭の足りないメスガキ、且つ、卓越した夜のテクニックを両立した、ひじょーに都合の良い半獣を征服する願望っての?

 そう言う需要が、一定数あるのだろう。

 ご丁寧にも、ショップには精度100パーセントの避妊ポーションまで売ってたよ。

「あたし、リーザ。リーザ・ディズリー。……一晩、どう?」

 最後の一言は、耳元で囁かれた。

 風呂場でお互いに肌がむき出し。それを殊更密着させる事で、性行為のイメージを想起させる安い手口だ。

 こんなのでもコロリと引っ掛かるヒトが相当数居るのが、ボクには理解できない。

 だけど。

 背に腹はかえられない。

 ……ボクは、このメスの一晩を買うことにした。

 カネをドブに捨てる行為だが……まあ、お金なんて錬金術(プレイヤーゴロシ)で無限に作れますし?

 

 で、このリーザとか言うメス。

 売女である前に、プレイヤーでもあるわけだ。

 奴が取った宿の宿泊室に入るや、さっさと本題を切り出した。

「金は払う。けど、ボクはキミと寝るつもりはない」

 きょとんと、目を丸くしやがるメス猫。

「どーいうこと?」

「ボクがキミについてきた目的は、別にある」

 わざとボカした言い方をしてやると、アホの子みたいな面構えはそのままに、でも、視線はベッドの横に立て掛けてある曲剣のようなもの? に向けられている。

 さりげなく、いつでもボクを斬れるようにスタンバイしているのがわかった。

 プロだな。

 うん、合格♣️

「ボクは今、パーティに所属していない。キミの所でも、知り合いのところでも良い。紹介してくれ」

 リーザは、答えない。

「怪人・レザーマスクって聞いたことない?」

「ああー……新人さんの」

「HPも、装備も見せてあげるよ。ボクのステータスを【分析】してもいい。出来る魔法も一通り見せてあげるし……とにかく、能力を証明するためのテストがあれば受けるよ。どう?」

 【分析】させることについては、これまた綱渡りだ。

 ボクが、この世に存在しないはずの“人間族”だと知れたら、何をされるかは未知数だ。

 だが外の世界でも同意無しの【分析】は、宣戦布告と見なされかねない、失礼な行為だ。

 ましてこのダンジョン内では、他人を【分析】する事はタブー中のタブーとされている。

 早い話、剣で直接斬りつけたのと同じ扱いーーつまり、周囲の上級プレイヤー全てからの制裁対象となる。

 裏を返せば、自分のそれを【分析】させると言う事は、この上ない“信頼”を示す意味でもあった。

「わかった。あたしの所属するパーティが、ちょうど空いてるから、リーダーに聞いてみてあげるよ」

 オーケイ。

 ひどい目に遭わされた甲斐はあったよ。

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