美人の幼馴染みが隣にいるのは当たり前~日常がお互いの距離を縮めていた~
「今日はどうしたの?」
俺はただいつものように通学路を歩いていただけ。
それなのに、幼馴染みのレイは俺の顔を覗き込み言った。
「何だよ? 今日は何がいつもと違うんだよ?」
「今日はキラ君の目の大きさがいつもと違うの」
「目の大きさ?」
「昨日、寝る前にジュースをたくさん飲んだでしょう?」
「うん。何で分かるんだよ?」
「何でだろうね?」
レイはクスクスと笑いながら、理由は教えてくれない。
レイは俺の変化にすぐ気付く。
俺が気付いていない小さなことでもだ。
レイとは幼馴染みだから、保育園から高校までずっと一緒にいる。
高校生になるとレイは、美人と呼ばれるほど美しくなり、たまに俺に見せる笑顔が、パーフェクトに可愛い女の子に成長した。
長い黒髪はストレートで、風が吹くとサラサラとしているのが分かるほど、綺麗だ。
肌は白く、マシュマロのようにプニプニしてそうで、その肌に赤い唇とピンクの頬と長いまつ毛に、少し切れ長の目が美人度を上げる。
そんなレイはモテる。
それなのに、恋人も好きな人も作らない。
そしてレイは俺の隣にずっといる。
レイを独り占めできるからなのか、俺はレイに対して扱いが少し雑だ。
いつも通りだからこそ、慣れというものがそうさせるんだと思う。
学校への登校中もそれがでてくる。
レイと話すのはこの最初だけだ。
俺はレイに、ワイヤレスイヤホンの片方を渡して、俺達は同じ音楽を聞きながら歩く。
二人、何も話さず、いつものようにイヤホンをつけて、俺の携帯電話から二人のイヤホンに、音楽が流れる。
いつもの道を俺の好きな歌が流れながら、二人で歩く。
ブランコが二つだけ並んだ小さな公園の前を通り、可愛い柴犬が犬小屋から顔を出して、俺達におはようと言うように、可愛い眼差しで見てくるのを、横目で見ながら歩く。
たまに小学生が俺達を追い越し、急いで走っていく姿も見る。
そして月に一度くらいのペースで、たまに起きることが、俺は一番好きな時間だ。
今日はその日ではないが、月に一度だからこそ、俺にとっては好きな時間なのかもしれない。
毎日それがあったら俺は、それに慣れて当たり前になり、好きな時間にならなかったかもしれない。
俺はすぐに慣れるタイプなんだと思う。
だから隣にいる美人の幼馴染みと一緒にいても、特別なんだって思わないんだ。
「なあ、今日の俺っていつもと違うか?」
「いつも通りのアホ面だよ」
学校に着いて友達のエイチに聞くと、ムカつく返答をされたが、そこは聞き流してやるよ。
エイチはいつも、レイと一緒にいることを羨ましいと言う。
そんなエイチはイケメンだと思う。
本人には言わないが、アシンメトリーの髪型がとても似合う。
大きな目と右目の目尻にほくろがあることで、女装したら、女の子に見えるんだと俺は思う。
それほどエイチの顔は整っている。
レイの顔も整っているから、俺は整った顔に慣れてしまっているのかもしれない。
エイチは中学の頃からの腐れ縁だ。
「レイがまた、俺の変化に気付いたんだよ。レイなら間違い探しで、見つけられない問題はないだろうな?」
「お前、バカじゃん」
「バカ?」
バカと言われるのは、いくら俺でも許せない。
ムッとした顔でエイチを睨む。
「そうだよ。あんなに美人のレイちゃんが、お前の変化に気付くのは、、、」
「幼馴染みでいつも一緒にいるからだろう?」
俺はエイチが言う前に言ってやった。
いつも幼い頃から、俺の顔を見ているレイだから、気付けるんだ。
「お前は本当にバカだな」
エイチは呆れ顔で言った。
「これでも俺は学年でトップクラスの成績だよ」
「それでもレイちゃんには勝てないだろう? トップクラスってだけで、トップのレイちゃんには全てにおいて、勝てないんだよ。お前にはな」
「エイチ、お前もだろう?」
「俺はレイちゃんの有り難みは、分かっているからいいんだよ」
「有り難みって、レイがお前に何をしたんだよ?」
「レイちゃんは俺の目の保養だよ」
「お前、レイを盗み見しているのか? キモイぞ」
「何にも聞こえないな」
エイチはそう言って聞こえないフリをしながら、自分の席へ戻った。
俺は窓側の席でなんとなく外を見た。
渡り廊下をレイが歩いていた。
俺は窓を開けてレイと叫んだ。
レイは俺に気付いて小さく手を振った。
そんな仕草もレイは美しい。
近くを歩いている男子が、チラチラとレイを見ていた。
レイがチラチラ見られているのが嫌で、レイに早く教室へ戻れと言った。
レイはうなずいて、渡り廊下を通りすぎて俺の視界から消え、渡り廊下を歩く男子はレイの反対方向へ歩いていった。
レイは俺に忠実だ。
俺が言ったことはちゃんと守る。
夜中は危ないから一人で歩くなと言えば、部活で遅くなった時には俺に迎えを頼む。
アイスはお腹を冷やすから一日一個だと言えば、食べたいアイスが二つの時には、二種類を半分ずつにして、半分を俺にくれる。
体調が悪い時はすぐに俺に言うし、嘘はつかないし、俺に勉強を教えてくれるし。
レイは俺に心配をかけないんだ。
レイは本当にイイコだ。
女子にも男子にも好かれて、俺の自慢の幼馴染みだ。
◇
「おはよう。キラ君」
「おはよう」
「今日のキラ君はいつも通りだと思ったけど、指を怪我しているわね」
「また気付いたのかよ? 家族は誰一人として気付かなかったのに」
「それはキラ君が、家を出るギリギリまで寝ているからよ。一瞬しか見ていなかったら、家族は気付かないわ。それでその怪我はどうしたの?」
「これはルアーの手入れをしていたら、針が指に刺さったんだよ」
「大丈夫なの?」
レイは心配するように俺の指を手に取り、怪我をした所を見ている。
そしてバッグから、可愛い水色ドットの絆創膏を出して貼った。
「絆創膏は貼らなきゃ、バイ菌が入るでしょう?」
「このくらい大丈夫だよ」
「ダメよ。絆創膏は貼っててよ」
「分かったよ」
それから俺達は学校へ歩き出す。
イヤホンをつけて、同じ音楽を聴きながら。
何も話さない。
「あっ、今日はいるのね」
レイがそう言って、嬉しそうに笑って走り出す。
俺も嬉しくなって、レイの後ろを大股で歩く。
「ブウちゃん、おはよう」
レイは、洋館のような家の前にある塀の上にいる、猫に挨拶をした。
猫は尻尾を左右にゆっくり振り、鳴いて返事をした。
この猫は、この洋館のような家で飼われている猫だと思う。
月に一度、この場所に現れる。
首輪をしている猫は、少し肥満気味だ。
首輪には小さな鈴と、ブウと書いてあるハート型の名札がついている。
「ブウ、今日はお前の為に、俺が作った物を持ってきたよ」
「作った物? ブウちゃんの為に?」
「そう。これだよ」
俺は鞄からブウの為に作った、猫じゃらしを出す。
「ブウ専用の猫じゃらしなんだ。ブウが好きなキラキラするものと、もふもふするものと、長いものを棒に付けたんだ」
「もふもふするものって、ルアーについている羽根なのね?」
「そう。その羽根を取ろうとして、針を指に刺してしまったんだよ」
「本当、キラ君も猫ちゃんが好きよね?」
「レイもだろう?」
「そうね。私とキラ君は猫ちゃんが大好きなのよね?」
レイは同意を求めるように俺を見る。
俺はうなずいた。
「ほらっ、ブウ。お前の好きなキラキラするモノは、金と銀の折り紙にセロハンテープを綺麗に貼って、破れにくくしたんだ」
「本当だ。この長いモノは釣糸で貝殻を繋げたの?」
「そうだよ」
レイはブウよりも、興味を持っているようだ。
「これはブウのだよ。レイも欲しいなら作ってやるよ」
「私は猫じゃありません! でも、キラ君が作ったなんて大変だったでしょう?」
「楽しかったよ。ブウのことを考えながら作ったらすぐ、できたんだ」
「キラ君、ありがとう」
レイは本当に嬉しそうに笑って言った。
「レイのはまだ作ってないけど、もうお礼を言うのか?」
「違うよ。ブウちゃんの為に作ってくれてありがとう。ブウちゃんの代わりに言ったのよ」
「そっか」
俺はレイの頭を撫でて、どういたしましてと言った。
ブウは楽しそうに猫じゃらしで遊んでくれた。
それからまたいつものように、二人でイヤホンをつけて、音楽を聴きながら歩く。
レイはブウに会えたからなのか、足取りが軽く見える。
俺達はこんな毎日をずっと小さな頃から二人で過ごしている。
だからこんな毎日がこれからもずっと続くんだと思っていた。
◇◇
「おいっ、キラ。テストの結果を見たか?」
エイチが慌てた様子で俺に駆け寄って言った。
「どうしたんだよ? 何? どうせまたレイがトップだろう?」
「それが違うんだ。レイちゃんの名前はなかったんだ」
「はあ? そんなことあるかよ? レイはいつもトップだろう?」
「信じられないなら、自分の目で確かめて来いよ」
俺はテストの結果が貼り出されている、掲示板を見る。
一位は隣のクラスのメガネ君だった。
レイの名前はどこにもない。
上位十位までの名前があるが、レイはいつも一番上だった。
でも今回は名前さえない。
「レイ!」
俺はレイの教室へ向かい、レイを呼んだ。
レイは、俺が何を訊こうとしているのか、分かっているようだ。
「テストを受けられなかったの」
レイは俺が訊く前に答えた。
「何で?」
「この前のテストの日、ブウちゃんが塀の隙間に挟まって動けなくなっていたの」
「テストの日って、レイが忘れ物をして家に帰って、別々に学校へ行った日だろう?」
「そうよ」
あの日は、いつもと違った。
いつもはレイと学校へ行くのに、レイが忘れ物を取りに家へ戻っている間、待つこともできたのに、俺は待つのが面倒で先に行ったんだ。
あの日、レイを待っていたら、レイはテストを受けられたかもしれない。
俺はあの日の俺を恨んだ。
またレイに対しての扱いが雑だった。
だから、いつもと違う日常に気付かなかったんだ。
「ブウちゃんが苦しそうにしていたから、助けてあげたかったの」
「飼い主を呼べば良かっただろう?」
「そんなの考えられなかったの。ブウちゃんは凄く弱っていて、私達と会った日から動けなくなっていたなら、三日は経っていたのよ?」
レイは自分がしたことに後悔はないようだ。
でも今回のテストは、進路を決める大事なテストだった。
「レイは、ブウのことは誰かに任せて、テストは受けるべきだったんだよ」
「ブウちゃんを見捨てるなんてできないよ」
「見捨てるんじゃなくて、他の人に任せるんだよ」
「キラ君は、そんなことできる? 苦しんでいるブウちゃんを置いて、自分だけいつも通りのことができるの?」
レイの言葉は凄く胸に刺さる。
俺だったら、どうしただろうか?
レイのようにブウを助けようとしただろうか?
「みんながみんな、レイみたいに自分を犠牲にできる訳じゃないんだ」
「それって、ブウちゃんを助けないの?」
「助けるけど、俺は誰かに任せるよ」
「そうね。それもブウちゃんを助ける選択だよね」
レイは納得した顔は見せてはくれなかった。
その代わりに、作り笑いを見せたんだ。
俺の選択に同意しているフリをしたんだ。
レイが俺に初めて嘘をついた。
◇◇◇
「あっ、キラ君。今日は先に学校に行ってくれる?」
朝、家から出てレイの家を見ると、レイが玄関のドアから顔を出して言った。
「えっ、何で?」
「それがまだ、準備ができていなくて」
「分かったよ」
レイがいない通学路。
いつもはレイと一緒に聴く音楽が、何故か楽しくない。
好きな音楽なのに、両耳にイヤホンをつけても、楽しくない。
小さな公園のブランコに、小さな頃のレイと俺が乗っている風景を思い出し、足が止まる。
可愛い柴犬が犬小屋から、いつもは顔を出すのに、今日は顔も出してくれない。
お前はオスだな。
レイのことが好きで、いつも見ていたんだな?
今日は急ぐ小学生もいない。
まだ遅刻なんてする時間じゃないから。
レイと歩かなかったら、こんなに早く学校に着くことを知らなかった。
俺の毎日はレイがいないと、狂ってしまう。
レイがいて、いつもの日常になるんだ。
レイの有り難さが分かった気がした。
「俺、レイに嫌われた」
俺はエイチの席に行き、
「それは無い」
俺の言葉にエイチはすぐに答えた。
「なんだよ、その自信は? 俺はレイに目の前で作り笑いをされたんだよ」
「作り笑い? そんなの誰でもするだろう?」
「そうなのか?」
「友達に合わせて愛想笑いするだろう?」
「レイは俺にはしたことないんだ」
「愛想笑いを見抜けないだけだろう?」
「いいや。レイは俺に愛想笑いはしたことがないよ」
俺は自信を持って言える。
レイが俺に向けて笑う時は、いつも心から笑っている。
「それで? 何があったんだよ?」
「何がって?」
「お前の顔が今までで一番、暗いんだよ」
「お前もレイと同じ能力者なのか?」
「魔法でも使えるような言い方をするなよな」
「それなら何で分かるんだよ?」
「そんなのずっと一緒にいれば、少しの変化くらいは気付くよ。お前だってレイちゃんの愛想笑いに気付いたんだろう?」
レイの少しの変化に俺が気付いた?
いつもはレイが俺の変化に気付くのに。
「俺、行ってくる」
「はあ? 何処にだよ?」
「分かるだろう?」
「そうだな。お前が行く場所はあそこしかないだろう?」
俺は走った。
レイの教室へ。
「レイ!」
「キラ君、どうしたの?」
「俺が気付かないとでも思った?」
「えっ、何が?」
「その手」
俺はレイが手を後ろに隠したから、レイの手を掴んで目の前に出した。
レイの手には沢山の、可愛い水色ドットの絆創膏が貼ってあった。
「よく気付いたわね?」
「だって何年、レイの手を見てきていると思ってんの?」
「タネ明かしされちゃったね」
「タネ明かし?」
「うん。私がキラ君の変化に気付くのは、何年も隣で見てきたからよ」
「だから俺も気付いたんだ」
「この手をでしょう?」
「違うよ。レイの作り笑いだよ」
「えっ、バレてたの?」
レイは恥ずかしそうに顔を赤くした。
「何で作り笑いなんかしたんだよ? 俺を軽蔑したのか?」
「そんなことはないわ。ただ恥ずかしかったの」
「恥ずかしい?」
「うん。だってブウちゃんのことになると、周りも見えないくらい必死になって、自分の首も絞めちゃってたから」
「でもそこがレイの良い所なんだよ? 自分のことを犠牲にしてまでも誰かを助けるところがね」
「だからこの手もこんなになっちゃったのよ」
「この手?」
「あっ」
レイは手で口を押さえていたが、もう遅い。
「その手はブウの為に何かをしたから、怪我をしたのか?」
「違うの。これはブウちゃんの為じゃなくて、、、」
レイは言うのを躊躇っている。
「レイ、教えて」
「うん。これはね、キラ君の為にルアーを作っていたの」
「俺の為?」
「そうだよ。キラ君がブウちゃんの為に猫じゃらしを作って、ルアーを一つダメにしたでしょう?」
「ルアーなんて買えばいいんだよ」
「そうだけど、キラ君専用のルアーをあげたかったの。世界でたった一つの猫耳付きルアーだよ」
レイはポケットからルアーを出して、傷だらけの掌に乗せた。
俺は嬉しくて、レイの手と一緒にルアーを両手で包んだ。
「ありがとう。大切にするよ」
「それはレイちゃんもってことなのかな?」
俺達の一部始終を見ていたエイチが、ニヤニヤしながら俺に言った。
仕方ない。
恥ずかしいけど言ってやるよ。
「レイ、君を一生大切にするよ」
「うん」
レイは本当に嬉しそうに笑った。
そんなレイを見て俺も嬉しくなった。
「公開プロポーズは大成功だな」
「エイチ、何を言ってんだよ?」
「だってレイちゃんのクラスメイト達が聞いてたからね」
「えっ、何だよそれ? 大体、お前が言わせたんだよ」
「そうでもしないと、お前は言わなかっただろう?」
「それは、、」
「それにお前とレイちゃんは、この学校を入学した時から、恋人なんだぞ?」
「はあ? そんなデタラメ誰が言ったんだよ?」
「それは俺だけど?」
エイチは当たり前のように言った。
「何でそんな嘘を言うんだよ?」
「だって、レイちゃんを他の男に取られたら、お前が困るだろう?」
「だからレイは、誰とも付き合ったりしなかったのか」
「まあ、レイちゃんも得する嘘だったんだよ」
「レイは知っていたのか?」
レイは申し訳なさそうにうなずいた。
俺だけが知らなかったなんて、悔しい。
「しかし、俺とレイは恋人らしいことをしていたのか?」
「そりゃあもう、沢山ね。俺が見ていて恥ずかしいこともね」
「何をだよ?」
「片耳ずつ付けるイヤホンに、暗くなると必ずキラがレイちゃんを迎えに来るし、レイちゃんを見ている男子に嫉妬するし、、、」
「もう、いいよ」
俺はエイチの話を途中でやめさせた。
自分の行動を恥ずかしく思ったからだ。
俺って束縛が強いみたいだ。
「レイ! 今日は一緒に帰るからな」
「うん」
◇◇◇◇
「おはよう、キラ君」
「おはよう、レイ」
今日も言葉を交わすのはこれだけ。
すぐに俺とレイはイヤホンをつけて、音楽を聴く。
俺の好きな曲。
二つ仲良く並ぶブランコがある、小さな公園の前を通る。
可愛い柴犬が、犬小屋から顔を出して、いつものように可愛い眼差しで見てくる。
「お前にはレイは渡さないからな」
俺がそう言っても、柴犬にはレイしか見えていないようだ。
レイは俺の行動を見て、クスクスと笑っていた。
後ろからバタバタと走る音がした。
その足音は俺達に近付き、そして追い抜いた。
小学生が急ぐように走っていった。
ウサギの世話に遅れると言っていた。
その小学生の言葉を聞いて俺は、だからいつも急いでいたのかと、つぶやいた。
その俺のつぶやきにレイは、またクスクスと笑っていた。
今日のレイはよく笑う。
レイが笑うと何だか嬉しい。
「あっ、ブウちゃんがいる」
レイは嬉しそうに、洋館のような家の前にある、塀の上にいるブウに向かって走る。
「この前は大丈夫だったの? あっ、やっぱり怪我をしちゃったんだね」
レイはそう言ってブウの頭を撫でている。
俺はレイの後ろからブウを覗くと、ブウには大きなハート型のガーゼが貼ってあった。
「でかいハートだな」
「そうね。でもブウちゃんは女の子だから嬉しいわよ」
「えっ、ブウってメスなのか?」
「そうよ。だから私のライバルなの」
レイはそう言った後、ブウに同意を求めるように、そうだよね? と言っていた。
ブウは、にゃぁ~と鳴いた。
「俺はレイだけだよ」
俺はそう言ってレイと手を繋ぐ。
「ブウちゃんが拗ねるわよ?」
レイはそう言って顔を赤くした。
ブウを見ると、座って片手で顔を洗う仕草をしていた。
「ブウはお手入れで忙しいみたいだ」
「そうね」
「さあ、学校へ急ごうか?」
「そうだね。今日はゆっくり歩きすぎね」
「たまにはいいじゃん。いつもの日常を楽しむっていうのもね」
「そうよね。いつもの日常を楽しもうよ」
レイはそう言ってギュッと手を握った。
俺もギュッと握り返した。
レイは嬉しそうに微笑んだ。
これが毎日つづくんだ。
だってこれが、
俺と君の日常だから。
読んでいただき、誠にありがとうございます。
いつも隣にいてくれる大切な人に、感謝の気持ちと愛を伝えられたらいいですね。
楽しくお読みいただけましたら、幸いです。