第3話その7 『イルマの気づき』
イルマを放り投げた腕は再度高く挙げられて次はサヤマのいる方角へと向けられた。サヤマはそれに気がつく事もなく膜の中で言葉を繰り返す。
「ごめんなさい。ごめんなさい。どうかお見逃しください」
(ここで彼女に駆け寄ってボクの方こそごめんなさいと言えたらどれほど……)、ガリレイは唇を噛む。誰にも悟られない様に、震える歯が音を立てぬように静かに、強く。
駆け寄れたなら救われるのはサヤマかガリレイか。
(……違う、そうじゃない。早くの解決を望むならボクがやれる事をやり切ればいいだけだ。悩むなガリレイ)
今やるべきは……。
ガリレイはイルマを放り投げた時と同じ様にサヤマへ権力の行使を試みる。正確にはイルマの貼った半球体に対してその効力の程を確かめる為に。
────────今、ガリレイが行使する権力は『身体の自由』と言い、これは本来"体育委員会委員長" が宿す力である。
彼女は『知る権利』によって得た情報を『知的財産権』を行使する事により、内包された他者の権力を『適用』という形で我が物として従える事ができるのだ。
『身体の自由』の効果は"対象者の身体の動きを自在に扱う事ができる" となっており、6つ星の効力範囲故に手の届かない距離に居る者でさえイルマの通りに扱える。
「?」
が、しかしガリレイの振るった腕は何を及ぼす事は無くただ空を切る。何も起こらない。サヤマに変化はまるでない。
(こ、これは……)、ガリレイは眉をひそめる。
思えば先ほどの『制海権』を行使した時もこの膜は割れる事なく二人を包み無傷でいてみせた。あれも5つ星の効力であるからかなりの威力を持つ力であるのに……。
『解放祈願』、イルマの力だ。自身の身体能力を爆発的に上昇させるのだろう、重力から解き放たれたかの様に宙を舞い回転による力も加えて先の攻撃を無力化してみせた。
ならばこちらは?
『安全祈願』、彼の貼った黒い半球体の防御膜だ。
今、ガリレイは確かに6つ星の力をその中にいる者へ振りかざしたのだがまるで反応を示さなかった。つまり無力化されたという事だ。
(では、耐久面はどうだろう……)
外界から内側への遠距離的な効力は無効化されたのだから次は物理的な近距離の攻撃を試そうとガリレイは考える。
されどガリレイは躊躇った。
なぜなら『天命』に当てられてしまえば自身の『星』が消え果てしまうから。現に今、目の前で"かの噂"を裏付ける様な力が発揮されたのだ。
下手をすればあの膜に触れた瞬間に『権力』の全てが消え果てるかも知れないのだから、これはかなりの覚悟が必要だ。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
涙ながらに繰り返される可哀想な後輩の姿に感化されガリレイは意を決す。
暴露すれば、ガリレイも既に心の限界を迎え『楽になりたい』と強く思っているのだからこれ以上は耐えられない。
(ごめんよサヤマちゃん、君は何も悪くない。悪いのはボクだけなんだ。何も言わずに君たちに襲い掛かって暴力を振るうのだから。ごめんよ今終わらせるから……)
"身体の自由"の効力には『解放祈願』と似た性質があり、権力行使中のガリレイも身体能力が存分に突き抜けている。
「すぅ……ふぅー…………」
覚悟を決めたガリレイは拳を握り半球体目掛けて攻撃を仕掛ける。
「やぁ!!!」
学園中で1番強いとされる物理攻撃で、自身の星を権力を懸け、これ以降は6つ星からの降格も視野に入れた、文字通りの"決死の覚悟"で全身全霊の一撃を安全地帯へとぶち込んだ。
ガリレイの小さな拳が半球体を突き破り、安全地帯を消し去った時、そこにサヤマの姿は無く……。
「先輩、ありがとうございました」
イルマは気を失った友人を抱き抱え、ガリレイに深くお礼を述べた────────。




