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第3話その6 『ガリレイの思惑』

────6つ星の輝きが示すのは"委員長" としての力の行使。効果範囲は建物全域に及ぶと知られているが、威力の程はどうだろう。



「内包権力 "(たい)"  身体の自由 適用」



 迫るイルマを一重で躱し、ガリレイは片手で軽く払い除ける。動きはとても(しな)やかに、そして柔らかくゆるりと撫でる様にサヤマには見えたが、しかしイルマは音を置き去りにした。



 人体とは不思議なもので、"美しい" とか"優しい" とかを強く感じ心が一杯に満たされた時には『見惚(みと)れる』 といったり、"危ない" とか"怖い" とか強い緊張感を抱いた時にも『呆然(ぼうぜん)』したりと。


(はた)から数えれば瞬間的な出来事だとしても、観測者からの視点ではその出来事の一部始終が目で追える事態というものは確かに存在するのもだ。


もっと分かりやすい例えを引っ張ってくるのなら、『消しゴムが机から落ちる瞬間』ともすればいいと思われる。


確かに目で追える、確かに落下のその瞬間まで目で見えている、けれど、だがしかし、体は全く動かない。



 これだ。サヤマもこれである。



「がはっ!!!」


 空気が一気に弾けた音がすると思えば次は自動車同士が正面衝突した様な激しい音が耳を(つんざ)く。体を一気に突き抜ける衝撃は耳を塞がせしゃがみ込むという反射をとらせサヤマの理解を遅らせる。



「イルマ君っ!!!」



 いくつ遅れたかはわからぬが、ともかく彼の安否を確認しなければとサヤマは黒い膜から飛び出ようとするも、


「来ちゃダメだサヤマさん、……ありがとう」


上半身を力なく起こし腕を押さえてイルマは呼びかける。攻撃への防御の際か、壁との衝突の際か、なんとか自分への衝撃を防ぐ為に出したのであろう腕を押さえ肩で息をして絞り出した声で。(ひたい)からは赤色が流れる。



 ここでイルマが拒むのもサヤマが何とかその中で踏みとどまるのも、それはお互いがわかっているから。


"飛び出そうとも" 何の解決になる訳もなく、ましてやガリレイを止める事など出来やしない。


 悔しいけど、歯痒いけど、更なる負荷を彼に掛けるだけだから。『万が一』にでも彼女を危険の中へ入れる訳にはいかないと、二人は痛感している。



 ならば、とサヤマは次にガリレイへ言葉を投げかける。


その時にでさえガリレイの攻撃は止むことなく続き、腕を指揮者の様に振るえばイルマはその動きと連動するが如く彼の身は空中へと運ばれる。


「もう止めてくださいガリレイ先輩!!!これ以上はイルマ君が本当に死んじゃいます! 何があったんですか!?  昨日は確かに優しかったじゃないですか! イルマ君に好意的に接触して下さったじゃあないですか! それがどうして今に至るんですか!!!  どうして何一つとして言葉を交わしてはくれないんですか!?」


「………………」


 ああ無情。ガリレイは何一つ顔色を変えること無く腕を払い、イルマは遠くに放り投げられる。



 彼女は再度腕を高く上げ、次の攻撃の所作をとる。止まる事なく機械的に。



 己の無力さ故に、目の前で行われている蛮行(ばんこう)を止める術を持たないサヤマは遂に我慢の限界を超え大粒の涙を目に浮かべて嘆く。


(何も出来ない! 出ていってもイルマ君の足手まとい、ガリレイ先輩を止める事なんて以っての(ほか)! どうして先輩はこんな事を、これならどうして昨日行わなかったの? 昨日の面接は何? どうして……どうして…………)



「……お願いです先輩、もうやめて下さい。これ以上は本当にイルマ君が死んでしまいます。これ以上は……」


「だ……めだサヤマ……さん。出てきちゃ……ダメ…………だ」



 サヤマが膜の中で踏み止まるのはやはり彼の声が聞こえたからだ。この状況でさえ自分の身を心配する為に絞り出された友の声が確かに耳に届いたから……。



「……ごめんなさい、先輩。私達が悪かったです。これ以上はご迷惑をお掛けしません。アナタの前にも現れません。それを誓います。他に望むなら何でもします。だから、どうかイルマ君にこれ以上酷い事をしないでください。お願いします。どうか彼を見逃してください」



 サヤマは深く土下座をした。



『俯かせるからなんだってんだ。そんなのてめーが力を持たねぇせいじゃねぇか。力ねぇ奴は大人しく力持つ奴に従ってろって言ってんだ』



 サメジマの言葉がサヤマを(よぎ)る。



この状況もまた力を持つ者の、権力者によって作り出された状況だからかあの時と重なる。



 あの時は暴力による支配を強く否定したが、実際に目の前で行われているそれを止める力が自分には無い。だから結局彼の言った通りなのだと改めて痛々しい程に肌で実感する。


 それと同時に、このままではイルマが死にかねない。


ガリレイがどの様に考えているのかは一切理解できないが、ともかく彼の状態を見れば殺されかねない事だけは理解している。


だからそれだけは何とか止めてくれないかとサヤマに出来る彼女への最大の抗議は、地にひれ伏して絶対的な服従と敵意の無さを彼女へ伝え見逃して貰う他にない。



「お願いします。お願いします。どうかお許しください」










────────正直に言えば。



ガリレイは怒りに囚われたとか殺意に囚われたとか、やっぱりイルマを監獄に連行しようとか、絶大な力が突如暴走してしまっただとか、これは決してそういう(たぐい)の話ではない。


だからガリレイの心の内をここで(さら)け出してしまうならば、地に頭を付けて涙を流し声を震わせ謝罪と懇願をするサヤマの健気さに感極まって抱きしめてやりたいと考えている。


イルマに関しても少々痛めつけすぎたかと反省の色が滲んできた所だ。


 ガリレイだって女の子。優しい心をもった17歳。


正直言って泣き出したいしすぐにでも止めて彼らを抱きしめてやりたい。謝って許されるのならお茶でも入れてお菓子を広げ一緒にゆっくりお話しがしたい。


(謝ろう、許されないだろうけど。でも彼らに多大なる負荷をかけてしまったのだから、それはきっちり後で謝ろう)



『心を鬼にして』ガリレイは責務を全うしている最中だ。


力を持つ者として、権力者として、そして何より『知的委員会委員長』として、彼女は"持てる力の全て" を行使する。



 イルマの限界を、『天命』の限界を知る為に……。

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