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第1話 その3『初めてのお誓い』

 サヤマさんが教室へ戻るのを見送った後すぐに教室へ戻ったのでは格好がつかないので、用もなく洗面所に向かい軽く手を洗ってから教室へ戻ると、何やらまた怒鳴り声が聞こえ始めた。



「おいこらサヤマてめぇ! さっきと言ってること違ぇよなぁ?」



 声の主はサメジマだ。



「さっきてめー昼は一人分で精一杯だって言ってたよなぁ? それじゃ、おめーが今持ってるのはなんだよ。あぁ? まさか俺に嘘ついたんじゃねぇだろうなぁ?」



 頭にくるほど理不尽にサメジマはサヤマさんに詰め寄っていた。



「こ、これは違うよ……関係ない」



 ちょうど教室へ戻る僕へ、ちらりとサヤマさんの目が向けられたが彼女はすぐに視線をずらす。一瞬、なんとも間の悪い時に戻ってきてしまったのだろうと悔やむ気持ちが湧いてきたが、先ほどのことを思い出し、なんとか自分を奮い立たせる。



(そうだ、ついさっき決めたじゃないか。その機会がさっそく回ってきたんだ)



 意を決して僕は二人の間に割って入った。



「僕だよサメジマくん。僕がサヤマさんにお昼を渡した」



 サメジマはこちらを睨み、続けて口を開いた。



「あぁ? なんでテメーがこいつに昼飯奢ったんだよ。てめーはなんも関係ねーだろうがボケ」



 初めて面と向かって対峙するとかなり心に来るものがある。恐ろしい、怖い、逃げ出したい。そんな言葉が次々と湧いてくる。



「いいよイルマくん、平気……だから」



 割って入った僕を庇うように、サヤマさんは僕の袖を軽く引っ張った。自分の方がもっと苦しいだろうに、それでも人を庇おうとする彼女の強さに、また胸が打たれた。



 なんだか力が漲ってきた気がした僕は、次第に考えを口にだして答える。



「関係ないなんて言うなよ。僕らクラスメイトじゃないか。サメジマ君のお昼を出したらサヤマさんが食べられなくなるって聞いてたから、だから僕が代わりにサヤマさんの分を出しただけだよ。それだけだよ……」


「ヒュー! かっけぇ」

「いうねぇ! イルマ」



 戻ってきたサメジマの囲いに茶化される。



「……てめー、それがどういう意味か分かってんのか? 俺がこいつに命令して、こいつがそれに従ってんだよ。それに割って入るって、それがどういう事か分かってんのかオイ」


 組んだ腕を震わせながらサメジマが僕を睨む。眉間にしわを寄せギラリと鋭い目を向けられて、やはり僕は言葉に詰まる。


「ど、どういうことって……」


 言い終わるよりも早く、被さり気味にサメジマが続ける。


「星4の俺が! 星1のコイツに命令出して、それに割って入るってこたぁ! 星2のてめーが俺に逆らったって事だっつってんだよ!!!」


 サヤマさんの机をバン、と叩き怒鳴られる。


「そんなつもりじゃ……」



 こういう時、本当に自分が情けない。



 今の一瞬でさえもサメジマの威圧に気圧されてすぐに保身に入ってしまった。サメジマの言う通りであるのに、それを自ら否定してしまった。



 こう言う時にこそ、『ああ、そうだとも』と、強く前にでる勇気が欲しいのに……。



「じゃあどう言うつもりなんだよ! あぁ? なんでテメーがコイツに飯奢ってんだって聞いてんだよ!」



 続け様に気圧されて、心はすでに限界を迎えていた。



 ここで自分の非を認め、何事もなく穏便にやり過ごすのが一番いいのだろう。いつも通りに……。



(本当に他意は何もなく、つい彼女にお昼を渡した。いや、それではまだ甘い、詰められる。それじゃあ……食べきれなかったから? いや、理由は既に述べている…………)



 問い詰められてからの数瞬で生き残りへの最適解を必死に脳が探し出す。なるべく穏便に、彼の気をこれ以上逆撫でしないよう、必死に……必死に…………。



 キーン、コーン、カーン、コーン……。



 永遠とも思える空気を動かしたのは、午後を知らせるチャイムだった。



「やっばー! 午後の授業始まんじゃん! サメ、イルマなんてほっといてさっさと行こー? 次の授業遅れたら星に傷がつくなんてやってられないっしょ」



 サメジマ囲いのギャル、ヒダカがそう言うと不良たちは舌打ちを残し彼女の後を追う。去り際にサメジマが何かを呟いた気がしたが、僕の耳には届かなかった……。


 





「……くん。……イ……くん。イルマくん」



 サヤマさんに袖を引っ張られ、つられて意識も戻ってきた。あまりの緊張感に、ついぼーっとしてたらしい。気がつけば不良たちは姿を消していた。


「ああ……ごめん。サヤマさん、その…………」



 彼女の力になろうと割って入ったつもりが実際にはなんの役にも立たず、かえって足を引っ張り、ただ悪戯に事を大きくした様で彼女に申し訳がなかった。それでも彼女は首を振る。



「ううん。イルマくんが謝る事は何もない。私、こそ、初めてで……。なんとお礼を言ったらいいか……、ありがとう」



 ペコリと頭を下げて笑う彼女を見ると、また胸が締め付けられた。



「あ、あの……!」



 それじゃあ、と午後の授業へ向かおうとする彼女へ次こそは役に立って見せると意気込もうとしたが、先ほどの光景が頭をよぎり、それはどうにも言葉に出来ない。



「友達! で、いいよね? 僕とサヤマさん……! 友達……、友達になろうよ!」



 代わりに振り絞った言葉は何とも頼りなく、とても子供じみたものだった。



「……ありがとう。イルマくんが良ければ、私の方、こそ、お願いします」



 再びペコリと頭を下げて、ぱたぱたと走り去る彼女の背中を見送り僕も教室を後にした。クラスメイトになって2週間が経とうとしていたが、成り行きとは言え、まさか友達になるとは思わなかった。



 (次こそはきっと、最後まで逃げずに戦って見せるよ)



 小さくて大人しい、けれどとても勇気のある友人に心の中で僕は誓った。

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