第2話その6 『君よ何を望む』
『権力行使』の合図を聞き振り返った時には既に遅く、ガリレイの手はイルマの胸元にそっと触れられていた。
しかしケプラから「心配せんでええよ。攻撃やないから」と念を押されたのでイルマは緊張の姿勢を解く。
「いやー、すまんね。これでもガリィちゃん先輩めっちゃ我慢しとったんや。実を言うとね、ガリィちゃん先輩って自分が"知りたい"って思った時にはすぐ『権力』を振り飾すねん。たださっきは事態が事態やったから先輩には抑えて貰ってたけど、場所を移して限界が来たんやね。ちょっち驚かす事になっちゃったけど堪忍な」
「え、ええ。こちらこそすみません。危うく反撃する所でした」
「ははは。まぁ、今日初めて『権力』にやられてんやからそうなるわ。ちなみにガリィちゃん先輩がマジで我慢してくれなかったら、彼ら瞬殺されてひどい事になってたで。風紀委員会のかわい子ちゃん達」
「瞬殺……」
瞬殺ってどれ程凄いのだろうか。
先程、イルマはサメジマと戦った。彼も4つ星であったが、サッカーゴールを容易く振り回し、投げ飛ばし、その異次元的な力から繰り出される攻撃も凄まじく、その気になれば、一般人なら簡単に全身を砕かれる事間違いない。そして速さも兼ね備えていた。それと同等の星を持つニ人を瞬殺……。考えるだけで恐ろしい。
「おいおい、それじゃまるでボクが暴力的な野蛮人だと言われてるみたいじゃないか。ボクはそんな事しないよ。ただ、彼らが食い下がる様ならボクも退かないだけだけど」
権力行使が終わったらしく、ガリレイは椅子に腰をかける。
「……それに、イルマくん。君もサメジマくんを一撃で沈めたじゃあないか。実に面白いよ。名は『天命』と言ったかな」
"君も"という事はやはり間違いないらしい。
さ、座って座って。とケプラから手招きされたので、イルマとサヤマもソファーに腰をかけた。
「結論から話すけど、君の『死兆星』と『天命』についてはボクの『知る権利』を使っても情報を得る事が出来なかった。こんなの初めてだよ」
「マジっすか先輩……。コイツァすげー、やでホンマに……」
二人は真剣な眼差しと、とても驚いた顔をイルマへ向ける。
「まずボクの『知る権利』について話をさせて貰うとね、端的にいえば"触れた対象の情報"をボクが得られるという物になっているんだ。今回の場合は君の『死兆星』と『天命』について知りたいと思って触らせて戴いた訳なんだけど。何も情報を得る事が出来なかったって、ね」
「ちなみに先輩の凄い所はそこで終わるんやないで? 知り得た情報もまた先輩の力、つまりは『権力』となって使役させられるっちゅー訳や。凄いやろ」
ケプラは自慢げに口を挟んだ。
「す、凄い、なんてものじゃないですよ……。だってそれは正しくこの学園を全て知る、"学園を知る者"って言われる所以って事じゃないですか」
あまりの力の大きさに愕然とするほか無かった。
────────この学園に存在する『星』と言うのもが特別な力を宿している事は既知の通りであるが、その数、つまり階級によっても効果範囲は変わってくる。
『4つ星』は個人に、『5つ星』は一部屋に、『6つ星』は建物に、と、それぞれの階級で効果が及ぶ範囲があると、それは一般生徒達も知っている。合わせて使役者によって『指定領域』が異なる、という事も。
『指定領域』とは、これまでであればサメジマの場合は"海"、ガリレイの場合は"知"という様にそれに準ずる形で何かが実体化する、何かに影響を及ぼす物である。
「指定領域が判明するのは4つ星の権力を使役する者に、つまり『権力者』になってから。また、"個人個人によって違う物である"、やろ」
「え、えぇ……。それが絶対的な規則、ルールだと思ってました」
そうだ。だからこそ、この学園に住む生徒達はそれぞれの指定領域を元にそれに合う『委員会』に選ばれたり、そこへ新しく入会したりと、一つの明確な標となっているのだ。
その中でより優れている者が『委員長』となる事も。
故に"個人を表す" 。誰が見ても明らかで確実な物だから。
「そんな巨大な力をガリレイ先輩は一人で全てを……」
サヤマも息を飲んだ。
ガリレイの見た目は平均に届かない自分よりもさらに一回り小さく、18歳になる見た目とは到底見られないもので、小学生と言われてもわからない程であるから。
その小さな体に一体どれ程の力が納められてるのだろうか。とても気になる。
「……えっと話が脱線したね。すまないすまない。さて本題に入りたいと思う」
咳払いを一つ挟んで、ガリレイは言葉を投げかけた。
その視線は先ほどより強く、とても真剣な物で……。
「……イルマくん、君はどうしたい?」