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第1話その2 『踏み出した1歩』

「昼飯買って来いって言ったんだろオラァ!」


 激しい怒号と共に、机が蹴られた。


「……なんだよその目は、なんか文句あんのかぁ!?」


「おいおい1つ星ちゃまが4つ星様に逆らったちゃうんですかぁ???」


「キャハハ、ウケるー! それとも何? お口もごもごさせて、何か言いたい事でもあるんでちゅかー?」



 音の主はサメジマと、その取り巻きにヒダカとタチカワ。このクラスに巣食う不良グループだ。



 奴らの言う『星』とは、アマノガワ学園への入学時に個々に授かる物で、また、星の所持数とは階級(ランク)とも扱われている。



 階級(ランク)は1つ星から始まり、最大は学園にたった一人だけいる7つ星。



 入学したての僕らにはその時点までの学力や基礎身体能力を参考にして配られているらしく、初めは1つか2つの星が与えられるのが基本らしい。



 しかしながらサメジマは、入学時に1年では最高星とされる4つ星を与えられた。



 彼はそれをいい事に傍若無人な態度を見せ、その言動ゆえに入学早々に問題児として注目を浴び、同級生の多くは彼を恐れる。



「だ、だから、その……お金、足りません。わ、私、今日は自分の分だけで精一杯で……。い、行けって言うなら、サメジマくんの分のお金、も……」



 そんな不良どもに囲われて震えながらも精一杯に自分の意見を口にしたのはサヤマさん。


 小柄でおとなしい彼女は日常的に不良グループの標的にされ、使いっ走りとして扱われている。



「ナマ言ってんじゃねぇぞボケ。てめーが我慢して俺の分を買えばいいだろうが。わかったらとっとと買って来いや」



 また机が蹴られ、彼女はしぶしぶ立ち上がり教室を後にした。



「ダッシュだぞダッシュ! 5分で買ってこなきゃわかってんだろうなー!!!」




 走りゆくサヤマの背中をサメジマの恐喝だけが押す。




「んじゃ5分後ね〜、私ちょっとトイレ」


「んじゃ俺もちょっち昼寝しますわ〜」


「ケッ!」



 不良グループが散り散りになったので、僕もその流れに続くように静かに教室から出て購買へ向かう……。







「サヤマさん────」



 購買で買い物を済ませ、教室へ戻ろうとする彼女に声をかけた。



「これ、よかったら使ってよ。サヤマさんお昼食べられなくなっちゃったでしょ? 少ないだろうけど、少しでもこれで何か買いなよ」



 あんな奴らに従わされて彼女がお昼を食べられなくなるなんて、そんな景色をここ数日と見てきたが、僕はついに耐えられなかった。



「で、でもこれ、私、返せない。それに、イルマくんの分は……?」

「いいんだよサヤマさん。返金なんていらないよ。これは、ほら、少しばかりのシエン……支援(しえん)だよ。いつも見てるだけだから、今日だけはこれを受け取ってよ。陰ながらに支えるからさ」



────そう、私怨(しえん)。これは陰ながらの対抗だ。



 暴力的な奴らへの自分なりの抵抗だ。お前らの命令なんかに従っているだけではないぞ、と。



 表に立てない者の抵抗だ。



 本来なら彼女が絡まれている時に声をかけ、助けに入るのが一番なのだろう。だけれども、その後を考えると、どうしても体が動かなかった。



「……ありがとう。ごめんね」



 周りの声にかき消されそうなほどに小さく、しかし透き通る声が僕の耳には確かに届いた。



「え? ああ……、うん」



 思わず面食らった。



 なぜ彼女が謝らなければならないのだろう、と。


 むしろ謝るべきは僕の方だ。



 いつもその光景を見ているだけで何もしない。それどころか内心では『どうかこちらへ意識が向かないように』、と願いを込めて気配を殺すばかりだ。



 しかし彼女はどうだろう。最後には言いなりになってしまうが、それでも彼女は自分の意見をしっかりと面と向かって奴らに述べている。



「なにが陰ながらに支えるからさ、だよ。馬鹿馬鹿しい……」



 彼女の強さを知って、改めて自分の弱さ、卑怯さを痛感し、自分のことが恥ずかしくなった。



 教室へ走る彼女の背中を見て、次こそは助けに入ろうと心に誓う……。

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