第四話
「……ん、んあ……。あ、あん……うあ」
早川の喘ぎ声が聞こえる。ちょっと大袈裟だなと思いながら、それに興奮したフリした。
* * *
お互い全裸になった後は、いつものようにスムーズにことが進んで行った。
終わった後、火照った身体を冷やすために、俺はシャワーを借りることにした。
カビの生えまくった風呂のドアを開ける。すると、同じくカビの生えまくった風呂場の壁が目に入った。
若干の嫌悪を覚えながらも、特に何も言わずにシャワーを浴びる。冷水にしてやろうかと思ったが、さすがに寒いな、と思い温水に変える。
「……あ? 出ない……」
温水が出なかった。風呂の電源が付いていないのか、と思ったが、そもそもそんなものはなく、ただただ給湯が機能していないだけだった。
俺はシャワーを浴びながら、早川のことを考える。
早川は大学3回生の姉と二人でここに暮らしているらしい。だが、早川の姉は滅多に帰ることはなく、ほとんど一人暮らしの状態らしい。ちなみに妊娠しているとのことだ。
姉との二人暮らしという時点で、もう予想がついただろうが、早川に両親はいない。数年前に亡くなったらしい。
早川も大変だなと少しは、人の気持ちが分からない俺でも思う。彼女のバイトで稼ぐことのできるお金では、まともに家賃すら払えないのだ。
今は貯金を崩してなんとか暮らしているそうだ。それに対して俺が、なんとかしてあげたい、なんて思うことはなかった。そんな義理、俺には無いのだから。それに人を一人養えるほどの経済力なんて、早川と同様に俺にも無い。
五分ほどシャワーを浴び続け、俺は脱衣所へと出た。早川からバスタオルを借りて、着てきた下着を身につける。
俺はすぐにここに来たときと同じ格好になった。
部屋に戻ると、早川はまだ全裸のままベッドの上で体育座りをしていた。幾度となく見てきた身体。この状態では、何も感じなくなってしまった。
「早川? 何やってんだよ。服着たら?」
早川は顔を上げ、こちらを向いた。
「うん……。あ、今日ごめんね? 毛、剃ってなかった」
「……別に俺は早川の彼氏じゃないし、そんなの気にしなくていい。俺だってすね毛生えてるし」
「すねはあんまり関係ないよね」
早川とひとしきり雑談した後、俺はバッグを持って、その場をあとにした。時刻は八時。いつもより遅い時間だった。
「また来るね、早川。早いうちに」
俺は誰もいないマンションの外壁に向かって、そう言った。
そうして俺は傘をさして歩き出したのだった。