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第二十話

 廃人になるのはどういう人のことを言うのか、考えたことがある。単純に能力の低い人だ。すなわち才能の無い人。


 努力は必ず報われる、なんて言葉は成功者の意見でしかない。それにこの言葉は、失礼に値するとは思わないのだろうか。


 プロ野球のドラフト会議で指名漏れした選手は、努力をしていなかったと言っているのか。将棋の奨励会でプロになれなかった人は、努力をしていなかったとでも言うのだろうか。


 誰だよ、努力は必ず報われる、なんて言い出した人は。

 努力するのにも才能が必要ならば、俺のような凡人はどうすればいいのだろうか。


* * *


「武藤、ドンマイ」


 俺は笠原や早川の言動を忘れようと、武藤をイジリに行く。 


 いつもはクラスの女子たちと休み時間はぺちゃくちゃ楽しそうに話している武藤。今日の休み時間は珍しく、誰とも喋らずにただただ前の時間の数学のノートだけを見つめて、何やら考えていた。


「……青野か。……まさかそれだけ言いに来たんじゃないだろうな」


「よく分かったな。そのまさかだ」


 俺が少し笑いながら言う。すると武藤は、肩を震わせながら、余裕でブチギレた。武藤の熱気を直に食らう。


「……お前ふざけんな……!」


 そう、ハスキーボイスで言った武藤は、立ち上がり、俺の胸ぐらを掴んだ。身長は俺と同じくらいなんだなと、呑気なことを考えていたが……。

 

 ———教室内の喧騒が、一瞬消え去った。そして俺の前方からゴツい拳が飛んでくる。


 ええええ!? 

 殴られるのか……。


「———ッ。ちっ」


 その拳は、俺の目の前で寸止め。俺の驚いたような変顔だけが、その場に取り残された。

 

「あーおの! 何武藤煽ってんの? 武藤は私がなんとかしとくからさ、昼ご飯食べに行こ。———武藤? 明日、一緒に下校しようよ。ね?」


 笠原の行為は、自分のことを好きでいてくれていると確実に分かっているからこそできたものだった。

 

「そうか、笠原、明日下駄箱で待ってる!」


 一気に機嫌を取り戻し、テンションが上がった武藤は、俺に煽られたこともすっかり忘れて、机の上に弁当を広げ始める。

 武藤は、笠原が俺を昼食に誘ったのを、聞いていなかったんだろうか。


「青野、中庭行こうよ。早川さんも誘ってさ」


 笠原は可愛らしい笑顔を俺に向けて、言ってきた。そんな笑顔は、お前のことを好きでいてくれる、武藤に向けるべきなんじゃないか? と、思った。


 それだけ言った笠原は、教室の一番端っこに位置する早川の座席に向かい、右手に持った自分の弁当を早川に見せて、それはまた別種の笑顔で誘っていた。


 しばらくすると、早川は自分の弁当をリュックから取り出して、立ち上がった。


 笠原は、俺や早川と違って、高校生をする才能があるんだろうな、と思った。


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