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第十二話

 それから五分。俺は早川の隣に並び、武藤と笠原の騒がしい会話を、聞き流している。


 そこで、そっと早川が口を開いた。


「和人くん。笠原さんは、武藤くんと本当に付き合うのかな」


「……さぁね。正直言って、どうでもいいかな。武藤のことなんて何にも知らない。告白が成功しても自分のことのように喜べるわけじゃないし、失敗しても一緒に落ち込んで、武藤を慰めてやることもできる自信はどこにも無いよ」


「私は、応援するかなー。確かにどうでもいいっていうのはあるんだけど、笠原さんのキャラ的に応援したくなっちゃう」


 まるで笠原が、武藤と付き合うのが決まっているかのような口振りだった。


「武藤は、笠原の何を好きになったんだろ」


 俺がふと、そんな疑問を口にする。


「可愛いところじゃない? あとは派手なとことか? 雰囲気だけでモテる人もいるんだし、どんな理由でもおかしくないよ」


「早川は人を好きになった経験、あるの?」


「……無い、よ」


 迷った様子だったが、最終的にでた答えはそれだった。


「ふーん、俺もだよ。人を好きになったことも無いし、嫌いになったことも無い」


 基本的に人と関わろうとしなかったから、そもそも身近に人間が少ない。学校なら、早川と笠原くらいだ、毎日顔を見るのは。


 その他、俺にとってモブである人間どもは、俺の眼中にすらない。出来るだけ、視界に入ってこないようになっているのかもしれない。


 俺の防衛本能だ。人と関わっていても碌な事が起きないと、事前に察知している。


「……私は———嫌いになったことしか、ないなぁ」


 あぁ、そうか。

 

 俺は早川に同情なんてしない。そんなの、本当に可哀想な人にすることだから。

 早川は今、しっかり生きているんだし。


「———武藤たち、ごめん!」


 武藤と笠原越しに、園中がこちらに走ってきているのが見える。

 集合時間をすでに二分ほど過ぎていた。


「おい園中おせぇぞ。笠原を待たせんなよ」


 武藤が軽く、少し笑いながら言った。


「ああ、悪い。ごめん笠原。寝坊した」


「お前むっちゃ寝るんだな」


「健康に気を使ってるから」


「遅刻したら意味ねぇだろ」


 そう言った武藤は、行こうぜ、と呟いた後視線を笠原に移し、改札を指差した。

 それを見て、俺は財布を取り出す。


* * *


「早川、どのくらい時間かかるの?」


 ガタンゴトン、ガタンゴトン。

 一定のリズムで揺れる電車。その中で俺たち五人は、吊り革につかまっている。車内は冷房がよくきいていて、快適だった。


「正確なことは分からないけど……あと、三駅くらいじゃないかな? 何分かは、ちょっと今分かんない」


「そっか。ありがと。あ、早川。武藤と笠原のことを見てられなくなったら、俺に言えよ? 一緒に帰ってやるから」


「……どういうこと?」


「だから、武藤がチキってたらってこと」


 俺がそう言うと、早川は少し間を置いて、


「和人くんは、笠原さんと武藤くんが、付き合えばいいと思ってるんだね。……私とおんなじだ」


 早川は電車の窓の外を眺めながら、儚げな顔で言ったのだった。

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