見失った男
男の物語は、決して複雑なものではなかった。
只、踏み入れてはいけない場所に
足を踏み入れた様なあの感覚は、
何時迄も男の心に灰色の影を落としていた。
男が座ったコーヒーショップの二階の席は
女性客しか居なかった。
男は、踊り場の掲示板に目をやった。
2F Woman と書かれていた。
慌てて荷物を一まとめにして
男は、一つ上のフロアへ移った。
気付かず飛び乗った電車の車両を思い出した。
帰り掛けに、もう一度二階のフロアを覗いてみた。
男性客がいた。
2F Woman と書かれた掲示板の横に
女性用Toilet があった。
男は、女性に囲まれると
冷静さを失う自分がいる事に気付いた。