第3話~主夫スキル、異世界で化ける~
ルカージュの状況などを聞いて考えがまとまった俊介は引き上げてもらった自分のスキルがどのくらいなのかを把握するために、力を開放する儀式を置こうなうことにした―
ちゅんちゅん
鳥のさえずりとともに俊介は異世界で初めての朝を迎える。
「…鳥のさえずりって、異世界でも同じなんだな」
差し込む朝日に目を細めながらそんなことをどうでも良いことを考えていたら、ふいにドアがノックされた。
「俊介様、起きてますか?」
「あぁ起きてるよ。ちょっと待ってね」
ミツキの呼びかけに応えながら手早く身支度を済ませる。
「お待たせ」
「俊介様、おはようございます。朝食の準備が整っています。」
「おはようミツキ。早いね。いつもこんな早くから活動しているの?」
もう少しゆっくりさせて欲しかったが、衣食住を提供されている身としては文句を言えない。
「そうですね。朝早くから動いた方が一日を有効に使えますから」
「ふふ」
「?どうしましたか?」
「いや異世界でも同じなんだなって思って。俺の世界でも朝早くから活動した方が一日を有効活用できるって考えで、早起きは三文の徳って言葉があるんだ。あぁ三文ていうのはお金のことね。」
「??俊介様の世界では朝早く起きるとお金がもらえるのですか?」
「いや早起きは大事だよってことを表す言葉なんだよ。昔の人が考えた言葉だから少しわかりにくいけど」
「そうなんですか。つまりどこの世界でも朝早く動くのは良いということですね」
「まぁそうだね」
寝起きで頭がまだフル回転していなかったとはいえ、もっとわかりやすいことを言うべきだったと後悔する俊介だった。
俊介はミツキに城の中を案内されながら食堂に着いた。
「勇者様、おはようございます」
「あぁルイス、おはよう」
ルイスに挨拶を返しながら俊介は呼び方が気になりルイスを凝視する。
「?何ですか?」
「いやルイスは名前では読んでくれないのかなって思ってさ」
「勇者様を名前で呼ぶなど府警も良いところです。順応して名前で呼んでいるミツキ様が異常なんですよ!」
「そういうもんかね…」
(多分ミツキが名前で呼んでいることが気に入らないんだろうけど、まぁここは引き下がるか)
「じゃあ食べようか?」
「そうしましょう!ちょっと準備手伝ってきます!」
ミツキはお腹が空いていたのか、準備に参加しテキパキ動いている。
準備が終わり俊介・ミツキ・ルイスで朝食を食べることに。
「そういえばミツキ」
「はい、なんでしょう?」
「俺の力を呼び覚ます儀式って朝食後すぐやるの?」
「そうですね…俊介様の力がどのくらいかを早く把握した方が今後の方針も立てやすくなるので早めが良いですが、準備にもう少し時間がかかるので儀式は夕方ころになると思います。。」
「わかった。俺はそれで問題ない」
(俺としてもさっさとどのくらいかを把握し、可能な限り早くに魔王と接触したいが仕方ない)
「わかりました。ではなるべく急いで準備します。」
「よろしくね。俺も自分に力があるなら、それがどのくらいか知りたいし」
「そうですね。きっと勇者に相応しい能力値だと思いますよ」
「だと良いけどね」
(女神様から色々と引き上げてもらってるから多分低いってことはないと思うけど、それでも単独で魔王に接触できるくらいには力があると良いんだけどな…)
そんなことを考えながら朝食を食べる俊介だった。
朝食後城の中を散策しながら時間を潰し、予定通り夕方に俊介の力を呼び覚ます儀式が行われることとなった。
「それでは勇者様、儀式を始めさせていただきます」
儀式を行うのはミツキとはまた別の女性だった。
「よろしくお願いします」
「では…始めさせていただきます!」
女性がそう言うとあたりの空気が変わった。
(何か空気がピリピリするな。魔力?が集まっているのかな?よくわからないけど)
「~~~」
よく聞き取れないが、女性が何か呪文のようなものを唱えている。
(うおっ!何か光が俺に集まってくる!すげー!)
俊介の興奮をよそに光はどんどん俊介に集まっていく。そして次の瞬間、光は俊介を中心に弾けた。
(何か派手なエフェクトだったな…)
そんなことを考えているとミツキが血相を変えて駆け寄ってきた。
「俊介様!こちらへ!能力値を測ることができる水晶があるので来て下さい!」
「そんなに慌ててどうしたんだ?ミツキ」
「先ほど凄い量の光が集まり、そして弾けたでしょう?普通ならあんな量の光が集まることも弾けることもないのです。この国で一番強い父・国王ですら、少量の光が集まり身体が少し光って終わりだったのです。それがあんな風に…おそらく俊介様のお力は想像を絶するものだと思います!」
「そ、そうなんだ。じゃあ測るのが楽しみだね」
(まぁ女神様に問題解決のためにって、かなり力を引き上げてもらったしな。逆にそのくらいでないと問題解決できないし、ちょうど良い。これで魔王に単身会いに行けそうだな。とはいえ魔王の住んでいる場所もわからんから、その辺は後でミツキに聞くか…)
俊介は既に魔王に会いに行く算段を立て始めた。そうこうしているうちに水晶のある部屋に着いた。
「さあ俊介様!水晶に手をかざしてみて下さい!」
大興奮のミツキに言われるままに俊介は水晶に手をかざす。すると―
バキッ!!!バキバキッ!!!
物凄い音を立てながら水晶が壊れた。
「えーっと…これどういう結果なのかな?測定不能とかそんな感じ?」
「…俊介様」
「は、はい!」
ミツキの声が先ほどまでと違い、思わず敬語で返事をする俊介。
「…俊介様!貴方様はやはり勇者様です!」
ミツキはそう言いながら俊介に抱き着く。
「へ?」
ミツキの予想外の行動に、俊介は思わず変な声を出してしまった。
「俊介様。この水晶は今まで一度も壊れたことがありません!同じものがいくつか存在しますが、あの歴代最強の魔王様ですら壊れるには至らなかったのです!おっしゃる通り測定不能ですが、覚醒した俊介様は間違いなく現在のルカージュにおいて最強です!これなら誰も聞き出せなかった魔王様が変わられた理由も聞き出せるかもしれません!!」
大興奮のミツキはそう言いながら俊介を抱きしめる腕により力を入れてきた。
(あ~…女の子に抱き着かれるのはこの上なく嬉しいんだけど、俺には愛する妻と子ども達がいるんだ。すまんなミツキ。それにしても主夫業で磨いたスキルがこんな形で役に立つとはな…とはいえ引き上げ過ぎだろう女神様。これじゃあ悪目立ちして動きにくくなるかもしれないぞ…)
そんなことを考えている俊介だが、実際には抱き返そうとする腕を抑えるのに必死である…
「ミ、ミツキ!若い女の子がそう簡単に男に抱き着くじゃありません!」
そう言ってミツキを引きはがす俊介だが―
「わ、わたしは俊介様なら別に…」
(うがぁー!頬を赤らめながら上目使いでこっちを見るんじゃない!大抵の男はそれで落ちるぞ!頼むからこれ以上俺の煩悩を刺激しないでくれー!!!)
ミツキの乙女な反応に心を激しくかき回されていると、音を聞きつけたルイスが飛んできた。
「ミツキ様!勇者様!何事ですか!?」
(助かった~…ルイスが来なかったらヤバかったかも…)
「俺の力を測定したら水晶が壊れてしまってさ…」
平静を装いながらルイスに説明する俊介。
「水晶が…壊れた!?それは本当ですか!?」
「本当よルイス。俊介様はやはり勇者様だったのよ!これでルカージュは救われるわ!」
「何と!?では今後の方針を急ぎ会議しましょう!」
(いやその前に魔王に会いに行きたいんだよ俺は!…そうだ!)
「いやルイス。俺はまだ力に目覚めたばかりで、力を全然上手く扱えない。というか使い方がわからない。どれだけ凄い力があっても使えなければ意味はない。だから今後のことを考える前に力の制御とか戦い方を学びたいんだが、どうだろう?」
(勝手に話が進んで流れを制御できなくなっても面倒だから、事態が動く前にさっさと魔王に会いに行こう。)
自分の今後の方針を改めて決めた俊介。するとミツキが声をかけてきた。
「そうですね!では覚醒したてでお疲れでしょうから、今日はゆっくり休んで明日から特訓を始めましょうか?」
「あぁ、そうしてもらえるとありがたい」
「ではそのように。ルイス準備をお願い」
「わかりました」
「では俊介様、お部屋までご案内します」
ミツキはそう言って部屋を出ようとしたので俊介は呼び止めた。
「…ミツキ」
ルイス含め複数いた神官たちが部屋を出ていくのを見計らい、俊介はミツキに声をかけた。
「はい?何でしょう俊介様?」
「実は折り入って大事な話がある。誰にも聞かれたくないから俺の部屋で話そう」
魔王のいる場所を聞き出したく、俊介はミツキを部屋に誘った。それが傍からどう見えるかまでは考えずに…
「!!!わ、わかりました。俊介様が望むなら、私は…」
ミツキは恥じらっているが、そんな気が全くない俊介は気が付かない。
「ん?うん、じゃあ行こうか」
返事が変だったので不審に思ったが、特に聞き返すこともなく、俊介はミツキを連れて部屋に戻ることにした。
「は、はいぃ…」
ミツキは期待と不安が半々というような表情で俊介の後をついていくのだった―
俊介の部屋に着いた二人はそれぞれイスに腰掛ける。
誘った時には気が付かなかった俊介だが、ミツキの様子がおかしいのでミツキを部屋に誘った意味にようやく気が付いた。
(魔王のことがききたいのと誰にも聞かれたくないのを満たせるのが俺の部屋だったからなんだけど、ミツキには変な誤解をさせてしまったな…)
もじもじしているミツキを眺めながら、どうするかを必死に考える俊介。
(…とりあえず誤解を解くか)
「…ミツキ」
「ひゃいっ!」
(完全に誤解しているな。これはさっさと解かないと恥をかかせることになりかねないな…)
「ミツキ、君を部屋に呼んだ理由なのだが…」
「…」
ミツキは期待と不安の入り混じった眼差しで俊介を見返している。
「その…実は聞きたいことがあってだな…」
「…」
変わらず見返してくるミツキ。
「実は魔王のことについて聞きたいんだ!」
俊介も良く分からなくなり語尾を荒げてしまった。
「…」
それを聞いたミツキはしばらくポカーンとしていたが、ふと我に返り俊介に聞き返してきた。
「あの…俊介様、私を部屋に誘ったのは…その…夜伽の相手をさせるためではないのですか?」
ミツキは恐る恐る俊介に聞く。
「あぁ…違う」
「…俊介様」
ミツキの声のトーンが格段に下がった。
「はい」
またも敬語で返事をする俊介。
「俊介様の世界ではどうだかわかりませんが、ルカージュでは夜に男性が女性を部屋に誘うのはそういう目的のためがほとんどです。だから私も当然そうだと思いました。もっとも嫌ではなかったのでお受けしたのですが…」
「はい、すみません…」
「はぁ~…それで魔王様のことで聞きたいこととは何ですか?」
ため息交じりにミツキが聞いてきた。
「実は魔王のいる場所を教えて欲しいんだ。俺の力が規格外だとわかった瞬間に思い付いたのだが、この戦争を終わらせるカギはやはり魔王だと思う。だから力ずくででも魔王から理由を聞き出そうと思ってさ。」
「何故魔王様の場所を急いで聞きたいのですか?」
「…単独で魔王と接触しようと思うからだ」
「!!!危険です!確かに俊介様は規格外の力の持ち主です。でも無敵というわけではありません。戦場では相手といくら圧倒的な力量差があっても、相手の方がはるかに経験が多いと負ける時は負けます。それに俊介様は今日力に目覚めたばかりです。経験値で言えばこの世界の誰よりも低いことになります。そんな状態で単身で魔王様に会いに行くなど…!」
「危険なのはわかっている。でも俺はいかなくてはならない」
「何故ですか!?」
「それは魔王が何故乱心したのかの理由が俺には分かったからだ。」
「!どういうことですか!?」
「不確かだからまだ言えない。でも多分間違いない。だから魔王に答え合わせをしに行きたいんだ。話がスムーズに進めばそれで戦争が終結することにもなるだろうし」
「…では私も行きます」
「は?」
「私も行くと言ったのです!俊介様を1人で行かせるわけにはいきません!でも俊介様の考えが正しければ確かに戦争が終結することになるでしょう。ですから私も付いていきます」
「…危険だと言ったのはミツキだぞ?」
「ふふん。この世界で俊介様の横より安全な場所はありませんよ」
「なら俺一人で行っても良いのでは…?」
「一緒に行くことを了承しないと魔王様の居場所を教えませんよ?城の者達にも教えないように指示を出しますし、いくら勇者様と言っても王女より指揮系統は低いですからね」
「…はぁ~わかったわかった。連れてくよ」
問答無用で論破することも可能だが、俊介は降参した。
「ふふ。道案内はお任せ下さい」
「ミツキはもっとおっとりした子だと思ったんだけどな」
「女は色々と画しているものですよ」
「はいはい」
ミツキを連れて魔王の元へ行くことが決定した。
「…ところで俊介様」
「ん?」
「先ほどの夜に部屋に誘うことについてなのですが」
「いやだからあれは」
「いえ俊介様に悪気がなかったのはわかりました。ですが私の心を振り回した責任は取ってもらいます」
「…例えばどんなことでしょう?」
「行為はしていただかなくても良いですので一緒に寝かせて下さい」
「はいぃ!?仮にも王女が男の部屋で寝るなど…」
「大丈夫です。王女の役目の一つに、より強くより賢い子を産むという役目があります。力が覚醒しルカージュ最強になった俊介様が相手なら誰も文句は言いません!」
俊介が話しきらないうちにミツキが言葉を被せてきた。
「いや文句は言わないって…ミツキはそれで良いのか?自分の人生だぞ。そういうのは好きになった相手とするものだ。ミツキはまだ若い。俺みたいなおっさんじゃなく、これからいくらでもそういう相手が見つかるだろう」
「御心配には及びません。私俊介様のこと最初見た時から惹かれていましたから。だから部屋に誘われたときもOKしたのです。まぁ意味は全然違いましたけど?」
「…俺も男だから女の子、それもミツキクラスの美少女に迫られて悪い気はしない。いやむしろ嬉しい。何なら手を出したい!…でも俺には元の世界に家族がいるんだ。愛する妻と子供が。愛する家族を裏切ることは俺にはできない」
「戦争を終結させルカージュに平和をもたらした暁には俊介様を元の時間軸に送り届けることもできます。またこの世界にご家族の目は届きません。そして…目の前にはスキにして良いという女の子がいます」
「それでも、だ。家族は裏切れない」
「男性はその…したくなるのでしょう?でしたらその相手に私をお使い下さい。」
「…何故そこまで俺なんかに執着するんだ?」
「これから魔王様のところまで行き、その後も色々と一緒に行動すると思います。今でこれだけ好きなのですから、今後ますます思いは強くなると思います」
「…」
ミツキの話を真剣に聞く俊介。
「でも…俊介様はいずれ私を置いて元の世界に帰ってしまわれる。だからせめて貴方がいた証が欲しいと思ったのです。貴方との子供が」
「…ミツキ」
「…なんて、すみません。こんなことを言ったら俊介様が困ることは重々承知しています。申し訳ありません。忘れて下さい!」
そこまで言うとミツキは勢いよく立ち上がり、部屋を出て行こうとする。
「ミツキ!」
俊介は思わずミツキを抱きしめる。
「離して下さい、俊介様。応える気がないのなら優しくしないで下さい!」
ミツキは大音量で叫ぶ。
「俺は家族が大事だ!」
そんなミツキを俊介はさらなる音量で遮る。
「っ!」
ミツキは涙を流す。
「でも…ミツキも大事だ。確かにまだ会ってから間もない。それでもミツキがどれだけヨイ子かはわかっているつもりだ。そしてこんな俺に全力で思いをぶつけてくれていることも…わかっている。だから今すぐは応えられない。そしてこの先も応えてあげられるかはわからない。それでも良いと言うのなら…傍に居てくれ」
「ふっ!うぅ!」
俊介の言葉を聞き、ミツキはボロボロと涙を流した。
ミツキが泣き止んで落ち着くまで俊介はずっとミツキを抱きしめていた。
「…俊介様」
「なんだ?」
「俊介様って…ズルいです」
「わかってる」
「でも…私の思いをきちんと受け止め誤魔化さず、適当なことを言って私を抱くこともなく、正直な言葉で答えてくれました。だから…ズルいけど、ますます好きになってしまいました」
「すまない、ありがとう」
「…俊介様」
「ん?」
「何もしないので、今夜は一緒に寝ても良いですか?」
「それは本来男が言うセリフだと思うがな…わかった良いよ。でも何もしないよ?」
「はい!大丈夫です!今日はそこまで望みません!」
「うんうんわかってくれてありが…今日は!?」
「はい!いつか手を出させてみせます!」
「…俺もしかして…ミツキの心を燃え上がらせてしまった感じ?」
「そうですね」
「マジか…」
「覚悟しててくださいね!」
俊介の真摯な態度が逆にミツキの心に火をつけてしまったようだった―