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逆保険外交員(三十と一夜の短篇第41回)

作者: 錫 蒔隆

 逆保険外交員の仕事は、無能者には務まらない。スペシャリストであることとゼネラリストであることを、併わせて要求される。営業と工作と回収をこなし、収支計算と顧客管理を運用する。兵隊にして参謀、けれど部下はない。タクティクスとストラテジーを、きちんと理解していなければならない。

 逆保険とは文字どおり、既存の生命保険と逆のことをおこなう。契約者に掛金を支給し、傷病入院時と死亡時に倍々額を回収する。既存の保険と同様、少額から高額までいくつかのプランがある。

 傷病は運不運だが、生物は必ず死ぬ。そこで回収する。契約者本人の死後、その遺族から取りたてる。子孫代々にわたる負債。回収の困難そうな契約者をつくらない。そこの見きわめが肝要である。

 逆保険外交員とギャンブラーは似ている。完全な歩合制、回収するまでは無給。契約を取ってきた時点では、社に損害しかあたえていない。回収して初めて、利益が出る。月々の掛金は、いわば撒き餌。回収のための布石。

 契約者が怪我したり病気にかかったり、そして死ぬまでを座して待つようなことはしない。契約者を入院させ、死なせるための工作をおこなう。「それ」とわかるような方法で「それ」を行使するのは、三流やペーペーのやることである。「それ」とわからぬように装い、「それ」をなす。うまく工作したあとに、きちんと回収しなければならない。いくら営業と工作がうまくできても、きちんとした回収ができなければ一流の外交員にはなれない。

 回収した金額の半分が、外交員報酬の相場である。実績によって、インセンティブが上がる。巧く汚くやれれば、年一億円プレイヤーになれる。私にはその意志も能力もない。そこそこにやれて、日々を暮らせればそれでいい。

 私とて、好きでこの仕事をしているわけではない。誰が好きこのんで、こんな仕事に就くものか。両親が契約者でなかったら、私にはもっと別の人生がひらけていたはずだ。父母の負債のために私は私ではなく、会社の所有物として生きていくしかなかった。その負債に、強制入学させられた外交員養成学校二年ぶんの学費が上乗せされる。強制契約させられる逆保険の掛金は、返済のために呑まれつづける。同時に既存の生命保険に加入させられ、死亡時の金は担保される。死んでも負債は解消されない。強制結婚させれらた債務者の子の、そのあいだに生まれた子がそれを継承する。死んでも会社の所有物でしかない。生ける会社が、死せるわれらを走らせつづける。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 逆の発想ですね。 てっきり営業部のエースたちが結んだ保険契約を片っ端から解約させる反逆のダークヒーローかと思ってました。 [一言] ノルマが人を殺すたびに「ノルマがなければ会社は成り立たな…
[良い点]  企業等で支給している奨学金のお礼奉公の類いを連想しましたが、もっと上手を行っていますね。  掛け金の回収ですかあ。これも一つの出資・投資とも言えますから、錫さんの発想の妙です。  商売に…
[一言] 僭越ながら。職安で求職中、保険外交員にスカウトされた時のことを思い出しました。無料でランチしてお話を聞くだけ、って聞いたお話の先が無理すぎてお断りしたのですが(とても怖いご飯で)あれはヤバイ…
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