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▽VS巨大亜竜

 

 ガレガレ火山中腹。

 雷雲唸る不穏な悪天候。熱風が肌を焼き、地響きが唸る。どこを見渡しても鮮やかな赤と無骨な黒の斑な景色が広がる、その名の通りの火山地帯。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 リーヴェレイドは流れる汗を拭い、槍を強く握りしめる。

 魔王城を抜け出したのが深夜、意気揚々この地に踏み込んだのが昼過ぎ。魔王軍の中将達と共に亜竜の群れを見つけたまではよかったが、すぐに想定外の事態に見舞われた。

 目標であった三百歳超えの亜竜、山頂近くの火口で発見したその亜竜は、他の亜竜とは比べ物にならない程に巨大で規格外の魔力を纏っていたのだ。マグマの海をものともせず、咆哮だけで侵入者を圧倒し、耐火に優れた鎧すら溶かす炎を操る。ここまでリーヴェレイドに同行していた中将達も敗走の中散り散りになり、リーヴェレイドは一人ひたすら山を下っていた。しかしガレガレ火山は裾が広くなだらかな火山。山ではあるものの傾斜はかなり緩やかで、火口も幾つも存在する。どこが山頂なのか、果たして今下れているのか、リーヴェレイドにはもう分からなかった。


『リーヴェレイド様は十分にお強いです。お手合わせした私が言うのですから間違いありません』

『亜竜を倒してリアン様を驚かせてやりましょう』

『そうすればリアン様もリーヴェレイド様の力を認めざるを得ないでしょう』

『リーヴェレイド様は次期魔王となられる御方。亜竜討伐なんて楽勝です』

『我らも同行致しますぞ。騎馬もお貸しします。勿論案内もさせて頂きましょう』


 リーヴェレイドは中将達の言葉に惹かれ、リアンの言い付けに背いた。例えそれがバレたとしても、亜竜を倒してしまえば問題ないだろうと、中将達の言葉に勇気付けられて。


「くそ……はぁ、何でいつも通りにならないんだ……!」


 リーヴェレイドは近付いてきた若い亜竜に向かって槍を穿つ。しかし炎を纏わせたはずの一撃は不発。リーヴェレイドは舌打ちして魔術を諦め、槍術だけでなんとかその亜竜を下した。


「よし、……はぁはぁ、段々暑くなってないか……?」


 一歩一歩地面を踏みしめ歩く。頭が熱に浮かされて、体は重だるい。魔力もまだ残っているはずだが、何故か言う事を聞かない。


 グググググォ……


 突然地面が揺れた。

 次いで唸るような地鳴りがリーヴェレイドを襲い、盛大に地面が弾けた。


「うぉ!?」


 ギリギリのところで爆発を回避したリーヴェレイドは、地面に転がりながら吹き上げたマグマを躱す。そして顔を上げ、音にならない悲鳴を上げた。


「ひっ……」

「グルルゥァ!!」


 目の前には巨大な亜竜。先程まで黒い溶岩だった地面はマグマ池と化し、悪夢のような黒を纏った化け物が顔を出していたのだ。


「ぁ、あ……」


 巨大な亜竜の魔圧が一瞬でその場を制す。完全に魔圧に飲まれたリーヴェレイドは、転んだまま立つことすら出来ず、ただ目を釘付けにされたようにその圧倒的存在を見上げた。手も足も、歯も震えた。その強大な生き物を目の前に、リーヴェレイドはどうしようもできなかった。


 亜竜はゆっくりとマグマから体を上げる。そして大きく顎を開いて、口腔へ、喉へ、腹へと魔力を集めはじめた。チラチラと舞う火の粉が幻想的に弾けて消えて、また舞って。最悪の予感がリーヴェレイドの脳裏をかすめる。


「ひっ……あ……ぁ……っ」


 ゆっくりと、亜竜の顎が閉じられる。そして、次の瞬間。大地諸共吹き飛ばさんと、豪快な衝撃が襲った。

 視界が赤く染まり、全ては灼熱に包まれる。

 その刹那、リーヴェレイドが目にしたのは、痛いほどに美しい白銀。


 ドォォオオォオン──


 亜竜の【息吹】はリーヴェレイドを襲うことなく阻まれた。彼を背に庇うように空から現れたリアンの結界によって。結界の外の地面のみが爆散し、亀裂から新たなマグマが流れ出る。


「兄上……っ!」


 爛々と燃え盛る周囲のマグマに照らされて、オオトリの背に騎乗したリアンの輪郭が浮かび上がる。リーヴェレイドは思わずその背に手を伸ばしたが、リアンはリーヴェレイドだけを囲うように結界を張り直し、空へと飛び立った。そして目の前の亜竜と相対する。


「……ゥルルルゥウ……?」

「いけるか、鳥」

「キェッ」


 オオトリは小さく鳴くと、亜竜の頭上へと羽ばたいた。リアンは手綱を握る左腕で数回その首を撫で摩り、右腕の大槍に魔力を込める。

 大きく旋回したオオトリは、リアンの手綱に従って急降下し、一直線に亜竜へ迫った。


「ガァア!!」


 亜竜の爪も牙も躱し、白銀の大槍はリアンの狙い通り喉の鱗を穿つ。マグマすら弾く堅硬な鱗が砕け、血が滲んだ。二度、三度とオオトリは亜竜スレスレに突撃し、リアンは槍を振るう。

 全盛期と比較すれば遥かに落ちたスピードと、それに付随する威力の低下。オオトリに騎乗しているせいで魔圧も抑えなくてはならず、上半身だけで穿つ槍では鋭さも出ない。その不自由さももどかしさも、リアンは何度嘆いた事か。

 復活後、動かなくなったリアンの両足。また動くと信じて行った治療も機能訓練も全て実を結ばず、ならばと始めたのがオオトリを使った戦闘訓練。だがそれも、リアンの納得できる結果にはならなかった。オオトリではリアンの全力の魔圧には耐えられず、鳥類随一と言われるスピードもリアンにとっては足りていないと思わずにいられない。どんなに訓練をしてもオオトリはリアンの要求するレベルに達することは出来なかった。終いにはどのオオトリも、リアンが近付くだけで怖がってしまうようになり、訓練の継続を断念。結局リアンはリーヴェレイドが生まれると同時に全ての戦闘訓練を止めた。


「ガァアァア!」


 リアンが大槍で穿つ度、白銀の光が弾け、亜竜の魔力を侵食する。亜竜は徐々に動きを鈍くし、混乱したように首を振り回し始めた。

 あと少しで決着もつくだろう。逃げ出せばそれで良し、向かって来たなら持久戦。リアンは一つ息を吐いて、槍を構え直す。

 そこに、もう一匹のオオトリが現れた。


「……シルバー?」

「私も混ぜて下さい」


 オオトリの背に立っていたのは、シルバー。大鎌を背負い、黒装束を纏った姿はまさしく処刑人。亜竜の頭上、シルバーはオオトリから飛び降りた。


「秘技、──首狩り」


 天空から落下する勢いのまま、シルバーは大鎌を振り下ろす。


「っ!馬鹿が!」


 リアンは焦ったように声を上げてオオトリに指示を出す。シルバーは気付いていなかった。今まさに、亜竜は【息吹】の発動直前だと。そして、魔力を纏わせただけの武器ではこの亜竜の鱗を切り裂く事は不可能だと。


「グォオォオオ!!」

「っ!?【風乗り】!」


 大鎌は鱗に弾かれ、シルバーは亜竜の背中を滑り落ちる。咄嗟に発動した【風乗り】で落下は免れたものの、飛び出した先の地面はマグマだ。

 リアンを乗せたオオトリは指示に従い、放たれた【息吹】のギリギリを掠めるように急降下する。そのまま【息吹】の余波に煽られバランスを崩したシルバーを足で掴み、リアンが大槍で亜竜の爪を弾いた衝撃を殺し、手綱で導かれるままに退避する。


「わっ!」

「へ?シ、シルバー?何でここに……?」


 リアンはオオトリにシルバーをリーヴェレイドのもとへ放らせると、再々度結界を張り直した。


「ま……待って下さい兄上!俺も戦います!出して下さい!」

「無理だ。お前達では相手にならない。リヴ、お前は今まともに魔術を使えないだろう。この地の魔力に流れを乱されているぞ。加えてどう見てもあの亜竜は耐火性が高い。お前が得意の火魔術が使えたとてほぼ無意味。シルバーお前も。魔術は使えるのかも知れんが、その対人用の大鎌ではあの鱗は破れない」


 ドォォオオォオン


「私が守る。だからそこにいてくれ」

「兄上!」

「リアン様……!」


【息吹】の余波の中へ、リアンは飛び出していった。


 縦横無尽に空を駆けるオオトリとリアン。亜竜の吐く息吹も炎も全て避けて弾いて着実に亜竜を追い詰めていく。白銀の大槍が放つ白銀の光が尾を引く様に残光を残し、高速で舞うリアンとオオトリの軌道を映し出した。


「【反射結界】」

「グゥゥルルルッ!」


 ドォォオオォオン


 派手な攻撃を仕掛ける亜竜に対して、リアンの反撃は防戦気味だった。なるべく地面を崩さないように意識された、背後の二人を守る為の立ち回りでもある。

 リーヴェレイドもシルバーも、リアンをただ見詰める事しかできなかった。


「……鳥、そろそろ仕掛ける。魔圧がキツいかも知れんが、耐えてくれ」

「キュルルィ!」

「良い返事だ」


 リアンが頼るのは、自分ではなくあのオオトリなのだと、リーヴェレイドは悔しさに歯を食いしばる。


「俺だって……」


 握りしめた槍に魔力を込めて、魔術を編んで。けれどそこに炎は現れなかった。リアンの言う『この地の魔力』は、魔力の制御が苦手な今のリーヴェレイドには到底卸せないもの。そう自覚し、また悔しくなる。

 シルバーもまた、同じようにリアンを見詰めていた。ただリーヴェレイドと違うのは、己の力不足を嘆くより先に、思うことがあった事。シルバーはおおよそ初めて体験する守られる(・・・・)という事態に小さくない衝撃を受けていた。その戸惑いを噛み砕くのに時間がかかっていたのだ。シルバーはいつでも戦う側であり、誰かを護る立場だった。これまでの処刑人人生において、誰かに背中を預けた事はおろか、守られた事なんて、シルバーには無い。今回だって、シルバーは二人を助けに来たつもりだった。戦うために来たはずだった。それが何故、透明な壁越しに、一人戦うリアンを見つめているのだろう。

 こんな事は初めてだった。シルバーは夢中でリアンを目で追う。彼は一体何を考えているのか。


「……分からない」


 シルバーは一人で何でもこなせる程優秀で、誰に頼ることなく、故に必然的に、孤独だった。




 一層白銀の輝きを増したリアンが、強く、強く、冷えた溶岩のような分厚い鱗を穿った。それは、言い換えるなら衝突だった。オオトリは先程までのように亜竜を躱すこと無くその巨体にリアンごと体当たりしたのだ。


「ギィォオオオオ!?」


 白銀色が大槍を通して亜竜の内部に侵入する。散々傷付けられた亜竜内部の魔力は、それが引き金となり暴走を起こした。

 亜竜はのた打ち回って荒れ狂う魔力に苦しむ。魔力制御が利かず、魔術を使うことも出来ない。深く穿たれたその傷を癒やすことも止血する事も出来ず、赤黒い血が白銀に滴った。

 どうみても戦闘不能。瀕死には至っていないが、亜竜はもう戦える状態ではなかった。


「よし、もういい、鳥。よく頑張った」

「キ、キァッ……!」


 リアンの魔圧でフラフラになりながらもオオトリは耐えきった。リアンがこのオオトリを選んだのは、以前の訓練で最後まで粘った個体を覚えていたからだ。帰ったらいつもよりいい餌を贈ろうと思いながら、リアンは白い飾り羽のオオトリを撫でた。


 首を地面に横たえマグマの中で藻掻く亜竜。勝負はついた。


 リアンがシルバーを乗せてきたオオトリを呼び寄せ、リーヴェレイドとシルバーのもとに向かおうとしたその時。




「グォオォオオォォォ!!」


 亜竜が天に吼えた。


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