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血深泥の再会

 


 リアンとミケ、ハーナ、ラメントの四人はグルムから指示書を受け取り、遊闘技場外周部で結界魔法陣の修復作業をしていた。グルムと眷属エトが書き出したそれは、昨夜また徹夜して制作したものらしい。

 リアン達がペタペタと順調に作業を進めているすぐ近くでは、亜竜の血の清掃やグラウンドの整地、観客席の修復などが行われている。

 その遊闘技場内部に黒いローブを羽織った二人の男が静かに現れた。彼らはゆっくりとリアン達の方へ近付いていく。

 それに気がついたミケは、さり気なくその二人の方を振り返った。その時、片方の男が突然ミケへと飛びかかってきた。


「えっ!?」

「コラおまっ」


 咄嗟にガードしたミケの腕に重い蹴りが炸裂した。


「いってぇッ……!」

「ミケさん!?」


 男は続いて反応してきたハーナの背後に回り込み、腰の短剣を拝借してから強く首を打って気絶させる。


「ハーナ!……ぐっ、ご主人!」


 シルバーの狙いの先にリアンがいる事に気が付いたミケが反射的にその間へ割り込んだ。しかしその刃がミケに届くより先に張られた結界がシルバーを弾いた。


「……なんの真似だ」

「【贄血】」


 リアンの言葉には答えず、シルバーは躊躇なく腕に短剣を突き立てた。


「おい!何やってんだシルバー!」

「引っ込んでろ!」


 シルバーを止めようとしたクロドを氷の壁で覆い時間を稼ぎ、血濡れた短剣を結界に突き立てた。幾重もの魔法陣が短剣に浮んでは消え浮んでは消え、結界に流れる魔力を揺さぶる。大量の魔力が眩い光となり、短剣へと注ぎ込まれていった。


「【破】!」


 キィイイン……


 魔力の揺らぎを上手く突かれ、結界は粉々に砕け散った。その余波が、シルバーの肌を撫でる。それは、あの時上空で感じた懐かしい魔力と同質のもの。


「ミケ、下がれ!」 


 背にラメントとミケを庇ったリアンに、シルバーは確信を持って、躊躇なく短剣を振り下ろした。


 グサッ……


「え……?」


 間の抜けたその声は、シルバーのものだった。十中八九結界に弾かれると思っていたその短剣は、深々と自走椅子の男の太腿に突き刺さっていたのだ。


「な、なんで、結界は……」


 滲んで広がるその赤色に、シルバーは激しく動揺した。リアンは常に自分自身に特殊な結界を張っている。生体を起点に展開するその結界は、普段は視認出来ず、常に発動しているはずのものだった。だが今震えるその手に、その結界を破った感覚も、触れた感覚もしなかった。

 血の気が引いて冷たくなったその手と突き刺さった短剣の柄を、白い手がまとめて掴む。男の白い眼がシルバーを貫いた。その目は、守護の魔王リアンの黒眼とは全く異質で。


「どういう思考でこの行動だ」

「っ、はっ……、はぁ、はぁ、はぁ」


 動悸が止まらない。膝が力を失い崩れ落ちた。


「答えよ」

「ぅ、ああ、俺はっ……、……すみません、ごめんなさい、申し訳無い……俺は、俺は……」


 また、選択を間違えたのかと。希望など無かったのかと。自分は何をしでかしたのかと。事態を理解出来ないまま、ただ衝動だけがシルバーに言葉を紡がせる。


「なぜ、なんで……分からない、……。あぁ、っはぁ、もう……俺は、駄目だ……」


 リアンならば、血など流さない。リアンならば、シルバーを無表情に見下したりしない。リアンならば、笑って弾いて受け止めてくれる。

 もしリアンでないならば。この白い男がリアンでないならば、シルバーの行動は人違いで人を刺すというただの愚行だ。


「……あぁ、もう…………死にたい……」


 仮死などではなく、永遠に。

 混乱した頭で、弾き出した答えがそれだった。





 リアンは目の前で跪いた、今にも死にそうな顔の男を見下ろす。リアンに短剣を突き立てたその男は、随分雰囲気が変わっているがリアンもよく知る男。シルバー・チェイン。驚いて動こうとするミケとラメントをリアンは手を上げて押し留め、その言葉に耳を傾ける。


「もう……死にたい」

「……」


 そして落とされた言葉。

 握った手は震え、目は焦点を結ばず、開いた口からは苦し気な呼吸音が吐き出されている。リアンは少し遠くで氷壁が破壊された音を聞いて、シルバーの手ごと短剣を握って抜き放った。途端に鮮血が飛び散ったが、魔力で強制的に止血し傷も塞げば大事ない。


「あ……っ」


 血を見て子供のように顔を歪ませたシルバーの耳元で、リアンは囁く。


「────」

「え……?」


 その言葉が薬のようにシルバーに入り込むと、合わなかった焦点が像を結び、眼前に無表情の白い魔族が写った。


「おいシルバー!なんて事を……!」


 追い付いたクロドは血に染まるリアンと立ち尽くし顔色を悪くするラメントやミケ、倒れたハーナを見て、焦ったようにシルバーの腕を掴む。


「……っ」

「大丈夫、ではないな、直ぐに病院へ……!」

「また貴方が原因ですか」


 リアンはクロドを冷たく睨み付ける。血で汚れた顔でそう言われしまえば、クロドは反論出来ない。シルバーがこんな行動をとるとは思っていなかったが、原因と言われればその通りなのだから。


「申し訳無い」

「それで済むと?」

「……本当に、申し訳無かった。謝罪になるのなら、出来る範囲で力を尽くそう。金銭でも、なんでも。この馬鹿にも改めて謝罪させる」

「では貴方の思う謝罪の気持ちを明日の明け方六時、宿に持って来て下さい。その粗暴者の謝罪などいりません。自分で刺しておいて血を見て怖がっていましたよ、正気ですらないのでは?貴方も、その妄想癖をそうそうに治した方がよろしい。私は治療のために帰りますので、グルムさんにそうお伝え下さい」


 リアンは怒りを顕にそう言いつのって、脚を庇うように押さえ顔を歪ませた。


「ミケ、ハーナを」

「あ、ああ」 


 ミケは気絶したハーナを背負い上げる。呆然としたシルバーと苦い顔のクロドに背を向け、リアンは遊闘技場を後にした。


久しぶりに感想を頂いてモチベが上がったので出来る所まで連日投稿してみようと思います。

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