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レジスタンス作戦会議

 


 低所得層地区のとある空き家。

 全てのカーテンが閉められたやや広く小洒落た広間に、暗色の全身ローブを纏った数十人の男女が集まっていた。

 その中心で顔を晒しているのは、薄青色の髪の青年、ゼト。この場にいるのは、ゼトが呼んだレジスタンスの構成員だ。ローブの影から銀色に光る目を覗かせて一人の女性が口を開いた。


「どうでしたか、ゼトさん。シルバーさんとはお会い出来ましたか?」

「ああ、何度か接触しているよ。まだ迷われているようで返事は貰えていないけどね。可能性はあると思う」


 ゼトの返事にその場は沸き立った。


「それは朗報ですね!忠剣八刃の彼を味方に加える事が出来れば、かなりの戦力増強です」

「いまだ参戦を渋っている地域も、これを期に追従してくれるかもしれませんしね」

「リーダーも喜ぶでしょう!」


 コンコン


 ふと、ノックの音が響いた。盛り上がっていた彼らも一瞬で静まり返り、扉を注視する。緊張走るその空気の中、ゼトだけが喜色を滲ませ笑顔を浮かべた。


「どうぞお入り下さい。お待ちしておりました」


 ガチャリ


 扉を開け現れたのは、灰茶髪の窶れた男。ざわりと構成員達に動揺が広がる。一緒に部屋に入ってきた小鳥がゼトの肩にとまった。


「招待に応じて下さり感謝します。シルバーさん」

「少しはまともな場所を用意できるじゃねえか。またボロ家かと思ったがな。で、そいつらは?」


 不機嫌そうなのはシルバーの通常運転だと解釈し、ゼトは構成員を振り返って穏やかに笑ってみせた。


「聞いて皆。知ってる人もいるね、彼が元忠剣八刃、シルバー・チェインさんだよ。シルバーさん、彼らはレジスタンスの仲間です。この度の作戦の為に集まってくれました」

「フーン……。ギルキメの一族もいんのか」


 シルバーが目をつけたのは、暗色の肌に白い紋様を彫り込んだ男達、ギルメキ一族。古い戦闘民族で、体中に彫られた独自の魔法陣と、半身と呼ばれる武器で派手に戦う。種族的には魚態系魔族の有鱗族にあたるが、鱗は頬に髪に隠れるほど小さくあるだけで、かなり原人に近い姿だ。

 ギルメキ一族から一人の男が前に歩み出て、ローブを脱ぐ。肌の殆どを埋め尽くすような独特の紋様が顕になった。


「俺はギルメキ一族若衆頭、ドグ。貴方の事は叔父から聞いて知っている。かつてギルメキの一番鉾を下した猛者であると」

「そんな事もあったな。お前、あれより強いのか?」

「今はまだ鉾にならんと精進する身……」

「ならいい。少し気になっただけだ」

「貴方ほどの戦士と共に戦える光栄、この未熟者の心に刻ませて頂く」


 ドグに続いて、他の構成員も代表者が名乗りを上げて頭を下げた。その全てを黙って聞いたシルバーは、一連の流れが途切れたとみて口を開く。


「言っておくが、俺はレジスタンスに協力すると決めてここに来た訳じゃねえ。そこの男に誠意を見せると言われたからその鳥に着いてきただけだ。過剰な期待はするな」


 その言葉に多少落胆したような雰囲気が流れるが、ゼトは変わらぬ微笑みのまま頷いた。


「はい。その誠意の一端として、僕だけでなく仲間も集まるこの場にご招待しました。これから僕らは計画の最終確認をします。全て包み隠さずお見せしましょう。そしてあわよくば、もう一度貴方にご助力をお願いしたい工程があるのです」

「まともな計画だといいがな」

「それは勿論。この計画の成功によって、流れる血を減らす事が出来るのです。皆真剣ですよ」


 ゼトが指を鳴らせば、空中に光が集まり、ヴェール領全図が浮かび上がった。構成員はそれが見えるよう囲んで位置取る。


「これはモナが上空から見たヴェール領です。そしてこれが皆が集めてくれた情報」


 輝く図像にゼトが手をかざすと、赤、緑、青の点や線がその上に重なった。


「この大きな赤い星がアレキンヴェール邸、緑の星はサンダンヴェール邸、青い星はライトンヴェール邸。小さい星はそれぞれの系統の貴族家です。輝度の差でその家が保持している戦力の差を示しています。この紫色の星は貴政城ですね」

「黄色の点は何だ」

「黄色は保有する武器の数です。事前に物流を乱したので、実は今市場にはほとんど武器がでまわっていません。そして御三家会議で大公達の目がそれている間に、御三家を含め貴族家に保管されている武器も大方を使用不能にしました」

「口で言う程簡単なことでは無いと思うが?」

「そこはこちらの秘策で対処しています」


 ゼトはそう言うと小柄な女性に目を向けた。彼女は先程柔魚族と名乗っていた。


「潜入工作は柔魚族の得意分野です!風景に擬態する水魔術、【水性擬態(アクアミミック)】なら監視の目なんてすり抜け放題ですから!ちなみに腐海亜竜の檻に花を投入したのも私達ですよ!」

「なるほど厄介な事だ」


 平時の監視くらいなら簡単に欺けるという訳だ。


「物質的な武器とは、魔法の使用に制限がかかる時に用いられる、ある種のブレーキなのです。武器を持っている者同士であれば、常識的に街中で突然危険な魔法を使ったりしないでしょう?」

「状況によりけりだろ、そんなもん」

「まあ確かに、一般論の域は出ませんが。もし武器が手元に無いときに襲われれば、魔法で応戦するのが一般的です。そしてより大きな混乱を演出するには、そちらの方が都合がいい」


 ゼトは図像の赤い星が固まっている地域と青い星が固まっている地域をそれぞれ線で囲むと、矢印で繋いだ。


「この計画の目的は、ヴェール領を混乱させ、疲弊させる事。まずは僕らが火種を起こし、アレキンヴェール派とライトンヴェール派を争わせます」

「火種ってのはどうやって?」

「アレキンヴェール大公がなにより大切にしている宝石。そのうちの一つ『龍の血雫』を盗み出します。龍の血雫は希少な鉱山でしか採れない赤黒い宝石の総称で、珍しいですがたとえ売却したとしても足がつくほど希少な訳ではないのです」

「で?」

「窃盗に気付いたアレキンヴェール大公が、ライトンヴェール大公に疑いを持つよう、既に仕向けてあります。ライトンヴェール大公にはすぐ大金が必要な事情として、芸術都市スチムバンでの競売があります。ライトンヴェール大公が欲しがっている武具の競売には他国の魔王まで手を伸ばしていますから、相当な大金が必要になるでしょう。ライトンヴェール大公が担当するここ数ヶ月の武具輸出入の激減、かつ儲かる持ち回りの遊闘技場運営は現在サンダンヴェール大公の担当で手を出せず、優越公が自分の家財やコレクションまで手放して金を用立てているとなれば、多少の疑念は生まれるはずです」

「随分回りくどいな」

「あくまでこの計画で争わせるのは貴族同士ですから。僕らや市民に矛先が向かないよう計画を調整するんですよ」


 残った色の星、緑色の星から矢印を伸ばして、それを領門の外へと繋ぐ。


「サンダンヴェール大公には騒動の間、外敵と交戦してもらいます。既に北の地で捕えた亜竜をヴェール領のすぐ外に運んであるので、それを放すという形ですね」

「まさか腐海亜竜じゃねえだろうな?」

「いえ、毒を持たない種類です。腐海亜竜は希少ですし、あれ一体だけですよ」


 言外に、腐海亜竜を用意したのもレジスタンスだと言っているようなものだ。どこまで手を回しているのだと、シルバーはゼトの澄ました顔を凝視する。


「さて、後はその場その場でいかに争いを激化する行動を取れるかという事になります」

「招集された俺達の出番というわけだな」

「その通り。皆はできるだけヴァンパイア系魔族を装ってデマを流したり、交戦に手を出したり、自警団の邪魔をしたりして欲しい。混乱を広げるための道具も用意してある」

「おう」

「わかったわ」

「頑張りますよ」


 構成員達は口々に了解した。


「そしてシルバーさん、貴方にお願いしたいのは、アレキンヴェール大公の宝石を盗み出す過程の一部です。皆からの情報や御三家会議の様子をみて、アレキンヴェール大公が同じ宝石を連続して身に着けるのは二日までと観察されました。龍の血雫は昨日今日と身に着けられていたと確認しています。暫くは別の宝石を身に着けるでしょう」

「そんな事まで確認するかよ普通」

「もし何も考えずに盗んだ宝石が売却不可の貴重品だった場合、動機が大金であるライトンヴェール大公に疑いが向き辛いでしょう?実際アレキンヴェール大公の宝石はそういった物が多いです。それを避けて売れる宝石を盗んだというところに、金目的の身内犯を疑う余地が出来るのです」

「そうかよ。で、どうすんだ」

「はい。シルバーさんには服飾室の鍵を盗ってきて頂き、屋敷に潜む柔魚族の誰かに渡して欲しいのです。鍵さえ手に入れば、後の侵入と窃盗は彼女たちに任せられます。ただ、鍵があるアレキンヴェール大公の私室は流石に警備が厳しく、常に殺気立った処刑人が番をしていて近付けません。表向きは事を荒らげず、相談したいとか話があるとか理由をつけて私室を訪ね、鍵を確保して下さい」


 アレキンヴェール大公の処刑人はいつでも殺気立っている事をシルバーは重々承知している。少しでも手柄を上げアレキンヴェール大公に献上する事、役目はただそれだけであるはずなのに、彼らは常に自分以外を蹴落としのし上がる事しか考えていない。実力主義と銘打ちそれを煽っているのが主であるから、仕方がないのだけれど。


「話は分かった。だが、全ての道筋を頭に入れておけよ。俺はまだ一人の処刑人シルバー・チェインだ」

「承知しています。この計画が成功した後、レジスタンスのシルバー・チェイン、あるいは、旗印の刃となって頂けるよう、僕らも尽力致します」

「好きにしな」


 シルバーは立ち上がって背を向けた。その背中にゼトが一礼すると、他の構成員達も向き直って頭を下げる。無言の期待を肩に乗せられて、シルバーはその場を去った。

 シルバーの背中を見届けた後、構成員の彼らは口々にシルバーについて語った。強そう、凄そうという曖昧な称賛から、立ち振る舞いの洗練さを語る者、身に付いた筋肉から武器を想像する者。話題に上がるのは、シルバーに対して好意的な意見ばかりだった。


「絶対仲間になってもらいたい!」

「はじめは髪もボサボサで死んだ目してたのは気になったけど、ちゃんと一回で作戦把握してたし、なんの緊張もなく隠密任務引き受けてくれた時は格好いいって思った〜」

「噂通り、かなりの強者とお見受けした」


 年齢も種族もバラバラの彼ら。構成員達はそれぞれの中立派地域から名乗りを上げてレジスタンスに参加している、元々は普通の市民だ。そして従来、部族や領地を守っていたそれぞれの技や特性を、今はこのレジスタンスに集約させ、より大きな存在と戦わんとしている。


「そうだね。シルバーさんの勧誘は、最重要課題だ。だから、まだ踏ん切りがつかない彼の為にも、この計画は成功させなければならない」

「はい!見せてやりましょう、私達の意志を!」

「平和ボケしてる魔王派に、我らの悲嘆を少しでも伝えましょう」

「中立派の思いを、苦悩を」

「淘汰されてはいけないこの意志を!」

「「我らは戦う!この意志を消さないために!」」


 爛々と目を輝かせる者、切実な願いを持つ者、激しい怒りを燃やす者。バラバラでありながら、その心はひとつだ。


「うん。戦おう。僕らは搾取や支配の犠牲者にはならない。数の暴力に屈しない。意志のあるレジスタンスだ」


 ゼトもまた、彼らと心をひとつに。

 このヴェール領に混沌を齎す。




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