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守護の魔王─最弱魔王の転生─  作者: 芯ノ一
はじまりと出会い
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霊泉精霊

 

 彼は名を名乗り、泉の上に姿を現した。精霊特有の上半身の露出が多い服装で、過多な装飾。腰や肩に垂らされた布が、重力を無視するようにひらひらと揺らめいている。腹や腕や顔などの肌が露出した箇所には刺青のような紋様が覗く、細身の男体の精霊だ。にこやかで、敵意がある様子ではない。

 そして霊泉精霊レイの持つ色は、髪、肌、目、全て真っ白だった。今しがた泉に写った自分の肌よりさらに白い、作り物のような白肌である。


「流石は元魔王。産まれたてなのに、なんとも細密な読みだね。精霊の気で満たされたこの森で、あんなに遠くの魔族を見つけるなんて」


 レイは楽しそうにニコニコ笑う。耳に付いた透明な飾りが揺れてキラリと光った。


「お褒めに預かり光栄だ」

「うん。その感じなら、中身には問題ないかな。一応念の為、調べさせてね」


 泉の上を歩いて、レイはリアンに近付く。鏡のような水面には、波一つ立たない。レイはリアンの目の前まで来ると、ぐっとしゃがみ込んで、視線の高さを合わせた。


「んー」


 リアンの腕を取ったり、指先を見たり、首筋に手を当てたと思えば頭をペシペシ叩いてみたり。リアンはレイのなすがままにその奇行を受け入れた。精霊は基本的にマイペースである。


「脚、どう?やっぱり立てない?」


 レイは突然そう問うた。リアンの足が使えないことを知っているらしい。


「無理そうだ」

「ん〜〜〜残念。完璧に創ったと思ったのになー」

「この身体をか?」

「うん。そう。レイが創ったの。無血族って聞いたことある?それか無性族とか白魔族とか無彩族とか精霊族とか。まあレイは纏めて無血族って呼んでるんだけど」

「……無彩族、という種族なら、書物で読んだ覚えがある」


 確か、色を持たない魔人系魔族であったとリアンは記憶を辿る。


「そうそれも無血族の事だね。数が少なくて希少だから、地方で名前が違うんだ。そして無血族はね、精霊の泉から産まれるんだよ」

「精霊の泉から産まれる?」


 森エルフ一族の一部に、樹木から産まれる者がいたそうだが、それと同じようなものだろうかと考えた。


「エルフにさ、木から産まれるタイプのがいるでしょ。それと同じ」

「そうか」


 合っていたようだ。


「レイは、精霊の泉を司る精霊。精霊の泉から産まれる無血族も管轄なんだ。無血族そのものを司る精霊や、泉を形成する精霊の森を司る精霊も皆仲間。レイが一番偉いけどね!」

「ほう」

「だからレイに声が掛けられてたの。普通なら新しく産まれる魔族の身体をわざわざ創ったりしないよ?無血族は時期がくると勝手に産まれるんだ。レイが皆の力を借りてわざわざこの身体を創ったのは、魔王リアンの魂を入れる器にするため」

「……」


 レイは真っ直ぐにリアンを見つめ、人差し指でその身体の心臓部分をトンと指した。


「キミの名前はリアン・ベスト。元守護の魔王で、四十年前、人間によって殺された。ちゃんと覚えてる?」

「……悪い夢、というオチにはならないか」


 リアンは自嘲するようにレイから目を逸らした。自身の敗北を聞かされれば良い気はしない。それを見てレイは話し出す。


「残念ながら、夢じゃないよ。もうびっくりしちゃったよ。二界からじゃここはあんまりよく見えないし、てかそもそも戦争に興味なかったし、詳しくは知らないけど。だって何もしなくても、レイの泉はキミが守ってくれたからね、そこは見てたよ、ちゃんと結界張りに来てくれたでしょ。だから安心?慢心?大丈夫だって思ってたんだけど、いや泉は大丈夫だったんだけど、まさか魔王様が死んじゃうなんてね?本当びっくりした……。まあそれよりもっとびっくりしたのはその後なんだけど」


 聞いて聞いてと言うように、レイはリアンの肩を叩く。


「古参で大物の大精霊達が、こぞってキミをこの世に引き留めようとしたんだよ。なんで?」

「精霊達が……」


 レイとリアンはどちらも驚いたような顔をしていた。


「レイだってね、一応結構上位の司精霊なの。仲間もたくさんいるし、そこそこ忙しいし。だからそう、リアンには悪いけどこの話が来たとき面倒だと思って断ろうとしてたの。微妙に専門じゃないから仲間の力を借りなきゃだし、でも仲間だけじゃ力が足りなくて出来ないって言うし。仲間っていっても一応立場的には僕が上司だから、仲間の分も断ってやろうとしたわけ。でも流石にクロックォ様に頭を下げられたら断れないよね」

「時間精霊クロックォ、か」

「そう。リアンの魂を四十年もこの世に留めたのは彼だよ。記憶も飛んでないみたいだし、流石時間を司る精霊って感じ。魂の時間まで制御しちゃうなんてね」


 時間精霊クロックォ。その名の通り時間を司る司精霊。リアンは昔、それこそ現代に復活するよりも昔、大陸大戦の時代にクロックォと知り合っている。


「でも、規則だ伝統だなんだに厳しいクロックォ様が、なんで魔王とはいえただひとりの有角族を特別扱いしたのか。レイはとても不思議に思うんだ」


 そう、彼は厳しい精霊だったなと、リアンは少し懐かしい気持ちになった。レイはそんなリアンをみてさらに疑問を募らせる。


「クロックォ様だけじゃない。他にも複数の上位精霊がキミ、リアン・ベストを生き返らせようと奔走した。レイには特別凄い魔族には見えないんだけど?キミは、一体何者?」

「彼らから聞いてくれ。私から言えるのは、私がリアン・ベストだということだけだ」

「ケチだなー」


 レイは立ち上がって周囲に目を向ける。そして軽く伸びをするように腕を伸ばした。


「ま、今は時間無いし。それはまた今度。とりあえずこれ、渡しとくね。彼らからリアンへの贈り物だよ」


 レイが手を翳すと、レイの足元の泉が輝き、何かが迫り出した。泉の岸までそれをふわふわ浮かべながら移動し、レイはリアンを振り返る。リアンは腕でそちらに移動しようとしたが、再び側に来たレイが魔法で宙を浮せて移動させた。つま先からぽたぽたと水が落ちる。


「便利な魔法だな。どういう仕組みだ?」

「うーん……分からないなー。言われてみれば、意識して魔法使ってるってわけでもないし?感覚?」

「そうか」


 精霊特有の能力なのかもしれない。リアンは残念に思いながら芝生の地面に降りた。レイは贈り物の包を取る。


「おおー。服だ。どうなの、格好いいのかな?魔族的には」

「いいんじゃないか。贈り物と言ったが、誰からだ?」

「精霊達だよ。生き返らせた後放置って訳にもいかないでしょ。お察しの通りレイが説明役なわけだけど、レイここから出るの大変だし。泉より先はリアンひとりで行ってもらうしかないの。だから、それ用の贈り物。どれが誰からかは忘れた」


 レイが贈り物といって差し出したのは、複数の服が入った鞄と、靴、現金、そして──。


「おお。凄いな」

「何これ。椅子?」


 肩ほどまでの背もたれがある魔動式自走椅子だった。艶のある木製で、肘掛けの高さ近くまである大きな後輪が側面に見えているのが特徴的なデザインだ。足置きらしい可動式のパーツの横に手のひらほどの小さな前輪が付いている。


「自走椅子だ。私は足が使えないからな。有り難い」

「へえ〜」


 レイは興味深そうに自走椅子の周りをふわふわ飛んだり、座ってみたりしている。子供のようだ。


「レイよ。説明役と言ったな。色々と聞きたい事がある」

「いいよ。小精霊たちが戻ってくるくらいまで暇だし。あー、でも、リアン起こすのに結構力使ったから、そんなに時間ないかも」


 色々なボタンを弄ったり、肘おきに脚をかけ寝転がってみたり、レイは自走椅子を満喫している。

 リアンはシャツを身に着けながらレイに何を聞こうかと考えを巡らせた。聞きたいことは山のようにある。


「私は四十年前に死んだと言ったな。つまり、今はあれから四十年たっているのか」

「そうだよ。四十年かけてリアンの魔力をかき集めたり、器を創ったり、それに魂込めたり。レイはほとんどニ界にいたから、一界で何があったかの詳しいところは知らないけど、特に大きな戦争とかは起こってないよ」

「そうか。それは良い事だ。ニ界にまで届く戦争が始まったとなれば、四十年では収まらないだろう」

「戦争がニ界に届く事ってやっぱりあるの?」

「知らないのか?大陸大戦後の生まれか。若いな」

「ちょっと。やめてよ。レイはもう立派な一人前の精霊だよ!この身体創ったのレイだよ!」

「そうか」

「そうだよ!」


 レイは大袈裟に不機嫌面をしてみせる。宙に漂う布がゆらゆらと揺れている。子供のようだ。


「ここは守護の国か?名前は変わっているのだろうが」

「そうだよ。旧守護の国の、東端の精霊の森!今は……なんだっけ、猛炎の国?だったと思うけど」

「猛炎の国………か……」


 猛炎の君、確かリーヴェレイドがそう呼ばれていた。リーヴェレイドが魔王になったか。リアンはなんとも言えない苦い気持ちになる。心配、不安、と言われるものだ。リーヴェレイドは大丈夫だろうか。感情的になりやすく、なまじ力のある彼は常にリアンの心配の種だった。

 リアンは暗い考えを振り払ってレイに手伝いをお願いする。下の服を着るのはひとりでは難しい。レイはリアンを宙に浮かせて着衣を手伝い、ついでに自走椅子へと座らせた。


「お。似合うね」

「そうか」


 魔族の美的感覚とはズレているだろう精霊のお墨付きは、どうなんだろうか。リアンの脳裏にそんな疑問が一瞬浮かんだ。しかし贈られた服はどれも自然に上品なデザインで、強いて言えば黒っぽいが落ち着いていて良いとリアンは思う。


「そうだ。折角だからレイからも贈り物。これ、あげるよ」


 レイは自分の身に着けていたいくつもの腕飾りから一つ取り外し、リアンに差し出した。水滴が連なったような、透明で美しい腕飾りだった。真っ白な手で差し出されたそれが木漏れ日に反射してちらちらと光る。


「いいのか?」

「うん。今のリアンは無血族だから、レイの力と相性いいはずだよ。リアンの助けになると思う」

「心遣い感謝する。とても綺麗だ」

「でしょ?」


 レイが自慢するようにターンして他の装飾品をきらめかせる。口調は子供のようでもあるのに、森林の光を受けて舞うレイは精霊独特の神々しさのようなものを感じさせた。


「……何故、精霊達は私を生き返らせたのだろうか」


 精霊というのは、不思議な存在だ。この世界とは別の空間に住み、けれどこの世界とはどうしても密接して存在する。計り知れない力を持ち、時にそれを人々に貸したりもする。時に残酷で、恐ろしい。けれど確かに人格があり、絆を育む事もできる隣人でもある。


「また、何か使命が生まれたか。私に何かを望むのか」


 何の為に生きるのか、などというのは愚問。誰に決められるものでもない。しかし時に、使命というものは無作為に齎される。


「……どうだろうね」


 レイは動きを止め、ふわりと宙に浮かんだ。心中の読めない神妙な笑みをたたえて、レイは言う。


「レイには分からない。知らされてない。けど、リアンにはちゃんと生きて欲しいって思うよ。折角レイが創ってあげた身体、ちゃんと生きて、大切に使ってね」

「……ああ。了解した」


ありがとうございます。

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