第八話 パーティ結成
バトラーがクロックを羽交い締めにする。
「トーラお嬢様!今です!やっちゃってください!」
「しまったぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
クロックがバトラーの拘束から抜け出そうと必死に暴れている。
ふふふ…まさかここまで上手くいくとは思ってなかった。
戦闘で全く役に立たない俺が思いついた策は、トーラちゃんの可愛さを武器に相手を懐柔させるという物だ。
俺はクロックの思考は発言、言動からしておそらく自分の高校時代に近いのではないかと考えた。その頃から中二病を患っていた俺だが、同時にロリコンでもあったのだ。
本人が言うのだから間違いない。
つまり、結局ヤツもロリコンなのだ。
そうと決まればあとは簡単だ。両親を殺された悲劇の少女を演じて相手の良心の呵責に刺激を与える。お前が私のパパとママを殺したんだぞ、と。その際に同人誌で学んだ可愛い仕草でもすればさらに良い。
これでクロックの気は大分散るはずだ。
―結果は大成功。どうすれば良いか分からず呆然と立ちすくしたクロックをバトラーが見事に押さえつけてくれた。
クロックが馬鹿で助かったよ、全く。
俺はバトラーに返事をする。
「うん。パパとママのかたき!!」
「やめろぉ!!!お前ら!こんな少女を餌にして卑怯だぞ!!」
「こんな見え見えな罠に釣られる方が悪い」
バトラーがピシャリと一蹴する。
「クソがぁぁぁぁぁぁぁ!!」
クロックは手足をジタバタさせる。そろそろ楽にしてやるよ…。
「じゃあ、おやすみ」
俺はクロックの首筋に牙を立てた。
こうして、俺の初めての眷属が生まれたのであった。
○○○
激しい戦闘で、周辺のの魔物達が騒がしくなっていたので、俺たちは場所を移動することにした。
「ここら辺でよろしいですか?」
バトラーは迷宮の袋小路で足を止める。
「うん。ここまで来たら魔物も少ないんじゃない?」
バトラーが背負っていたクロックを地面に乱暴に落とす。
ゴツンと勢いよく頭をぶつけたクロックは頭をさすりながらゆっくりと起き上がった。
「うっ!…ここは…?」
「おはよう、クロック。ここはヴァドロン大迷宮。わたしの名前はトーラ、こっちにいるのがバトラー。そして、あなたはわたしの眷属」
「我が…眷属?」
どうやらクロックは状況がうまく飲み込めないらしい。まあ無理もないか。
「わ、我は・・確か生き残りの吸血鬼と戦って…」
クロックは何か思い出したかのような顔をした。
「そ、そうだ!!我はそこでトーラ様の美貌と涙無しには語れない素晴らしい演説に魅了され、あなたの眷属になったのでしたね!」
なんだコイツ…さっきまで吸血鬼は全員滅ぼしてやる!!とか言ってたくせに。
俺はバトラーに耳打ちする。
(ねえ・・バトラー、これでいいの??一応これあなたの仇なんでしょ?)
(ええ、今すぐにでも殺してやりたいですが、これはこれで使えるのです。コイツの戦力は将来トーラお嬢様のお役に立つでしょう。)
まあ確かに強いけどさー…。コイツ、昔の俺みたいでイライラするし長時間見てるの嫌なんだよなー。
二人でヒソヒソ話をしていると、クロックが割り込んできた。
「一体何の話をしているのですか?二人で内緒話なんてずるいです!我にも聞かせてください!」
「やだ」
「なんでですかぁ!?」
「クロック、うるさいもん」
「そんな!」
「それに…なんか見てるとイライラする」
「ひどい!!トーラ様!あなたは我に可愛いと仰っていました!我は忘れていませんよ!」
「う…」
なんでコイツ余計な事はしっかり覚えているんだよ!そんなとこも昔の俺にそっくりだな!
「あと、『我』ってやめて。聞いてて吐き気がる。」
「『我』は一番カッコいい一人称ですよ!?それをやめろと言わましても…」
あたふたするクロックに俺はジト目を向ける。あの言動は黒歴史を思い出すので嫌なんだよ。
「ぐ…分かりました…我…私はもう二度と『我』と言いません…」
クロックがしょんぼりしているとバトラーが真剣な顔でクロックに聞いた。
「それで、お前は現在どれくらい戦えるんだ?トーラお嬢様の眷属になって何か変わった事は?」
「あ、はい。我、私が感じたことでいいですか?」
「ああ」
「そうですね…まず初めに食欲と睡眠欲が減りました。ですが、血を飲んでみたいと思うようになりましたね!!特にトーラ様の!!」
ハァハァ言いながらクロックは語る。俺はサッとバトラーの後ろに隠れた。
「後はリミッターが外れたような気がします。」
「「リミッター?」」
俺とバトラーが同時に問う。
「はい。以前よりも力が溢れてくるのが分かるんです。これならより強力な魔法を唱えられるでしょう。」
「お前はどんな魔法を使えるんだ?さっきの戦いではお前は魔法を使っていないだろう。」
「そうですね…私が一番得意とするのは吸血鬼の弱点属性である聖属性の魔法でしょうか。ですが、吸血鬼が聖属性の魔法を使うと自分にもダメージが入るようですね!!」
ドヤ顔でクロックは言う。何そのドM仕様…。
「まあ私にはこの二丁拳銃がありますので、心配ご無用です!」
「は、はあ」
確かにクロックは魔法が無くても充分過ぎるほど強い。二丁拳銃だけでも大きな戦力になるだろう。
「ふふふ…これからは私がトーラ様の右腕として討伐だろうが雑務だろうが何でもこなしてみせましょう!!」
「こんな右腕、いらない。バトラーがいい。」
俺はバトラーの右腕に抱きつく。
「と、いうことだ。悪いがその席はもう無いぞ。」
「くっ…ちょっとカッコいいからって調子に乗りやがって!!」
「ああん?」
「はあ?」
二人はバチバチと睨み合っている。
こうして、ロリコン吸血姫と黒歴史ハンターと有能執事の三人パーティが出来たのであった。