第七話 俺は俺 ロリコンはロリコン
「はーはっはっは!!まさかここまで吸血鬼が落ちぶれていたとはなぁ!!これでは面白みに欠けるではないか!!もっと我を愉しませることは出来んのか!?」
クロックの銃撃は止むことなくバトラーに降り注ぐ。なんとか魔法で応戦しているが、いずれジリ貧で負けてしまうだろう。
俺はそんな光景を、何も出来ずにただただ見つめていた。
正直言って今の俺は何の役にも立っていない。ただバトラーが勝つことを、囚われの姫のように遠くから祈ることしかできなかった。
トーラちゃんのスペックはおそらくクロックに並ぶ程度には高いはずだ。だが、俺がその能力を発揮できずにいる。
魔法は初歩しか使えないし、身体能力は高いのに、制御が上手く出来ない。明らかに経験と練習が足りなかった。
何か!何か出来ることはないのか!?
先程から血弾を打ってみたり、パンチや蹴りを繰り返してはいるものの、クロックはこちらを見向きもしない。
「わたしと戦え!こっちを見ろ!」
俺は注意を引きつけるよう大声で叫ぶ。それに対してクロックは酷く冷徹な反応をする。
「お前はもういい。我を満足させる実力を持っていない。城の中に引きこもってばかりいる無能な姫は殺す価値すらない」
「それに安心しろ。お前の執事はそろそろ死ぬからなぁ!!」
クロックは高らかに笑う。それは弱者をいたぶる強者の顔だった。
「バトラー・・・」
俺は不安そうにバトラーを見つめる。
「大丈夫です。今すぐこの我が宿敵を滅ぼし、トーラ様の元に参ります。」
バトラーは明らかに無理をしている。とても弱々しい声だった。
クロックの二丁拳銃はゲームに出てくる最上級のレアリティで、威力、弾速もさることながら、その何よりの特徴は、自動装填だ。本来隙があるはずの拳銃だか、この二丁拳銃にはそれがない。まさにゲームの終盤に相応しい武器だ。
対して、バトラーの魔法も負けてはいないが、こちらの方が魔力の消費が多い。あの量の弾を、魔法の精密射撃で撃ち落とすだけで凄いのだ。その技は俺には到底できない、バトラーでしか成し得ない神業だ。さすが姫を守るために作られたキャラクターと言う所だろうか。
相手の弾丸がバトラーの頰を掠める。徐々に攻撃を捌けなくなっている証拠だ。
「流石は歴代最強のヴァンパイアハンター。その腕前、感服いたしました。」
バトラーは顔をしかめる。
「はっはっはっは!!そうだ。もっと我を褒めるがいい!」
クロックは完全に調子に乗っていた。何故こんな奴が強いのだろうか。ホント腹立つ。まるで異世界転生の主人公みたいに理不尽な強さだ。この俺の分身みたいな奴のクセに・・・。
ん?俺の分身?
自分の言葉を復唱する。
分かった、分かったぞ。コイツに勝つ唯一の方法が。
コイツが俺だとしたらの弱点は俺と同じだ。そして俺と同じ同志でもある。
俺はこれから起こるであろう事を想像し、不敵に笑った。
○○○
Side クロック
つまらぬ、非常につまらぬ。
我は吸血鬼の姫は王と王妃よりも強いと聞いていたので、慢心せずに十年間も修行してきたというのに一体なんなんだこの姫は。
碌に魔法も使えず、動きも非常に雑。今戦っている執事の方がよっぽどマシではないか。
コイツらが吸血鬼最後の生き残りか・・・。コイツを倒すと、もう我は戦えないのか。
せめてもう一度血が沸き立つ戦いをしてみたかった。
そういえば、〈真祖〉がこの地のどこかに封印されていると聞いたことがある。ソイツは強ければいいのだがな。
…さて、もう十分に強さは分かった事だし、そろそろこの吸血鬼を楽にしてやるか。
我は吸血鬼殺しに欠かせない〈銀の弾丸〉の準備をする。
この弾丸は心臓に当てないと効果がない。だから我はほぼゼロ距離で撃つように心掛けている。
我は執事との距離を縮める。執事吸血鬼は何やら魔法で応戦しようとしているがあまりにも遅い。
「無駄だ」
片手で吸血鬼の首を掴み地面に押し倒す。
そして銃口を心臓に向ける。これが我の必勝パターンだ。
執事は覚悟したように口を開く。
「トーラお嬢様・・・私は先に逝きます・・・またあなたを守れなかった」
「無能な姫を守るというのは随分大変なんだな。呪うなら吸血鬼に生まれたこと、そして主人を呪うがいい」
そう言い放つと、執事が不敵に笑う。
「あなたはお嬢様の本当の力を知らない。私が死んでもお嬢様はなんとかしてくれるさ」
この執事はどうやら姫に心酔しているらしい。全く哀れな男だ。
「最期の言葉はそれでいいのか?じゃあ、死ね」
我は拳銃のトリガを引こうとする。その時だった。
「もうやめてぇぇぇぇぇぇ!!!!」
吸血鬼の姫が叫ぶ。なんだ?命乞いか?全く、この期に及んで止めるわけないだろう。
「なんで、あなたはわたしから何もかも奪っていくの・・・?」
「なんで、そんな簡単に殺せるの・・・?」
無垢な少女がこちらを物悲しげな目で見つめる。その儚げな姿は非常に可愛かった。
クソ、卑怯だ。こんなの・・・!!殺意が鈍る!
「煩い!誰かがやらなくちゃいけないんだよ!ヴァンパイアは悪だ!人々を恐怖に陥れた張本人だ!」
「……あなた達こそどうなの?わたし達を何人も虐殺したわ。力を持たない、無抵抗の者ですらね。殺す時のあなた達の顔は嬉々としていた…。そんな非道な行いができる人達をまだ正義と言い張るの…?」
少女は目に涙を含ませながら訴える。過去の同朋達に思いを馳せながら。
その姿はまるで女神のようだった。人間と吸血鬼の無様な争いに涙する女神のような存在に見えた。
なんて可愛いのだろう。
–––騙されるな!奴は我を陥れようとしているだけだ!
必死に自分を律しようとする。
「隙あり」
「しまっ–––」
執事が我に蹴りを入れ拘束から抜ける。
「クソっ––––」
逃すまいと銃を乱射する。たが、その攻撃は執事吸血鬼には当たらない。
「どうした?攻撃に迷いがあるぞ、お前も我が姫の可愛さがやっと理解できたらしいな」
コイツ親バカだ…!などと言える時間もなく、我は必死に体制を立て直そうとする。
「〈血撃〉」
執事の魔法で我の拳銃が手から落ちる。それはそのままは床に落ち、回りながら地面を滑っていった。
そんな中、少女は我に語り続ける。
「それにあなた…とても可愛いじゃない。そんな拳銃、とても似合わないわ」
「我が、この我が可愛い…?」
そんなこと、今まで一度も言われた事なかった。ただ戦場でヴァンパイア共と戦い続ける毎日。女の子らしい事はただの一度もしたことがない。
そんな中、この少女は天使のような笑顔でで可愛い、と言った。自分で褒めることはあっても、相手に褒められる経験がない我は、顔が真っ赤になった。
「う、う、煩い!我は騙されないぞ!我は誇り高きヴァンパイアハンター!!こんな甘い言葉にに我は屈しない!」
「あら、顔が真っ赤よ?」
少女がニコニコと笑う。クソ―!卑怯だ!
今までに目覚めなかった感情が芽生えそうになる。これは危険だ。我はどうすればいいか分からず呆然と立ちすくしてしまった。
そして、いつの間にか我はガシッと後ろから羽交い締めにされてしまった。
「トーラお嬢様!今です!やっちゃってください!」
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」