第二話 強制ロールプレイ
「トーラお嬢様じょうさま!トーラお嬢様じょうさま!お目覚めになられたのですか!」
……誰?
俺はノックされた扉を開いた。
そこにはパリッとスーツを着こなした黒髪の執事が凛と立っていた。
なにコイツ。メチャクチャ美少年なんだけど……日本だったら確実にアイドルになれる素質がありそうだ。
くっそ!俺も前世はこんな顔に生まれたかったなー!!
まあ今は美少女なので関係ないけど!
「トーラお嬢様、どうかなされましたか?ボーっとして。まだお目覚めになられたばかりでお疲れなのでしょう。無理はなさらないでください。あなたは私達吸血鬼の最後の希望なのですから。」
俺はその美少年の顔をまじまじと見つめる。
…コイツどっかで見たことあるなと思ったら<吸血姫とヴァンパイアハンター>のVSトーラ戦で隣についてくる超有能執事だ。こいつがアホみたいに強かった。|際限なく打たれる援護魔法に、ヘイト集中による鉄壁の守り。それはトーラに指一本触れさせない完璧の布陣だった。
どうしよう。なんか罪悪感が…。
あなたのお嬢様、中身ロリコンの大学生ですよ。なんて口が裂けても言えない。
とりあえず演技するか…
と、思ったがこれからトーラちゃんを演じ続けるのは難しいだろう。俺にはあの最高に可愛い美少女を演じるなんて無理。ましては下手な演技でこの美少女の人格を汚したくはない。
俺は諦め正直に答えようとした。
(実は、俺はトーラちゃんではないんだよ。中身はただのロリコンの大学生だ)
「ごめん…私…違うの」
自分から発せられた言葉に驚きを隠せなかった。思ったように言葉が出ない。
「まだ混乱されているのですね。お邪魔でしょうから、私はいなくなります。落ち着いたら大広間までお越しください。私はそちらで待機しております。」
なんかすごい都合よく解釈してくれた。
バトラーは丁寧にお辞儀をして部屋を出て行った。
「おちつけ…わたし…」
自分が発したとは思えない可愛い声が聞こえる。はぁぁぁぁぁ…!やっぱりトーラちゃんは可愛い!
ってそうじゃなくて!
状況を整理しよう。まず初めに、俺はさっき中身がロリコン大学生であると 真実を告白しようとした。だが上手く喋れずに執事に誤解されてしまった。
そうだな…少し試してみるか。
まずは自分の前世の自己紹介をしてみることにした。
「私の名前はトーラ・カーミラー。カーミラー家最後の生き残り。起きたのは二日前。」
姿見に向かって自己紹介してみる。
「ってちがーーーーーーーう!!!!」
俺は思わず叫んだ。
なんで現在の状況説明してんだよ!
その他にも色々実験してみる。
姿見で一人しりとりしたり前世の家族構成を語ってみたり、同志であるエンジェルさんの事を話したり、異世界転生の経緯を話したりしてみた。
「あー!!もうーー!」
どうなってるんだ…一体。
分かった事は二つ。
・前世の記憶を喋ることが出来ないこと。
・異世界転生の経緯を話すことが出来ないこと。
なんか強制的にトーラというキャラを演じているみたいだ。
…もしかしてこれ、ロールプレイ的な?
ま、いっか。このトーラちゃんが可愛いならそれで。
俺は酷く楽観主義者だった。